※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

プラスチックによる環境問題が提起されて久しいが、プラスチックとは本当に「悪者」なのだろうか?私たちの生活を豊かにしてくれているこの素材と、正面から向き合っている企業がどれほどあるだろう?

そのうちの一つが、富山県の丸喜産業株式会社だ。同社はプラスチック原料メーカーとしての責任をリサイクルで果たすと同時に、環境と共存可能なプラスチックの開発にも取り組んでいる。代表取締役社長の小薗雄治氏にどのような事業に取り組み、どんな将来ビジョンを見ているのかうかがった。

工場のマネジメント経験を買われて入社1年で社長に就任

ーー小薗社長の経歴をお聞かせください。

小薗雄治:
大学ではポリマーフィジックスを専門に学び、その後、高分子の研究開発分野に従事しておりましたが、ご縁があって、前職では生活協同組合コープさっぽろの食品工場にて約700名のマネジメントを行い、経営改善の仕事に従事いたしました。

弊社に入社したのは2018年のことです。工場のマネジメントで得た経営知識をさらに生かすため、製造のマネジメント職として入社しました。

そのころは経営が創業社長から投資ファンドに移行する過渡期でした。新たな社長を社外から招聘するはずだったのですが、良い人材が見つからず、そこで声がかかったのが私でした。異例のスピードでの社長就任でしたが、沈みゆく船をどうにかしなければという強い気持ちが根底にあったため、しばらく悩みましたが、最終的にお引き受けいたしました。

社長に就任してからは、安全衛生及び品質管理体制の構築、既存事業のブラッシュアップや新素材の開発、新規事業の立ち上げなどに取り組んでいます。元々の専門分野である「レオロジー(※1)」の知識も生かし、プラスチックリサイクル分野における新たな価値の創造に取り組んでいます。

(※1)レオロジー:流動学(物質の変形及び流動に関する学問)

旧体制と新体制を統合する難しさ

ーー社長に就任後に注力したことは何ですか?

小薗雄治:
現在も継続して取り組んでいるのですが、旧体制から新体制への移行に苦労しました。

弊社は体制が変わるまでの間、約47年間に渡り、創業社長が運営してきた会社です。そこから急に投資ファンドへと運営が変わったので、社長就任当時は旧体制と新体制が入り混じった、統一感のない状態だったのです。

そこで、まずパーパス(会社の意義)、ミッション(使命)、ビジョン(将来像)、バリュー(会社の価値)の策定に取り組みました。社員たちが同じ価値観のもとで協力し合える環境をつくりたかったのです。

策定当時はちょうどコロナ禍で大人数で集まることができず、密にならないように少人数ずつ集め、社員全員に繰り返し伝え続けました。年間で50回ほどの会合を3年間に渡って繰り返し行いました。

プラスチック原料の製造からリサイクルまでを総合的にカバー

ーー貴社の事業内容を教えてください。

小薗雄治:
プラスチック原料の製造と販売です。業務を大きく区分すると、「原料販売」「着色加工」「リサイクル」の3つに分けられます。

「原料販売」では、バージン材(※2)からオフグレード材(※3)まで幅広い在庫があり、「着色加工」では、CCM(コンピューターカラーマッチングシステム)による緻密な色管理も可能です。

中でも力を入れているのが「リサイクル」です。自社のある富山県を中心に、石川県や福井県、新潟県、長野県などのプラスチック成形メーカー様の製造工場から、年間約1万2000tの端材を回収させていただいています。

(※2)バージン材:石油化学メーカー様で製造される新材
(※3)オフグレード材:ロットの切り替え等で発生する規格外のもの

自らが変わり続けるからこそ「変わらないもの」を守れる

ーー組織の行動指針や大事にしている価値観をお聞かせください。

小薗雄治:
「変わらないものを守るために自分たちが変わる」ことです。「お客様のメリットを第一に考える」という普遍の理念を守るために、私たち自らが変わり続ける。会社の存続における一番のリスクとは「変わらないこと」です。

まずはトップである私が考えや行動を変え、社員の「心理的安全性」を担保し、社員同士のコミュニケーションを活発化させることから始めていきました。

ほかにも役職に関係なく感謝の言葉をかけあったり、社長あての目安箱を設置したりと、精神的垣根を取り払う施策に取り組んでいます。

目指すのは「次世代の子どもたちが笑顔で暮らせる社会」への貢献

ーー今後、特に注力したいテーマは何ですか?

小薗雄治:
リサイクルの軸をさらに強化し、世界中で課題となっているプラスチック問題の解決を目指し、「サステナブルスタンダード」となるような会社を目指しています。

海洋プラスチックやCO2の問題は、AIやデジタルの力を活用すれば効率的に解決に導けると考えています。具体策の例を挙げると、現在、生産工程を効率化するAIモデルを大手メーカー様と開発中です。

また、現状は商品として出荷するには性能が足りないリサイクル材に対して、新たな価値を付与するために、AIによる素材の高付加価値化の取り組みも同時に進めています。実現すれば、DXによる顧客起点の価値創出へとつながると考えています。

またすでにパラレジンという、非可食のバイオマス原料100%のプラスチックの開発がコンソーシアムで進んでおり、カーボンニュートラルやリサイクル率100%も夢物語ではありません。次世代の子どもたちが笑顔で暮らせる社会を実現するために、社会的課題の解決に取り組んでいきます。

先が見通せない時代を生きるベースを鍛える環境を完備

ーーこの記事の読者にメッセージをお願いします。

小薗雄治:
コロナ禍のように、世界はいつ、何が起こるか分からない時代に突入しました。これからのビジネス環境で生き抜いていくには、特殊な状況においても冷静に判断ができる力を鍛え続けねばならないでしょう。

富山県という地方都市においては、投資ファンドが入っている企業は片手で数えるほどしかありません。地方において投資ファンドが手掛ける優秀な経営チームを身近で見られる機会は少ないので、これだけでも弊社にジョインいただく価値はあると思います。

また、弊社の根本的な役割は「社会を良い方向へ変えていく」という社会的意義が高いものです。ダイナミックな成長と社会貢献が両立した環境で、ぜひあなたの可能性を発揮してください。

編集後記

丸喜産業はプラスチック原料のメーカーではあるが、小薗社長の視線はすでにプラスチック問題の解決に向けられている。プラスチック問題を解決するのは国でも人々でもない、当事者たるメーカーだという心構えがうかがい知れる。小薗社長はきっとこの大きな問題を明るい方へと導いてくれるだろう。

小薗雄治/1977年熊本県生まれ、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。2012年にコープさっぽろに入協し、工場マネジメントに従事。IE(インダストリアル・エンジニアリング)、後補充生産方式、並びに、グロービス経営大学院のMMPなどに学ぶ。2018年に丸喜産業へ入社。製造部門のマネジメントに従事し、2019年に同社代表取締役社長に就任。