※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

航空会社にとって、機内食は乗客の満足度を左右する重要な要素の一つだ。しかし、高度1万メートルの上空でおいしく安全な食事を提供するには、さまざまな課題がある。ジャルロイヤルケータリング株式会社は、こうした課題に挑戦し続け、高品質な機内食の提供と新規事業の展開に注力している。2021年、社長に就任した小田卓也氏に、同社の取り組みについて聞いた。

社員と会社を活気づける手腕を見込まれて

ーー社長に就任したきっかけを教えてください。

小田卓也:
当時のJALの社長から「機内食事業に関わってほしい」と声をかけてもらいました。経営者として大事な事業を手がけてほしいということだったのだと思います。機内食に関わった経験はほとんどありませんでしたが、日本航空人財本部長時代の経験を活かし、「どうしたら社員が生き生きと働けるか」を追求しながら、新たな経営の軸として「自立的経営」と「機内食以外の新規事業の展開」を打ち出しました。

そこで、社員を大事にして、経営者として会社を活気づけることはできると考え、新たな経営の軸として「自律的経営」「機内食以外の新規事業の展開」という2つを打ち出しました。

ーー2つの軸について具体的に教えてください。

小田卓也:
自律的経営とは、生え抜きの社員を着実にポストにつけて自ら経営していくことです。大きな転機となったのは、2014年ですね。2014年の夏から羽田空港の昼間時間帯の国際線発着枠が1日80便、従来の1.5倍に拡大されました。

同年、ジャルロイヤルケータリングの羽田工場が開業しましたが、既存の成田工場と同規模の羽田工場を安定的に運営していくためには、核となるリーダー層をはじめ作業に携わる社員の育成が急務となりました。以来、人財育成は当社の最重要経営課題の1つとなり、現在はJALグループの中核をなす会社としてメインであるJALの機内食事業に加えて、業務領域の拡大を図りながら自律的経営を促進しております。

また、新型コロナウイルスなどの影響で飛行機が運航しなくなっても仕事がなくならないよう、近年では外販事業を始めました。JALグループはサービスを提供する会社が多い中、私たちはものをつくって販売できる強みを持っています。その強みを生かし、まずはパンを社内で販売するという取り組みを始めました。機内食の設備が空いている時間にパンをつくるので設備を有効活用でき、社内でも大変好評でした。

品質の高さと衛生管理にこだわり抜く

ーー貴社のこだわりを聞かせてください。

小田卓也:
品質の高さと衛生管理には特にこだわっていますね。JALはフルサービスキャリア(※1)であり、お客様は天空のレストランでのお食事を楽しみにされております。その期待に応えるためには、ただ単に食事を提供するのではなく、美味しさを最大限に活かす調理法や彩りや盛り付けの美しさなど、細部にこだわったお食事を提供しております。

(※1)フルサービスキャリア:従来型の旅客サービスを提供している航空会社。複数の座席クラスを提供し、機内食やドリンク、団体客以外の座席指定も運賃に含めて提供するなどの特徴がある。

また、ミシュラン3つ星など有名レストランとのコラボレーションメニューも提供しています。レストランで提供している食事を高度1万mの機内で着実に再現できるか調理方法や食材の選定など、レストランシェフと綿密に調整します。

また機内食は3か月間・季節ごとにメニューが固定されているため、たとえば、ヒレ肉を使うと決めたら3か月間1日たりとも切らさないよう日々の予約数をみながら食材の仕入れに対する準備と対応を怠りません。手間がかかることではありますが、そこにこだわり抜く力を持っていることが私たちの強みにつながっていると思います。

ーー衛生管理についてはいかがでしょうか?

小田卓也:
非常に厳しい管理を行っています。社内で行う衛生検査では、菌の検査基準値を厚生労働省が定める基準よりもさらに厳しいものにすることにより、万が一にも機内での食中毒が発生しないよう衛生管理を徹底しております。

また、調理中の衛生管理も徹底していて、扱う食材が変わるたびに手袋を交換したり、髪の毛などの異物が混入しないよう、定期的なブラッシングを調理に携わる全社員が行っております。コストや手間はかかりますが、こうした細部への取り組みが安全につながるので、徹底して行っています。

新規事業の開拓と社員への思い

ーー今後の注力テーマについて教えてください。

小田卓也:
機内食以外の事業を伸ばしていきたいですね。実際に、以前から行われている羽田空港の整備工場見学でも、新たにお客様に機内食を提供するサービスを始めました。空の上だけではなく、地上でも手づくりの高級感を味わっていただきたいと考えています。

他には、おせちやクリスマスケーキの販売、茨城県稲敷市のチャーターフライトや成田山新勝寺の貫首(住職)交代の場でお弁当を提供したこともあります。現在、外販事業の売上比率は3%程度ですが10%も夢ではないので、さらに伸ばしていきたいですね。

環境面への配慮として、JALグループのESG(環境・社会・ガバナンス)方針に沿って、食品ロスの削減などに取り組んでおります。環境マネジメントシステムの国際規格である「ISO 14001」の認証も取得しました。1日1万5000食ほどと取り扱い量も非常に多いので、環境にも気を配っています。

ーー社員の健康や働く環境についても力を入れているそうですね。

小田卓也:
優良な健康経営を実践している企業を見える化するために経済産業省が認定制度を設計し、日本健康会議が認定する「健康経営優良法人」に2021年より3年連続で認定され、さらに2024年には初めて、上位500社が選ばれる「ホワイト500」にも認定されました。

弊社に入社してくださる方は、皆さん飛行機や食が大好きです。そんな皆さんに、のびのびと働いていただくためには、こういった環境面の整備は欠かせません。社員の健康が大事ですから、これからも人的資本経営(※2)を、具体的な行動で示していきたいですね。

(※2)人的資本経営:人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方。

新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後から新卒採用を再開し、毎月、社会人採用も実施しているので、さまざまな方とお会いできることを楽しみにしております。

編集後記

「求める人材は、素直で、何でも吸収してくれる方」と話す小田氏。経験や技能よりも、学ぶ姿勢を大切にする考え方は、変化の激しい時代に適応していく上で重要だと感じた。また、機内食という専門性の高い分野でありながら、その技術を生かした新たな事業展開を模索する柔軟さは、求める人材と通じるところがある。小田氏の描く未来図は、空の上でも地上でも、より豊かな食の体験を私たちにもたらしてくれそうだ。

小田卓也/1986年、大学卒業後、日本航空株式会社に入社。成田空港の旅客部門に配属された後、客室部門、整備部門および運航部門といった航空会社のオペレーションを支える部門を幅広く経験。2016年より執行役員兼人財本部長を務める。2021年、ジャルロイヤルケータリング株式会社の代表取締役社長に就任。