※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

高度経済成長期に建てられた建造物やインフラ設備の老朽化により、解体需要の高まりが予想されている。こうした中、高い技術力で業界をリードし、脱炭素に力を入れているのが、プラント(※)の解体工事を中心に事業を展開するベステラ株式会社だ。

解体業界に携わるきっかけや、脱炭素に取り組む思い、海外進出などについて、代表取締役社長の本田豊氏にうかがった。

※プラント:複数の設備を組み合わせて生産を行う生産設備

独自のノウハウと技術力で差別化。脱炭素への取り組みとAIの活用

ーーまず貴社の強みについて教えていただけますか。

本田豊:
解体工事における豊富なノウハウと技術力が強みです。弊社は「持たざる経営」を方針として掲げ、重機や実働部隊を持たず、工法の提案力や対応力で勝負しています。

プラント設備は複雑なものが多く、一つとして同じ設備はありません。そのため、各プラントの構造を把握し、お客様のニーズに合わせて解体工法を提案する必要があります。

設備によっては図面がない場合もあるため、3Dレーザースキャン計測を導入することもあります。プラントや建築物などをスキャンしてデジタル化することで、形状や寸法を正確に把握できます。そのため、狭小地での解体や特殊な建築物の解体など、他社では難しい案件にも対応しています。

また、解体工事会社の中で唯一プライム上場していることも強みの一つです。上場しているという信用力から、昨今は施主様から直接発注いただく機会が増えています。

さらに、社員の平均年齢が若いことも特徴の一つです。解体業を含む建設業界では職人の高齢化が進んでいますが、弊社は20代、30代の若手が活躍しています。

ーー技術面での取り組みについてお聞かせください。

本田豊:
できるだけ環境に配慮した工法を提案し、脱炭素化への取り組みを重点的に進めています。例えば、当社の代表的な特許工法である「リンゴ皮むき工法」や「転倒工法」は、自然エネルギー(重力)を利用することで大型重機の使用を最小化し、高い安全性の確保、工期短縮に伴うコスト削減、CO2排出量の削減を実現しています。このように安全性、コスト、工期に優れ、さらには地球環境に貢献できるような工法の開発に取り組んでいます。

最近では、ミドリムシから抽出した成分を使ったバイオ燃料であるユーグレナ社の「サステオ」を実際の解体工事現場で使用しています。また、水素溶断の活用や解体現場で発生したアスベストの回収にリサイクル袋を使用する等、脱炭素化に向けて様々な取り組みを進めています。

また、AIを活用した見積もり作成に着手しています。現段階では図面から必要な情報を抽出するだけですが、必要な鉄の量などを計算する物量計算もできるようにしたいところですね。最終的な判断は人間が行いますが、人為的ミスを防ぐため、AIを積極的に活用していきます。

解体業の社会的価値に気付き、上場を目指して入社を決意

ーー本田社長のキャリアについてお聞かせください。

本田豊:
以前から都市開発に興味があり、公共性が高い会社で働くことが目標でした。ホテル業界で働いていたときに経営企画部に異動し、会計や経営の知識の必要性を痛感したため、会計大学院に進学しました。

ちょうど開講したばかりで、1期生として入学しましたが、そこではさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まり、ベンチャー企業を立ち上げ、上場を目指している経営者もいましたね。そこで上場に向けて試行錯誤している姿を見て、自分も企業の上場に関わりたいと思うようになりました。

ーーベステラ株式会社に入社されたきっかけは何だったのですか。

本田豊:
上場が期待できる企業を軸に転職先を探す中で、解体事業を行うベステラと出合いました。

事業内容を知り、動脈産業である製造業から出る廃棄物の再利用や処理を行う静脈産業の重要性を感じました。こうしたサーキュラーエコノミー(循環型経済)に関わる仕事こそ、社会的価値があると思えたのです。

とりわけベステラは解体に関する独自のノウハウを持っており、十分に上場できる可能性があると感じたのです。この会社の発展に貢献するのはとても意義のあることだと思い、業界で初の上場企業にするため、力を尽くそうと決めました。

上場後の停滞感を払拭するためさまざまな改革を実施

ーーその後社長に就任してからはどのような改革を行ってきたのですか。

本田豊:
無事に上場を果たし、解体市場も右肩上がりに伸びていました。しかし、弊社の成長は鈍化しており、危機感を覚えたのです。そこで停滞感を払拭するため、組織体制の強化や営業収益力の見直し、現場で問題が起きた際の再発防止策の策定などを行いました。

また、表彰制度を導入するなど、従業員を褒める文化を醸成しました。採用も強化するため人事部門を独立させて新たに人事部長をヘッドハンティングしました。

なお、採用においては資格だけでなく人間力を重視し、コミュニケーション能力の高さを見極めるよう意識しています。現在は組織体制の見直しも進めており、今後さらに変革を加速させていく予定です。

ーー貴社の社風について教えてください。

本田豊:
年齢や役職に関係なく、自由に意見を言い合える雰囲気があります。後輩の意見にもしっかり耳を傾ける人が多いので、若手にとっても質問しやすい環境だと思います。

今後を見据えた海外への挑戦。環境に配慮した取り組みを続け、持続可能な社会へ貢献

ーー今後の展開についてお聞かせください。

本田豊:
直近としてはさらなる採用の強化や、AIによる見積もり作成精度の改善、新規の取引先の開拓に注力していく方針です。長期的には解体需要が減少する可能性を見据え、海外展開の準備を進めています。

現状では脱炭素やサーキュラーエコノミーの推進により、国内の解体市場は伸びています。ただ、今私たちが解体しているのは、バブル期に建設された設備がメインです。つまりこのままではいずれ解体が必要な設備がなくなってしまうでしょう。

そのため、今後の需要が見込まれる海外市場への進出は必須です。特にシンガポールなど土地が狭く、丁寧な解体工事が求められる市場を攻めていこうと考えています。

海外展開のもう一つの利点は、データベース化のしやすさです。海外では契約書や見積書、仕様書の内容が明記されているため、データの蓄積と分析をスムーズに行えます。このメリットを活かし、これまで現場で伝えられてきたノウハウの形式知化を図りたいと思っています。

ーー最後に求める人物像と今後の目標を教えていただけますか。

本田豊:
チャレンジ精神旺盛な人材を求めています。ただし、全員がそうである必要はなく、多様性も重要であると考えています。会社の良い雰囲気を維持しつつ、新しいことにも積極的に挑戦できる人材が理想です。

また今後の目標としては、売上1000億円の達成を掲げています。しかし、それ以上に重要なのは、循環型社会の実現に貢献することです。解体業を通じて、持続可能な社会づくりに寄与していきたいです。

編集後記

企業の上場に携わりたいという思いから、解体業が担う社会的役割の重要性に気付いたという本田社長。大規模な施設の解体作業で脱炭素を進める同社の取り組みは、地球環境にとって大きな影響力があると感じた。安全性と環境への負荷の低減に配慮するベステラ株式会社は、持続可能な社会づくりのモデルとなることだろう。

本田豊/1972年神奈川県鎌倉市出身。1996年慶應義塾大学商学部卒業後、東京急⾏電鉄株式会社(現 東急株式会社)入社。2007年ビズネット株式会社入社、企画部グループ長補佐。2008年エン・ジャパン株式会社へ入社し、管理本部経理グループマネージャーに就任。2009年ベステラ株式会社入社。企画部課長、企画部長、取締役企画部長を経て、2023年に代表取締役社長に就任。