ガス・電気・水道などのライフラインは現代生活に必須のものである。それを支える業界で、ガスを中心とした設備工事を行う株式会社協和日成。安定した事業を打ち破り、新たな事業に挑戦し続ける原動力は何だろうか。今回は、代表取締役社長の川野茂氏から、これまでの経験や、社長としての責務、改革についての話を聞いた。
ガス設備関連の専門家としてキャリアを積む
ーー社長は、なぜ貴社に入社したのですか?
川野茂:
私がガス業界に興味を持ったのは、幼稚園生か小学校入学の頃、「水道完備ガス見込」というテレビドラマの主題歌が流行していたからです。水道は普及しているものの、ガスはなかなか普及しない住宅地をテーマにしたドラマだったと思いますが、「ガスってそんなに希少なものなんだ」と子ども心に感じていました。
月日が経って、その印象も薄れていましたが、たまたま知り合いにガス工事関連の仕事を紹介され、「世の中に求められる堅実な仕事だ」と思い、入社したのです。
ガス工事を行っていた4つの個人会社が、1948年(昭和23年)に合併し、前身となる協和管工事株式会社を設立しました。その後2002年に協和建興と日成が合併し、現在の株式会社協和日成が誕生しました。
「やりたい」の精神で紡ぎ出すキャリア成長のストーリー
ーー仕事をする中で、ターニングポイントはありましたか。
川野茂:
業界(ガス工事会社)における近代化・工事体制などを協議するプロジェクトのメンバーに選ばれたときです。当時、私は選出メンバーの中で最年少でしたが、営業戦略や顧客獲得などのテーマで、いろいろな分野の人たちと一緒に知恵を出し合いました。このことが企画力を養う経験にもなり、また人脈も広がり、その後の社会人生活に大いに役立つことになりました。
プロジェクト終了後には、当時の本部長に「所長をやってみないか」と薦められました。「ぜひ、やらせてください」とお答えし、私が所長として在籍した営業所の年商は6年間で10億円から20億円に倍増しました。目の前のことを一生懸命にこなし、自らどんどん営業に行って、直接お客様にお会いしてコミュニケーションをとったことが売上につながったのだと思います。
協和日成では、6代目の社長として私にバトンタッチされました。入社式でもよく社員に伝えていますが、私は現場で生産部門の仕事をしながら、所長、部長、本部長などの役職を経験しました。私は常に上司に「私にやらせてください!」と言い続け、やらねばならない(Have to)ではなく、やりたい(Want to)の精神で仕事をしてきたからこそ、今があると考えています。
リーマン・ショックと景気後退を経た現在の課題
ーー厳しい状況もあったと思います。その中で、力を入れた取り組みについて教えてください。
川野茂:
まず、2008年のリーマン・ショックから始まり、その後に住宅着工件数が激減し、追い打ちをかけるようにオール電化住宅が流行した時は、とても厳しい状況でした。
2009年、当時担当していた本部が初めて赤字を計上しました。これまでお付き合いのあった地場工務店が次々と当時流行のオール電化に変更したためです。ガス工事の依頼がなくなり、お客様との関係が薄れていく状況の中で、お客様を訪問し、“ガスがなければ水道工事をやらせてほしい”と提案しました。これが戸建住宅において給排水設備工事を始めるきっかけとなりました。
また2017年、私が社長になる2年前にガスの小売全面自由化がスタートし、前年には電力の小売全面自由化もあったためエネルギー大競争時代が始まりました。このことも大きなリスクであり、将来を見据えて施工力や技術力を磨きつつ、建築設備事業を中核に育て上げ、真の総合設備工事会社を目指すこととしました。
ーー会社の取り組みの中で、一番大切なことは何だと思いますか?
川野茂:
当社を支えているのは「人材」です。設備業界では技術力が重視されますが、何年か経験を積んで、ようやく1人前として認められます。それまでに辞めてしまう人もいるため、随時中途採用も行っていますが、新入社員を地道に育てることが一番の近道だと感じています。先輩と同行して経験を積ませ、外部の方の力も借りながら、長く社員として勤務してもらえる体制づくりに力を入れています。
ーー5年後・10年後、企業としてどのような姿を目指していますか?
川野茂:
社長就任前から、建築設備事業を大きく飛躍させたいと考えていました。現在は中期経営計画「STEP 2024(Sustainable Evolution Plan)」において、先程もお伝えしたように建築設備事業を中核事業に育て上げることを成長戦略の最重要課題に掲げています。
建設業全体の人手不足もあり、体制整備が遅れていますが、出来るだけ早く体制を確立し、最終的に「協和日成に任せれば、ガス工事だけでなく全部やってもらえるよ」というように、世間に認められたいと思っています。
挑戦する気持ちを尊重し、団結して喜びを共有する社風
ーー社長が力を入れている人事評価制度の構築・見直しについて教えてください。
川野茂:
人をマネジメントする管理者と、エキスパートである技術者は性格的に異なり、またポストには限りがあるため、技術者全員が所長や部長になれる訳ではありません。
そうなると、やはり技術者の待遇が頭打ちになってしまうので、「もっと労力に対してスポットライトを当てて評価し、還元してあげたい」と思い、技術者でも管理職同様の待遇にするなど人事評価制度を刷新しました。キャリアの複線化を図ることで技術者の方々の現場での苦労が報われるのではないかと思っています。
ーー今、一番社員に伝えたいことは何ですか?
川野茂:
日常業務ではあまり感じることはないかもしれませんが、ライフラインを支えるという大きな社会的使命をになっている会社の一員であることに誇りを持ってほしいと思います。私も日々現場においてプロフェッショナルな仕事をしてくれている社員・協力会社の皆さんを誇りに思っています。
拠点に出向いた際には一人でも多くの方々に感謝の言葉をかけていきたいと思います。また、苦労があっても、自分の仕事を最後まで完成させたときの喜びをぜひたくさん味わってもらいたいですね。
現在は、年に1回の創立記念日には社長賞や本部長賞を授与し、1年間の成果表彰を行っています。今後も随時表彰制度の改定を行い、日ごろから、お客様からの感謝の言葉やフィードバックをしっかりと伝えていきたいと思います。それによって、会社や社会への貢献を目に見える形で実感してもらい、皆で「一緒に喜ぶ」という体験を通して、社内の団結力を高めるきっかけにしてほしいですね。
編集後記
やりたい(Want to)の精神で挑戦し続けて培った経験が、今の事業拡大につながっていることを教えてくれた川野社長。真の総合設備工事会社になるために、幅広いお客様のニーズに的確に応えられる企業であり続けることを目指す。そして、100年企業に向かってさらにしっかりとした体制を構築していく株式会社協和日成の挑戦はこれからも続く。
川野茂/1973年、株式会社協和日成に入社。さまざまな業務を経て、2019年、代表取締役社長、社長執行役員に就任。