※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

建設業界は今、多くの課題を抱えている。就業者の高齢化、労働環境の改善、DXの推進などだ。このうち、現場監督や作業員の高齢化とその引退による人材不足の問題は深刻だ。また、2024年4月から施行された、いわゆる「働き方改革関連法」への対応、長時間労働の抑制も大きな課題だ。

業界全体がこうした課題を抱えるなか、2024年6月に木村建設株式会社の代表取締役社長に就任した梶野社長にこうした課題への対応、地域や社員に対する思いをうかがった。

「自他共栄」の精神で社員と助け合い会社を盛り上げたい

ーー代表取締役就任にあたっての思いをお聞かせください。

梶野文哉:
私は、若いころ柔道に傾倒していた時期があります。柔道家の先達嘉納治五郎先生の言葉に「自他共栄」という言葉があります。これは「お互いに信頼して助け合えばいい結果が生まれ、自分も世の中の人も共に栄える」という意味です。

会社では、あらゆるところで多くの人が関わっており、個人ではなく組織として仕事をしています。私も社員を信頼して、お互いに助け合って仕事を進めていきたい、という意識をもっています。常に、社員という仲間を大切にして、しっかりコミュニケーションをとって、信頼と助け合いの精神で会社を盛り上げていきたいですね。

地域に対する情熱を強みとして施設管理事業を受注

ーーこれまで手がけた事業の中で印象に残っているものは何でしょうか。

梶野文哉:
建設会社の使命は、道路の築造や河川の改修、公園の整備など、インフラ整備を通じて地域に貢献することです。住宅の建築によって豊かな生活をサポートしたり、工場や倉庫を建築することで地域経済の発展を支えたりすることも大きな役割です。

弊社は住宅や工場など建築後も末永くお付き合いを続けています、公共インフラの整備後もメンテナンスをすべて建設会社が担っています。日常の管理は言うまでもなく、たとえば、大雪時の除雪、災害時の応急対応や復旧まで、地域の建設会社が引き受けています。

「地域とともにあり続ける」これが建設会社の基本であり、最も大切なことだと思っています。地元と共に栄える「自他共栄」の精神と地元に対する情熱は、他の企業に負けない弊社の最大の強みです。

地域とともにという意味では、2018年に、地元碧南市にある「明石公園」という遊園地の指定管理者に市から指定されました。指定を受けるためには、地域に愛される公園となるよう、管理方針的なところから個々の遊具や施設の細かな取り扱いに関することまでを、企画書に書いて提案しなければなりません。

まさに企画提案力が問われ、管理運営のノウハウやチャレンジ精神も必要です。特に企画書の善し悪しが結果を大きく左右しますので、自ら作成した企画書とプレゼンテーション資料が高評価を得てこの公園の管理者に指定されたことは、とても印象深い思い出のひとつです。

現在では、この「明石公園」のほか、ごみ焼却施設の余熱を利用したプールと浴場の管理を地元自治体から受託しています。こうした地元地域の施設管理運営事業は、弊社の大きな柱に成長しています。

ユニークな新社屋で社員と本社の距離を縮めたい

ーー2024年問題についてどのように対応されていますか?

梶野文哉:
働き方改革関連法によって時間外労働の上限規制が、本年4月から建設業にも適用になりました。いわゆる「2024年問題」です。弊社では、日ごろから従業員一人ひとりが主体的に継続的な改善活動を行っていますが、全社をあげて社内改革を加速することにしました。

建設工事ですと、これまで現場ごとで書類を作成してお客様に提出しているのですが、書類の中にはどこの現場でも作成しなければならない同じような書類も多くあります。現場に共通な事務を「工務事務」として、専門部署を新たに設けて集中管理することにしました。

専門部署が書類を作成して、不備がないかどうかをチェックする。このことで、現場社員の労働時間は短縮できますし、他の現場仕事に労力を集中することができます。また、比較的経験の浅い若手が担当する現場も、専門部署で書類を作成することで、経験豊かな現場監督が作成する書類と同じレベルのものとなります。

その結果、若手でも、専門部署で作成した書類に従うことで、より質の高い水準での施工管理や安全対策が講じられ、個々の社員の能力アップと会社全体の技術力の向上が図られると考えています。

また、将来の人材育成のために、教育にかける時間を増やす必要があるでしょう。地元の工業高校へ出向いて授業を行い、建設業界で働く意味について教えることもあります。現場での仕事は経験して覚えることが多く、定数定量で伝えきれないものがたくさんありますので、現場での経験などをこれからも地元の高校生に伝えていきたいですね。

ーー2022年に完成した新社屋はどのようなコンセプトで建てられたのですか。

梶野文哉:
旧社屋が老朽化したこともあり、設立60周年を期に新社屋建設の計画を進めました。新社屋の企画やデザインはほぼ社員が担当しました。社長室は「デンマーク」、会議室は「ブラジル」「タイ」など、各部屋に国名や地名にちなんだ名前を付けています。「これからタイで会議をしよう」といった具合です。非常にユニークな社屋としました。

この新社屋は、求人に応募してきた人たちへ「職場環境」のアピールになりますし、働く社員にも会社への愛着を持ってもらうことにもなるだろうと考えて企画しました。建設会社ですので、多くの社員は自宅から直接現場に行くことも多いのですが、会社との距離感が遠くなりがちです。しかし、「今日は南極で会議だぞ」などと現場で社員が会話をすることで、ユーモアで会社を身近に感じてもらえるのではないかと思うのです。

また、弊社への就職を検討されている高校生等にも、「本社で世界各国に旅行できますよ」とアピールしています。入社した社員だけが味わえる、弊社で働く醍醐味の一つです。

編集後記

「一人で仕事をしてきたことはない」と梶野社長は語る。常に社員を信頼し、仲間と助け合ってきたことで今日があり、地域に信頼されて地域とともに成長できるという。人と人が寄り添うからこそ、新たなビジネスやイノベーションが生み出される。こうした梶野社長の信念が浸透した木村建設株式会社は、建設業界の期待の星となって輝きを放ち、地域の未来を明るく照らすに違いない。

梶野文哉/1969年生まれ。1991年サンエイ株式会社(旧:三栄組)入社、建設事業部営業課に所属。2012年、木村建設株式会社に入社、営業部に所属。2016年に取締役、2022年に代表取締役副社長、2024年に代表取締役社長に就任。