
熊本県に本社を置き、建築・土木からインフラ工事、災害復興支援まで手掛ける岩田建設株式会社。代表取締役の岩田龍裕氏は、26歳という若さで経営を引き継ぎ、約2億円の借金を完済すると、一気に熊本県のトップ25社へ駆けあがった。
原動力となったのは「3K維新(熊本から、建設を、カッコよく)」というキャッチフレーズと、社員を大切にする組織づくりである。人が去った苦い経験を糧に、自らの意識を根本から変えたという岩田氏に、新しい建設業のかたちと今後の展望をうかがった。
借金完済から得た「人を大切にする経営」への転換
ーー社長に就任した当時の状況についてお聞かせください。
岩田龍裕:
専門学校を卒業した私は、19歳で父が社長を勤める「岩田建設」に入社しました。当時、弊社は経営が厳しく、すでに約2億円の借金を抱えており、売上も1億円ほどしかない状態で資金繰りに追われる日々でした。そして26歳のとき、ついに倒産寸前の状況に追い込まれた際、私は社長に就任する決断をします。
それは「どうせ倒産するならば、せめて私の代で」というネガティブな発想からの転換でしたが、何とかして会社を立て直したいという強い思いも抱えていました。
その後、借金に関しては銀行や取引先に協力を仰ぎ、融資の条件変更や手形の支払い延長について粘り強く交渉、そして、弁護士と協力して金融会社との契約の見直しを行って、金利の負担も軽減できました。運転資金の確保も厳しい状況でしたが、同級生の上司だった社長に「お前が担保だ」と信頼して資金を貸してくださったことが、大きな支えでした。
さらに、経営の立て直しと並行して、社員たちと現場で利益を生み出す仕組みを模索し、厳しい現場でも確実に成果を出せる方法をなんとか形にして、7年3ヵ月をかけて約2億円の借金を全額返済したのです。
ーー借金完済後、新たな課題が生まれたとのことですが、具体的に教えてください。
岩田龍裕:
借金を返済すると、売り上げや利益をさらに伸ばしていきたいという思いが強まりました。しかし、当時の私は「とにかく会社を大きくしよう」と数字を追うことばかりを優先してしまったために、苦楽をともにしてきた社員の何人かが辞めてしまう事態に直面しました。
借金返済中は「みんなで生き残ろう」と思いを共有できていましたが、それが達成された後は、社員みんなと進むべき目標や方向を明確に示せておらず、結果として、社員を大切にする経営をおろそかにしてしまっていたのです。
その後、東北の震災復興を通じて事業拡大に取り組んだ際も、組織としての課題が浮き彫りになりました。経営には、人がついてくるための明確な目的や理念が不可欠であると、身を持って痛感し、「共生・共栄・共磨」という企業理念を掲げ、これを軸に会社を運営するようになります。
建設業界をカッコよく変える「3K維新」の取り組み

ーー貴社が建設業界のイメージ刷新のために取り組んでいることは何ですか?
岩田龍裕:
建設業界は「3K(きつい・汚い・危険)」というイメージが根強く、人材採用が難しいとよく言われますが、実際はテクノロジーの進化により、安全面や効率面が大幅に向上しているので、現場の負担は大きく軽減されています。それにも関わらず、昔ながらの負のイメージが払拭されない現状から、弊社では「3K維新(熊本から、建設を、カッコよく)」というキャッチフレーズを掲げました。
これは弊社だけでなく、建設業界全体をより魅力的で誇りあるものに変えていこうという願いから生まれたものです。業界に対するネガティブなイメージを払拭し、若者たちにも「建設業って面白そうだ」と思ってもらえるよう、これからも活動を続けていきたいですね。
ーー若手社員の育成についてはどのような考えをお持ちでしょうか。
岩田龍裕:
特に若手社員の育成については、弊社の主力である公共工事で力が発揮できるよう、施工管理技士の育成制度を充実させています。さらに業務を細分化する仕組みをつくり、経験が浅い人でも少しずつ責任ある仕事に取り組めるように整備しました。これにより、新卒1年目の社員が3,000万円規模の案件を担当するなど、早い段階でキャリアを積むことが可能です。
そのため、若手社員が活躍し、社内で表彰される機会も増えました。そのような人材育成が、会社として優良工事表彰や若手優良技術者表彰を5年以上連続で獲得している理由のひとつであり、社内育成の取り組みが実を結んでいる証です。
就職イベントでは、できるだけ多くの若者に建設業の魅力を伝えることを目指しており、同時に、弊社の理念やキャッチフレーズに共感してくれる方を採用しています。
安定の公共事業を維持し、民間案件にも活躍の場を広げる
ーー今後の事業で注力したいことを教えてください。
岩田龍裕:
弊社は現在、売上の約9割が道路や河川、上下水道などの公共事業から成り立っています。今後は国土交通省の案件をさらに強化するとともに、M&Aや拠点展開を通じて民間工事にも力を入れていきます。ただ、公共事業を中心に進めるメリットは非常に大きいので、時代の流れや政権の動向などを考慮しながら、バランスの取れたポートフォリオを構築するつもりです。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
岩田龍裕:
弊社では、2035年に単体で年間30億円、グループ全体で50億円の売上高目標を掲げています。達成には、主力の公共工事の強化に加え、拠点拡大や民間工事へ事業進出していく上で、優秀な人材の確保と育成が不可欠です。若手社員のみならず、特に経営幹部やリーダーを育てるため、専門のコンサルタントの協力を得ながら、組織の階層ごとの課題を明確にし、それぞれに適した解決策を講じていく計画でいます。
さらに、「業界を変える」という志を共有でき、社員が安心して働ける環境を整えるだけでなく、ともに働くことで社会に良い影響を与えられる、そんな理念に共感してくれる人を仲間に増やし、力を合わせていきたいです。熊本県にとどまらず、全国を視野に入れたM&Aにも積極的に取り組み、建設業全体のポジティブなイメージを広げていくことを目指します。
編集後記
建設業界に根付くネガティブな“3K”のイメージを「熊本から、建設を、カッコよく」に変える。そのユニークな発想と建設への思いが、岩田龍裕氏の言葉から伝わってきた。2億円の借金を返済して会社を守り抜くも、社員を失うという挫折を経て、「人を中心に据えた経営」へと舵を切った姿は、逆境から生まれたリーダー像そのものだ。
建設やインフラ工事を通して、地域と住民の命を守るという建設業の本質を追求し、活性化させる。「3K維新」で業界全体を変革しようとする挑戦が、熊本から全国へと広がる未来は近いだろう。

岩田龍裕/1976年、熊本県生まれ。19歳で岩田建設株式会社に入社し、26歳で経営を引き継ぐ。先代からの借金約2億円を7年あまりで完済し、「共生・共栄・共磨」の企業理念を掲げて経営改革を推進。「3K維新(熊本から、建設を、カッコよく)」をキャッチフレーズに、建設業界のイメージを変えるべく、採用育成と事業拡大に注力している。現在は熊本県でトップ25社の一角に入り、さらなる高みを目指している。