※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

包帯・脱脂綿といった衛生材料は、医療現場での患者のケアや治療に欠かせない重要な商品であり、その品質と安定供給が重視されている。大衛株式会社は、衛生材料を扱う老舗企業として長年にわたり医療業界を支えてきた。

同社の三代目社長である加藤優氏は、創業家に生まれ、家業の基礎を守りながら、市場のニーズや少子化といった社会の変化を見据えた運営で会社を育ててきた。彼のリーダーシップのもと、企業は着実に成長し続けている。加藤社長にその経緯とともに、経営に対する考え方や今後の展望について詳しくうかがった。

人生の転機となった先達の言葉

ーー家業を継ぐまでの経緯をお聞かせください。

加藤優:
子どもの頃から「優くんは跡取りだから」と言われて育ったため、家業を継ぐことはつねに頭の片隅にありました。大学院終了後は製薬会社に入ることを考えていましたが、最終的に就職先として選んだのは伊藤忠商事でした。中小企業が縮小していく中で、高い技術を持つ会社を海外に展開し、認めてもらうチャンスをつくりたかったからです。しかし、結果としてこの時の知見は、後に大衛での新商品開発に繋がりました。

商社でのキャリアを積み始めた矢先、祖父が亡くなり、家業を継ぐことを真剣に考え始めました。葬儀の際、創業当時のメンバーから言われた「大きな会社は優くんがいなくてもやっていけるけど、この会社は創業家が守っていくしかないよ」という言葉に大きな影響を受けました。今なら親族継承以外の選択肢もあったかもしれませんが、当時はその言葉に深く納得したのです。

そのことを父に話すと、「この規模の会社だったら、自分のやりたいことを実現していけるよ」と言ってくれました。父の言葉は、遠慮気味な勧誘だったのかもしれませんが、その言葉に励まされたのです。イチから立ち上げるベンチャーは、資金が行き詰まったら終わりですが、家業の中でゆるやかにやっていくなら、さまざまなことが実現できると感じました。

実際、多くの新しい挑戦をする中で、会社を継いだ時に思い描いた取り組みが実現できています。自分のやりたいことを実現していく楽しさを強く感じています。

ーー前職ではどのようなことを学びましたか?

加藤優:
一番学んだことは「組織は全員が同じゴールを目指すとは限らない」ということですね。多くの社員は自分の働きで会社の利益を最大限にしようとは思わず、与えられた仕事でそれなりの評価を狙います。そのうえ、前職では部署間の利益が相反する場面を数多く見ることで、組織が抱えうる構造的な課題を意識するようになりました。

そんな環境から縦割り組織のデメリットを思い知りました。現在は私自身が経営者なので、その経験をもとに、社員みんなに同じゴールを目指してもらえるように動いています。

家業に戻って知った会社の実態に対する問題意識

ーー大手から中小企業の家業に戻って、取り組みたいと考えたことは何でしょうか?

加藤優:
200人規模の小さな会社なのに、何をするにも「書面で提出して」「上長経由で出して」など、縦割り組織になっていることに驚きました。部署同士、互いのことをよく知らないのです。それが会社の成長を阻害していると感じました。いい人材がたくさんいるのに、活かしきれておらず、中小企業の利点である機動力もないのです。縦割り意識の打破が第一の課題でした。その課題解決に向けた施策の実践に、市場開拓とともに力を入れて取り組むことになります。

ーー貴社の事業内容と、社長に就任されてからの歩みをお話しください。

加藤優:
創業当時は衛生材料を扱っていました。「衛材三品」といわれるガーゼ・脱脂綿・包帯が中心です。その後、日本で初めて生理用ナプキンを製造し、一時は女性用品に注力したこともあります。しかし大手メーカーの参入で撤退し、以降は産婦人科向けの商品を中心に扱ってきました。この15年くらいは、来るべき少子化時代を見据えて、総合病院向けの医療材料にも力を入れています。

病院向けの他にドラッグストア向けの商品も開発しており、おむつの防臭袋「ニスト」がたいへん好評です。Eコマースも展開中で、女性向けの補正下着を扱うショップ「補正屋」「キュリーナ」では、産婦人科つながりの産後の女性をメインターゲットにした、補正下着がヒットしています。

新規参入の弱みをリカバーするヒアリング作戦

ーー総合病院向けの商品では後発となりますが、どういった戦略で臨まれましたか?

加藤優:
総合病院にもそれなりの下地はあったのですが、問題は商品の力不足でした。その点を改善すれば売れるという確信はありましたが、病院向けの商品は使用現場まで踏み込んで調べるのが難しいのです。

そこで営業にヒアリングを徹底させ、1センチのサイズの差、ちょっとした手触りの違いといった、細かい要求ポイントやニーズを探りました。それを開発担当者に伝え、開発したアイデアを製造現場へ伝え、コストや製造工程の可否をすり合わせました。こうした流れをルール化して、縦割りの打破を目指した結果、営業・開発・製造の三者の連携が強まり、商品レベルの向上を実現できたのです。

ーー最後に、今後の展開についてお聞かせください。

加藤優:
第一に注力したいのは、総合病院、ドラッグストア、Eコマースの各部門での新規取引先の開拓です。市場の上位層における、品質と価格のバランスが取れていない商品もまだありますし、ニーズのヒアリングも強化していきたいと考えています。こうしたことを地道に続けて、さらに付加価値の高い商品群へとシフトさせていこうと思います。

実は現在、事業を展開していて、たとえばベトナムなら経済状況に合わせた低価格化、人工透析への対応といった、現地の医療ニーズに合わせた機器の提供を行っています。市場への適正な対応とその積み重ねが、結果として売り上げにつながると信じています。医療現場をより良くする商品の開発を愚直に続けていきたいですね。

編集後記

大手商社にいながら、そのステータスに甘んじることなく、冷徹な視線を忘れなかったクールな感覚は見事というほかない。冷静に自社製品の弱みをあぶり出し、商品に対する顧客の要求をきめ細かく分析する。そのフィードバックを通して各部署の連携を作り、社内の縦割り体質を改善していった加藤社長。この姿勢をもって、大衛株式会社は、さらなる躍進を続けていくだろう。

加藤優/1986年兵庫県生まれ。京都大学大学院薬学研究科修了。伊藤忠商事株式会社に入社し4年の修行期間を経て、2014年に大衛株式会社に入社。2016年より取締役、2022年に代表取締役社長に就任。