※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

排ガス規制やEV自動車の台頭など、自動車業界は大きな岐路に立たされている。そんな中、自動車関係の生産設備部品や設備治具メーカーとして長年培ってきた技術力を基盤に、時代に合わせた経営改革を進めているのが、杉江精機株式会社だ。

今の経営の軸となっている、前職での学びや、これまで行ってきた社内改革、新規事業にかける思いなどについて、代表取締役社長の加藤晴康氏にうかがった。

前職で教わった経営者としての考え方。入社当初の会社に対する印象

ーー前職でのエピソードをお聞かせください。

加藤晴康:
前の会社は17年間勤め、入社して課長に就任し、最後は営業部長を務めていました。前職の社長は多くを語らない方でしたが、いつも的確なアドバイスをくれました。社長からは多くのことを学びましたね。どんなときでも私の意見を否定せず、やってみなさいと背中を押していただきました。「この方についていきたい」と思える経営者でした。

特に印象に残っているのは、「お客様に言われたことをこなすのではなく、自分たちから提案する」という考え方です。前職はアミューズメント関係の遊技機部品の企画提案から量産までを担う会社で、作業内容はある程度決まったものでした。

それでも指示された通りに動くのではなく、自分たちの意見も伝え、メーカーとしてのプライドを持ち続ける大切さを教わりました。この考えは今の会社経営にも活かされており、前社長にはとても感謝しています。

ーー杉江精機に入社したときはどのような印象でしたか。

加藤晴康:
当時は昭和の古い体質が色濃く残っていて、時代に合わない経営スタイルが続いていました。特に問題だったのは、特定の大手顧客に依存しすぎる体質です。リーマン・ショックやEV車への転換、新型コロナウイルスの蔓延などが起き、自動車業界は様変わりしました。

それでも一社に依存する体制を変えずにいたため、私が就任した頃には危機的な状況だったのです。また、特定の社員に依存する属人化が進んでいたり、行き当たりばったりで来期の売上予算すら立てられなかったりする状態でした。

それでも、社長の座を引き継いだからには自分が何とかしようと腹をくくり、社員に嫌われる覚悟で社内改革を断行してきました。

「むしろ伸びしろしかない」と切り替え、社内改革を決行

ーーこれまで行ってきた社内改革の具体例を教えてください。

加藤晴康:
「時間制限なしの伸び放題始めました」をキャッチフレーズに、組織の成長を促しました。まずは、将来有望な若手社員の採用を強化し、同時に働きやすい環境を整えるべく、さまざまな仕組みの改革を行いました。

また、私が理想とする姿と社員たちが望む形のギャップをなるべく少なくするため、全社員にアンケートを実施しました。

すると、「勤続年数の長さによって給与が決められて、正当に評価されない」「能力の差に関係なく、女性の方が給与を低く設定されている」「評価理由について具体的な説明もなかった」など、会社に対する数々の不満が書かれていたのです。

「今の時代に合った普通の会社にしてほしい」という切実な願いを感じ、社内改革は急務だと実感しました。それから評価制度の見直しや組織体制の再構築など、抜本的な改革を行いました。

その中で特に力を入れたのが、年功序列型の給与体系の見直しです。具体的には給与マップを作成し、一定の給与に到達するために必要なタスクを明確化しました。

ーー給与体系の見直しにはどのような目的があったのですか。

加藤晴康:
一番は、社員たちに「自分の給料は自分で稼ぐ」という意識を持ってもらうためです。基本給以上の部分は、努力次第で定量的に決定される仕組みに変えることで、「自分で給料を上げる」という考えを定着させようと考えました。

もちろん男女の区別なく、成果に応じて評価される仕組みを導入しました。社員によっては「努力しない人は切り捨てるという脅し」と捉える向きもあるようですが、そうではなく、頑張って結果を出しても意味がないとならない仕組みを重んじています。

今後、世の中がどうなるかわからない中で、企業は常に倒産するリスクと隣り合わせですし、各々が転職する場合もあるでしょう。そのときのために、新しい環境に行っても役立つスキルを今のうちに身に付けておいてほしいのです。

そして「杉江精機から来た人たちは優秀だ」と思ってもらえるようにたくさんの経験を積み、ノウハウを吸収してほしいと思っています。

ものづくりの楽しさを感じながら笑顔で仕事に取り組む組織へ

ーー杉江精機の強みはどこにあるとお考えですか。

加藤晴康:
弊社の強みは、社員の真面目さです。その一方でこれまで指示待ちの姿勢が強かったので、自ら考え行動できる組織に少しずつ変えてきました。

また、60年以上にわたって大手自動車部品メーカーとの取引を続けてきた実績も大きな強みです。厳しい基準をクリアし、柔軟に対応し続けるのは並大抵のことではありません。

今後はこれまで培った経験や技術力を活かし、新しい分野にも挑戦していきたいと考えています。これまで行っていなかった新規開拓に力を入れるべく、お客様と会話を重ね信頼を築けるように社員を教育しています。

ーーこれからどのような部分に注力したいとお考えですか。

加藤晴康:
全体の士気を上げるため、社員一人ひとりがお客様に喜んでもらえる幸せを実感できる仕事を増やしたいと考えています。弊社はこれまで、与えられた仕事をこなすことの繰り返しでした。

相手の要望に応えられればほめられる、クリアできなければ怒られるのでは、面白味がありません。また、お客様が使われる生産設備の仕事がメインだったため、実際に自分たちがつくったものを目にすることがありませんでした。

そのため今後は、自分たちでアイディアを出し合い、オリジナル製品の開発に挑戦したいと思っています。その取り組みのひとつが、ゴルフのスイング矯正器具「ReswingeЯ®」です。このように既存事業以外に新たな分野を開拓していく予定です。

社員たちも入社当初は、ものづくりが好きでこの世界に入ってきたはずです。彼らにものづくりの楽しみを思い出してもらい、若手社員が希望を持てる会社に育てるのが今後の目標です。

ーー最後に今後の展望をお聞かせください。

加藤晴康:
「笑いがある楽しい会社」にしたいと思っています。「できることはすべてやり尽くし、その結果赤字だったとしても、とりあえず笑って受け入れよう」と伝えています。赤字の責任はすべて私が背負うので、せめて社員たちには笑顔でいてほしい、「下を向いて目を閉じていては日が昇ったことに気が付けないよ!」という想いからです。

これはたとえ厳しい状況でも、前向きに楽しく仕事に取り組んでほしいという思いからです。これからも社員全員が笑顔で、やりがいをもって働ける会社を目指していきます。

編集後記

さまざまな改革案を打ち立て、当初は勤務歴の長い社員たちから反発を受けたという。それでも加藤社長が「嫌われようが変えてやる!」という強い覚悟と決断があったからこそ、時代の変化にも負けない組織に生まれ変わりつつあると感じた。杉江精機株式会社は、これまで培った信頼や技術力を武器に、さらなる成長を遂げることだろう。

加藤晴康/1977年、愛知県生まれ。南山大学卒業。遊技機部品メーカーへ入社し、企画から開発・製造までのコントロールタワーを担う営業を17年勤める。2021年に杉江精機株式会社取締役に就任。翌年代表取締役社長に就任。