※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

1968年より、日本国内で販売が始まった産業用ロボット。兵庫県小野市に拠点を置くiCOM技研株式会社は、制御設計会社からスタートし、現在ロボットビジネスのトータルサポートに注力している。同社、代表取締役の山口知彦氏に、起業のきっかけや今後の展開をうかがった。

起業家への道――転職を繰り返したサラリーマン時代

ーー山口社長のご経歴を教えてください。

山口知彦:
最初に就職した靴メーカーは「人を育てるよりも良い設備を導入する」という方針で、まさに人が歯車になるような職場でした。スキルアップが叶う環境を求めた私は、オーダーメイド販売に近いセットメーカーへ転職します。そちらは大手ロボットメーカーの案件が中心で、回路・制御・ソフト・メカなど、すべての設計をひとりで行う必要がありました。

「電気制御の設計スキルをより深めたい」という思いから再び転職したものの、勤め先の業績が不調に陥ってしまいます。そこで、顧客を引き継ぐ形で2003年に独立し、個人事業主としてオートメーション機器の制御設計を始めました。そして2007年の法人化に至ります。

ーー独立する際のリスクはありましたか?

山口知彦:
オートメーション機器は担当者ひとりによる小規模開発が多く、CADと専用ソフトが入ったパソコンひとつで始められます。「人」に依存する職人的な仕事なので独立はスムーズでした。私の場合、自分の失敗の責任はとれるけれど人のフォローをする事より、「好きなようにやりたい」という考えが昔からあったため、より自由さを実感しましたね。

「iCOM技研」という社名は、「コミュニケーションをとって問題を解決しましょう」という思いが由来です。独立前の経験から、メカ設計やレイアウトの段階で起きるトラブルの原因は「すり合わせ不足」だと感じていました。私はお客様の仕事内容や会社の状況、見えない課題まで理解して、適切な仕事ができる会社を作りたいと考えたのです。

「ひとりの仕事」をやめた理由――企業進化のタイミング

ーー現在の事業展開について教えてください。

山口知彦:
以前は弊社の事業について「電気制御盤に関するコンビニのようなサービス業」と答えていました。面白そうな会社だと感じた人が入社してくれる一方で、人材が定着せず悩んでいたところ「社員や会社に対するビジョンがない」と気付く機会を得たのです。

仕事の支えとなる目標や夢がない会社のままではいけません。2016年以降は企業の存在意義を見つめ直し、売り上げ規模の拡大を目指しました。「自分の計画とイメージがどこまで実現するかチャレンジする」という拡大路線への転向です。自分のためではなく、従業員を含めた「会社全体の理想」をもとに事業を進めるようになりました。

ロボット開発の未来と企業のこれから

ーー「SIer(エスアイヤー)いらずのSIer」というキャッチーコピーが印象的ですが、このキャッチコピーを選んだ理由はありますか。

山口知彦:
SIerがいる理由は「ロボットが使いにくいから」です。ロボットにソフトウェアをインストールできるプラグイン(機能拡張)を使い、誰もが操作できるようにすることで、「ロボットを使うことが当たり前」だと感じる世の中にしたいのです。教育コストの削減という意味でもティーチングレスを目指しています。

デモを見るだけで実践できるソフトウェアも開発中です。たとえば、紙芝居のように表示される指示に従い情報を埋めれば、ノーコードで行動生成できるプログラムを制作しています。

ーー今後の展開をお聞かせください。

山口知彦:
今後もロボットを軸に事業を拡大していきます。将来的に、ロボットがパソコンと同じように汎用化の道を辿ることは明らかです。そのために必要なソフトウェアや開発能力を強化していくほか、メーカーさんと共に海外展開を計画しています。まずは国内を安定化させてから、海外へいくという展望は、しっかりと実現していかなければと思っています。

ロボティクス産業における課題とアプローチ方法

ーー現状の課題はありますか?

山口知彦:
「販売先を増やすこと」と「他社よりも早く良いものを提供すること」の両軸を実現したいと思います。弊社がロボット業界に加わったのは7〜8年前で、ロボットを導入したのに使いこなせず、撤去されてしまうケースもあるなど、今では考えられない時代だったと思います。今後は一点ものをカスタマイズする技術よりも、世界中にあるアプリケーションから必要なものを見つけ出す能力が求められ、より情報が重要になります。

顧客の拡大方法は、今まで通り展示会への参加やWeb発信が中心となるでしょう。顧客の規模にはこだわらず、企業成長に合わせて展開していきます。キラーコンテンツとなる技術を確固たるものにして、良い商品をPRしていけば声をかけていただけると信じています。

編集後記

「ひとりで好きにやりたい」という独立精神から始まり、「時には借金をしてでも従業員に還元するべきものがある」と会社の方針を変えた山口社長。会社のためのチャレンジは会社を支える夢となり、ロボット産業の未来にも深く影響を与えるだろう。

山口知彦/1975年、兵庫県生まれ。サラリーマン時代を経て2003年にiCOM技研株式会社を創業し、代表取締役に就任。現状のロボット活用方法に疑問を感じ、新しい使い方や活用方法に一石を投じたいと考え、協働ロボット事業を展開。メカ設計から電気制御、通信、製作、設置、営業、保守点検まで一通り経験し、現在に至る。