※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

介護保険事業は今、最大の危機を迎えつつある。社会保障費の不足や生産年齢人口の減少による、大幅な労働力不足が懸念されているのだ。いわゆる、「2025年問題」と「2040年問題」である。この問題の打開策として、政府は多様な人材の確保・育成と定着促進を掲げている。

株式会社シダーは2001年から、介護保険事業が黎明期にある中で通所介護事業、訪問看護・訪問リハビリ事業、訪問介護事業などを立ち上げ、売上を伸ばしてきた。全国各地に介護施設を展開する同社は、技能実習生の受け入れや研修制度の導入など、人材確保や職員の処遇改善にも意欲的だ。同社の代表取締役社長である座小田孝安氏に、創業から現在までの取り組みや今後の展望をうかがった。

より自由度が高いサービスを提供したいと考えて起業

ーー貴社の創業の経緯について教えてください。

座小田孝安:
創業前、私は弊社の前会長である山崎と一緒に、医療法人で働いていました。私が担当していたのは、在宅部門や通所リハビリテーション(デイケア)などの分野です。2000年に介護保険法が施行されて全国で何カ所もデイサービス(通所介護)が設立されるようになりました。そこで、私たちもより自由に仕事がしたいと考え、山崎と一緒に株式会社シダーの前身であるメディカル・サービス法人を立ち上げました。

メディカル・サービス法人とは、医療機関以外で、医療に関連するサービスを提供する法人のことです。医療法人では、特定の医療業務に限定した業務しか行えませんが、メディカル・サービス法人ではそれ以外の営利事業も行うことが可能になります。介護保険事業のスタートにあわせて、いち早くメディカル・サービス法人の設立を考えた次第です。

ーーその後、株式会社シダーとして新たにスタートするまでの経緯を教えてください。

座小田孝安:
通所リハビリテーションはクリニックと併設する必要があり、利用者さんが施設を利用できるのはクリニックが開院している時間だけでした。デイサービスであればクリニックと併設する必要もなく、日曜日でも通所してもらえるという利点があり、より自由度の高いサービスが提供できると考えたのです。

その後、メディカル・サービス法人で顧問を務めてもらった会計士の方に「介護部門だけで上場できるんじゃないか」と助言されたこともあり、2001年1月から本格的に株式会社シダーの事業をスタートさせました。

ーー事業立ち上げにあたりどのような点に苦労しましたか。

座小田孝安:
新規事業だったので、銀行から大口の融資を受けることが難しく、苦心しました。新たに施設をつくるためには、どうしても土地や建物などを購入する資金が必要になります。最初のうちは多様なリースを駆使して事業に取り組み、売上を伸ばして業績を上げました。業績が上がったことで、銀行から融資を受けられることになり、無事、事業を拡大することができました。

技能実習生の受け入れや社内研修制度など、職員の働きやすさも充実

ーー貴社の事業の強みを教えてください。

座小田孝安:
立ち上げ当初からリハビリテーションを積極的に取り入れていることが、弊社の強みです。医療法人時代に通所リハビリテーション事業に携わっていた私の知見を活かして、カラオケや習字などの趣味や娯楽を取り入れたプログラムを作成しています。リハビリを行う前提として「機能を回復し、社会参加してもらう」という目的があるので、利用者さんにとって続けやすいことを取り入れました。

ほかにも利用者さんが気の合う友達を見つけられるように、50人〜100人の大規模なデイサービスを展開しています。リハビリに通うというよりも、「友達に会いに行く」という感覚で来所してもらっていますね。

ーー人材を確保するために、どのような取り組みを行っていますか?

座小田孝安:
特定技能外国人や技能実習生の受け入れを行っています。全体で約60人ぐらいの実習生が現場で働いていますね。つい最近、さらなる外国人材確保のため技能実習制度に代わる育成就労制度を新設した改正法が可決されましたが、弊社でも今後1年の間にさらに20人ほど受け入れるつもりです。

また、職員のキャリアプラン形成のため、社内で介護職員初任者研修を実施しているほか、全国4カ所で実務者研修を行っています。実務者研修を修了し、かつ3年以上実務を経験して筆記試験に合格すると介護福祉士の資格を取得できるので、キャリアアップを目指す人は、ぜひ受講してほしいですね。

柔軟に対応できる組織づくりと介護業界で働くための心得

ーー今後どのようなことに注力していきたいとお考えですか。

座小田孝安:
今後は経営幹部の育成や採用の強化を図るほか、私の在任中の目標として、事業を拡大して年商200億円にまですることを掲げています。その原動力として、新規事業も立ち上げていきたいと考えています。新しく老人ホームをつくる案もありますが、これまで施設を建ててきた経験で培ったノウハウを活かして、不動産事業の展開なども視野に入れています。

ーー最後に、今後の展望と抱負を聞かせてください。

座小田孝安:
介護の仕事は2040年まで需要が増えていき、その後2060年までの20年間は横ばいになると国は予測しています。介護保険の制度は3年ごとに見直しがあるので、変化する制度に柔軟に対応できる組織づくりが求められるでしょう。

介護の仕事においては、高い志と学び、さらには誠意に基づいた業務を意味する「志学誠商」というバランスが大事だと考えています。ただ単にサービスを提供するのではなく、一人ひとりが高い志を持てば、長く介護に従事できるでしょう。また、志を持って取り組むと同時に、学問として成り立っていなければサービスの質の低下を招きます。新しい知識を得て、考え抜かれたサービス提供を追求していきたいですね。さらに、医療や介護は人と接する仕事なので、人に対して誠実であることも大切にしています。そして、商売として赤字を出さないことも大切です。理想だけを追い求めるのではなく、長く会社を続けること。これらの「志」「学」「誠」「商」をバランスよく考えて、事業を継続していきたいですね。

編集後記

新たに「育成就労制度」が開始されるなど、外国人就労者の受け入れを政府が積極的に後押ししている同業界。座小田社長は、外国人就労者の受け入れはもちろん、働くスタッフのキャリアアップなど、長い視点で介護業界を見据えている。意欲的でチャレンジ精神にあふれる座小田社長は、これからの介護業界に新たな道を切り開いていくことだろう。

座小田孝安/1963年、福岡県生まれ。国立療養所福岡東病院附属リハビリテーション学院作業療法士学科卒業。医療機関でのリハビリテーション業務に従事。1981年、株式会社シダーの前身会社を共同設立。2001年に株式会社シダー専務取締役、2016年に代表取締役社長に就任。「民間事業者の質を高める」全国介護事業者協議会(民介協)理事長としての活動も行っている。