※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

愛知県日進市に本社を構える株式会社キョクトーは、溶接で使用されるチップ(電極)をインラインで切削加工する装置チップドレッサーで世界的に有名なメーカーだ。まるで美術館のようなデザイン性が高い新工場を設立し、次々と海外に進出しするなど実績を築いている同社。若きリーダーである代表取締役社長の草野寛和氏に、経営をする上でのマインドやこだわりを聞いた。

仕事の面白さを味わいながらニッチな分野で世界一を目指す

ーーまずは先代のお父様から会社を継ぐまでの経緯を教えてください。

草野寛和:
学生時代、私は教材の販売や家庭教師の営業などのアルバイトをしていました。卒業後は「英語がしゃべれるようになれば、社会で通用するだろう」と思い、1年間カナダに留学しました。

帰国後、父から弊社の仕事を手伝うように言われ携わるようになりました。当時は従業員20人規模で正直何をしている会社かもよくわかりませんでしたが、実際に仕事をしてみると予想以上に面白くて、気がついたら仕事にのめり込んでいました。2012年に父から会社を引き継いで今日に至ります。

ーー仕事のどのような点に面白さを感じたのですか?

草野寛和:
ニッチなマーケットであることですね。チップドレッサー、チップ交換機と言っても一般の方はよくわからないと思います。しかし、そこにチャンスがあると感じました。たとえば、自動車の場合、世界的なメーカーがすでに上位を独占していてそれを覆すことはほぼできません。他にも食品であっても、競合が多いので、何を基準に「世界一」とするか曖昧なのが現実です。

そこで私は、チップドレッサーやチップ交換機というニッチなマーケットなら「世界一」を目指せると思いつきました。

ーー「世界一」を目指すと決めた後、苦労したことはありますか?

草野寛和:
あまり苦労したことはありません。新しい市場に進出していくというのがゲーム感覚で楽しかったです。海外に進出する際に直接ユーザーにアプローチしたり、当時の暗黙の了解を打ち破って営業をかけてみたり、これまでの商習慣に囚われずいろいろな戦略を実行してきました。

また、常にいろいろな製品づくりに対応できるよう、業務効率を向上させながら、あえて一般の会社が着手しないような加工手順や技術も取り入れてきましたが、その過程を考えるのも非常に楽しかったですね。

こだわりの新工場でリアルな声を聞きながら販路を積極的に拡大

ーー今貴社はまさに世界一に向けて海外に進出されている最中ですが、どのような点を意識されていますか?

草野寛和:
まずは代理店任せにしないという点です。とくに中小企業は海外進出する際に代理店頼りになりがちです。確かにそうすることでスムーズに新規市場に展開しやすい、お客さまとの間にワンクッションができるといったメリットがあるのですが、それ以上にお客さまの声をダイレクトに聞けないというデメリットが大きいと思います。だからこそ、私たちは海外のお客さまでも、極力自社の営業マンが出向き、リアルな声を聞くようにしています。それが今の製品づくりにも活かされていると実感しています。

また海外における営業で意識していることとして、現地法人には現地の方を採用しています。その国の文化やマーケット、商習慣を知らない日本人を現地に派遣してもあまり効率的ではないので、日本人は日本国内に注力してもらい、海外では現地の人に任せています。

ーー貴社の工場が美術館のような雰囲気が漂っていますが、設計の際にどのような点にこだわりましたか?

草野寛和:
もともとは工場と本社を統合したいという目的があって、この地に工場を建てる構想がありました。せっかくなら若い人に入社してもらいたいと思い、おしゃれな空間にしようと思いました。知名度がありデザイン性の高さの裏付けとなる中部建築賞(※1)に入選されることを目指して、ドイツやイギリスなどで受賞歴があるデザイナーに依頼して設計してもらいましたね。

また、工場を地下に設けたというのも大きな特徴ですね。地下であれば音が吸収されて騒音が出ません。それに地中だと温度が安定しているので、スタッフが快適に仕事をでき、機械の不具合も減らせるというメリットもあります。

(※1)中部地方の優良な建築物に携わる建築主、設計者、施工担当者に与えられる賞

ライフステージの変化があっても戻って来れる環境を整え続ける

ーー人材採用や働く環境整備のことも考えられて工場を設計されたということですが、ソフト面で働きやすい環境を実現するために取り組まれていることをお聞かせください。

草野寛和:
とくに女性の働きやすさは意識しています。女性のみが参加する会議を設けて、働きやすい職場にするために意見を出してもらっています。あとは育休産休の復帰についても他社とは考え方が大きく違います。多くの会社では育休や産休を取得する間に抜けたポジションを埋めるために新しく人材を採用しますが、その結果、復帰するポジションがなくなってしまうのです。一方、弊社では100%復帰することを考えて、社内でフォローし合うよう意識したので、育休後の復帰率99%を実現しました。

あとは人材をあまり増やしすぎないことです。社員が何百人もいるとお互いのことをわからなくなるので、今の60人くらいが一番いい規模だと思っています。

ーー「人材をあまり増やしすぎない」ということですが、その中でもどのような方を採用したいですか?

草野寛和:
「ぶっ飛んだ人」です。どうしても人は同じ業界にいて、同じ仕事をしていると頭が固くなってしまいます。私もそうならないよう心がけているつもりですが、私たちの常識をいい意味で覆すような方と出会いたいですね。

ーー最後に貴社の今後の展望についてお聞かせください。

草野寛和:
キョクトーの名前を広げていきたいです。名前を知ってもらえたら、マーケットも自然に広がります。実際に、アジア、アメリカ、ヨーロッパの進出を果たしました。今後、インドや南アフリカなどに弊社のブランドを広げ、世界一を目指していきたいです。

編集後記

今の時代、多くの会社ではこれまでのやり方や商習慣に従っていては、事業は継続できてもなかなか成長できない状態となっている。これまで他社がやらなかったことをする、今までの価値観を打ち破ることで、はじめて一等地を抜くことができるということを、今回の取材で改めて実感させられた。今後、草野社長が、そしてキョクトーの従業員が、どのように世界に羽ばたいていくのか、目を離せない。

草野寛和/1977年愛知県生まれ、帝京大学卒。2001年に株式会社キョクトーに入社し、5年の国内営業を経て2007年にアメリカへ転勤。その後2012年に代表取締役社長に就任。自動車の製造に欠かせない、製造業らしくない製造業を目指して会社の変革を促している。