※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

リーマン・ショックの余波が強く残る2010年ごろ、運送業界は低価格競争による顧客の争奪戦によって低賃金と長時間労働がはびこり、トラックドライバーのなり手は減少傾向が続いていた。

こうした社会情勢のなかで、久留米運送株式会社を兄から引き継いた二又茂明氏が選択したのは、社員を大事に、安全を優先、顧客を大事にした経営だった。そんな二又氏に創業から現在までの軌跡、経営理念、業界の課題や展望について、話をうかがった。

肥料・飼料の運送からはじまり、九州屈指の運送業者へ

ーー創業から現在までの道のりを教えてください。

二又茂明:
1924年(大正13年)に前身である「万来屋商店」が4台のトラックを購入し、肥料・飼料の輸送事業を開始したことが、弊社の発端になります。珍しいシボレー製のトラックが走る姿は、周囲の目を引いたようです。

万来屋商店の創業者・二又茂登は、大戦中に輸送部隊の隊長を務めた経験から、「戦後、復興に伴って物流の時代が来るはず。兵站輸送の経験を活かせる。」と思い、1951年(昭和26年)に貨物運送事業を行う久留米運送株式会社を設立しました。その後、高度経済成長に乗って、東海道路線や東北路線の免許、倉庫事業等の免許を取得し、配送網と事業領域を徐々に拡大していきました。

1977年(昭和52年)には輸送システムの開発と事務処理効率の向上を図るために、他社に先駆けてコンピューターを導入したことが事業拡大のきっかけとなりました。情報システム構築によって貨物が現在どんな状況にあるかの確認が可能になり、効率化が格段に進展しました。

近年では、1999年(平成11年)に産業廃棄物収集運搬業の許可を取得、2004年(平成16年)に医薬品専門輸送の開始等、時代の流れに合った分野に進出しています。

2021年(令和3年)に創業70周年を迎え、弊社をご支援いただいた皆様のおかげと深く感謝しております。

社員を大切に、安全優先を意識して顧客第一の経営を実践

ーー貴社の経営理念についてお聞かせください。

二又茂明:
経営理念は、商売はお客様へのご用聞きの精神が大切であるという意味の「商いは、商人の心にあり」の他、「人間力だ、脳働だ、そして行動だ」「安全はすべてに優先する」の3つを定めています。

特に、公道を行き来するため「安全」を何よりも重視し、安全運転のための研修はもちろん、ヒューマンエラーによる事故の防止にも努めています。ドライバーにとって怖いのは「慣れ」。いつもシャッターは開いているから大丈夫だろう、といった思い込みが事故を引き起こすのです。そのため弊社では、子どもが飛び出してくるかもしれない、というような「かもしれない」運転を心がけるよう安全運転教育を行っています。万が一事故を起こした場合には、その支店のドライバー全員で週末に原因分析を行って事後対策を講じ、交通事故ゼロを目指しています。

また、「仕事場は人をつくる道場」をモットーに、ご用聞きの精神を育て、人間力を高めるための研修にも注力しています。全社員に「皆さんの給料は会社が払っているのではない。お客様の運賃からいただいているのだ」ということを徹底して教え込み、理解してもらいます。そうすることで「お客様第一」という考え方が浸透し、輸送品質の向上につながるのです。

ーー仕事をするうえで意識していることは何でしょうか。

二又茂明:
私は目標や方針の決定は行いますが、事細かな指示は出しません。お客様のために何をすべきか、社員が自分で考える力をつけることで、会社全体の実力アップにつながっています。

また、理念と共に私自身が心がけていることがあります。それは、「将来に望みをおく経営」「過去を振り返らない」「人の為に善を成す」そして「怒らない」「グチをこぼさない」の5つです。

この中の一つ、人の為の「人」とはお客様と社員のことです。CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)はもちろんですが、ES(Employee Satisfaction:従業員満足度)も大事にしています。社員が満足出来ない会社が、お客様を満足させられるはずがないからです。また、私は社長就任以前から怒ったことがありません。感情的に怒っても、社員には何も残りません。失敗した時には「叱る」ことを心がけています。

九州一の輸送インフラを基盤に多様なサービスを提供

ーー貴社の強みを教えてください。

二又茂明:
弊社の強みは、九州における業界屈指の店舗数を活かして構築した輸送ネットワークです。九州と日本の3大消費地(関東・中部・関西)を結ぶエリアをカバーする輸送ネットワークは、日本一を誇っています。14ヵ所の流通センターは、商品の保管場所としてご利用いただき、入庫から保管、出庫、配送まで一貫した物流システムで、あらゆるニーズにお応えします。

そして最も大切にしているのが、当たり前のことですが、お客様の大事なお客様にきちんと商品をお届けする、すなわち「輸送品質」です。お預けいただいた各種商品を丁寧に取り扱うことはもちろん、ご要望にあわせて、指定の場所・日時に正確にお届けする高い輸送品質は、お客様にとって営業の武器となる、弊社の最も大きな財産であり、信頼を寄せていただく根幹となっています。

ーー運送業界の課題についてはどのようにお考えでしょうか。

二又茂明:
業界全体の問題点として、ドライバー不足、燃料高騰、適正運賃の収受、長時間労働の4つが挙げられ、特に人材は更なる不足が予測されていますが、これらは弊社においてはそれほど大きな問題にはなっていません。

ドライバーは各支店長の努力の甲斐あって、現在の人員は2010年4月と比較して700名増加し、運賃改定の交渉を継続することで、燃料費の高騰分を補填しています。また、労働時間の改善基準を遵守し、安全を確保するため、2002年から超長距離輸送の場合、九州~大阪・名古屋間、東京~大阪間で中継輸送を実施しています。2006年からは、完全週休二日制へ移行しています。

目標は九州内運送シェアNo.1とファーストコール・カンパニー

ーー注力テーマと展望をお聞かせください。

二又茂明:
現在は、既存物流拠点のリニューアルによる輸送力の向上と更なる効率化や、輸送の安全強化・品質強化に注力しています。2012年には、北陸を基盤とするトナミホールディングス株式会社、東北を基盤とする第一貨物株式会社との3社合弁により「ジャパン・トランズ・ライン株式会社」を設立しました。自社単独で輸送出来ないエリアをカバーする全国規模のネットワークは、自前の全国ネットを持つ大手の運送会社と競うための大きな武器になると考えています。

そして、インターネット通販大手の大型物流センターが佐賀県鳥栖市に設置されましたが、もし他の通販企業にも同様の動きが広がれば、物流センターへの商材配送という需要が生まれ、商機が広がるのではないかと期待しています。将来は、運送部門をはじめとしたグループ企業とともに、九州内の運送シェアNo.1を達成したいと思っています。

そのためには、全国の企業物流担当者から「久留米運送に任せれば間違いない」と言われるような評価を獲得出来るよう、輸送品質を高めて参ります。そして、お客様が物流体制の変更を検討する際、物流担当者にまず「久留米運送はどうか」と一番最初にお声かけいただける、いわゆる「ファーストコール・カンパニー」となるべく精進して参ります。

ーー最後に、今後に向けての意気込みを教えてください。

二又茂明:
4台のシボレー製トラックで肥料や飼料を運搬することから始まり、現在では、グループ3000台のトラックが九州から東北まで走り回っています。お預かりした荷物を、お客様の大切なお客様へ正確な日時にお届けすること、つまり「輸送品質」が何よりも大事との信念のもと、社員一人ひとりがお客様のことを-番に考えて日ごろの業務に取り組んでいます。

お客様から一番に選んでいただける企業となれるよう、これからも全社一丸となって輸送品質の向上に努めて参ります。

編集後記

九州屈指の運送業者として成長を遂げた久留米運送株式会社の歩みは、業界をリードする卓越した輸送品質と社員を大事にする経営理念にあった。「輸送品質」を最重要視する姿勢は、顧客満足を高めるための強力な基盤となっている。九州内運送シェアNo.1達成や「ファーストコール・カンパニー」としての評価獲得に向け、挑戦を続ける同社。さらなるサービスの向上を進めていく先に、新たな運送業の姿があるように思えた。

二又茂明/1953年生まれ、福岡県出身。1977年早稲田大学商学部卒業。オーディオメーカー勤務を経て、1989年久留米運送株式会社に入社。1991年北九州支店長、1994年総務本部長、1996年取締役に就任。1998年猿渡物産株式会社代表取締役副社長に就任、2004年ジャパンロードライン株式会社代表取締役社長に就任。2005年久留米運送株式会社取締役に就任後、常務取締役総務本部長、専務取締役総務本部長を歴任し、2010年代表取締役社長に就任、2018年代表取締役CEOに就任し、現在に至る。