デビス株式会社は、婦人衣料を中心にテキスタイル(繊維・織物)を企画・製造し海外ブランド向け販売を行う会社だ。「生地」を商品として扱う特有の難しさを抱えつつも、「Share the passion」というスローガンのもと、パッション・ストーリー・人間力を重視したビジネスを展開してきた。
デビス・ハニ社長は、コロナ禍で社長に就任し、困難を乗り越えてきた。新ビジネスを生み出し、会社の存在意義を明確にしてきた同社の歩みをうかがった。
幼少期から生活の一部であった家業の困難に立ち向かう
ーーどのような環境で幼少期を過ごしましたか?
デビス・ハニ:
「家庭に仕事を持ち込まない」という考えが一般的だと思いますが、私たち家族の場合は家もオフィスのような感覚で、幼い頃から仕事が身近にある環境で育ちました。
私と兄は、学校が休みの日には倉庫で手伝いをし、反物を検品したり梱包したり出荷したりと、結構な重労働でした。13歳の頃から手伝っていたので、16〜17歳になる頃には物流や生地のこともある程度は分かるようになり、大学を卒業して会社に入社した時には、製品品番まで頭にインプットされていました。
ーー今までに大変だった出来事や印象深い出来事を教えてください。
デビス・ハニ:
入社後すぐに、突然スリランカ出張を命じられました。「Victoria's Secret」という世界的に有名なアメリカのランジェリーブランドとの間で起こったトラブルに対応するためです。すぐに現地へ行って確認しないといけない問題だったので、私は何もわからない状態で現地に急いで向かいました。
そこで私は解決に向けて奔走し、その折衝過程においてスリランカで人間関係を築き上げ、日本に戻ってから気づけば私が「Victoria's Secret」の担当者になっていました。
現場第一でのテレワーク導入とデジタルショールームが導くテキスタイル業界での変革と大躍進
ーー2022年の社長就任からこれまでを振り返って、今どのような心境ですか。
デビス・ハニ:
私は、2021年に正式に社長に就任しましたが、準備は2020年から始めていました。その時期は、まさにコロナ禍でした。世界中の人々がロックダウンにより外出を控えさせられ、生産は大きく制限され生地業界に大きな影響を与えました。
世の中の多くの企業がテレワークを最大限に利用しましたが、私は逆にテレワークを必要最小限に抑えました。それは繊維、生地の色合いや風味は画面越しではわからないという実務上の大きな理由がありました。
また「コロナ禍において長時間家にいると、人間はどういう訳かモチベーションがなくなり、良くない方向に向かってしまう」と考え、多くの新しいプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトの一例としては、「デジタルショールーム」の開発に着手しました。その結果、どのような生地を新しく企画しているかを海外出張なくお客様に即座に見てもらえるようになりました。
他にも「REFYND(リファインド)」という、デッドストックや予備の販売プラットフォームを制作しました。これによって、少量からでも発注が可能になったことで、個人で経営しているショップのオーナーや自分のブランドを作りたい人も購入できるようになり、客層を広げることに繋がりました。
改めて振り返ると先が読めない中、社員にできる限りプロジェクトを与え、取引先には製造を止めないように見込み発注を入れることにより、コロナ後の売り上げアップにつながったと感じています。繊維の機械は一度止めてしまうと再起動に時間がかかり、結果的には納期も伸びてしまうため、常に機械を動かし続けていたことによりいつでもすぐにオーダーを受けることができました。コロナが落ち着く頃には既に始めていた新しいプロジェクトも軌道に乗り、デジタル化も進みました。すると、2019年のピーク時と比べても、急激に売り上げを伸ばすことができました。
ーー社内環境は、どのような点に気を付けていますか。
デビス・ハニ:
私が代表に就任して以来、インセンティブを導入しています。個人の頑張りが会社の利益に繋がり、その成果がしっかりと社員の利益として還元される制度になっています。
人は誰でも大切にされたいと願うものです。私は、お客様や社員が「自分が大切にされている」と感じられる環境をつくることが会社の存在意義だと考えています。
コラボで世界を席巻!サステナブルなアパレルとデジタル革新でアパレル業界の常識を覆す
ーー今後、会社をどのように発展させたいですか。
デビス・ハニ:
私たちが海外輸出のリーダーシップを発揮し、日本の製糸メーカーや加工場の技術・特長を活かして、「デビス×〇〇」というコラボレーション企画を広めていきたいです。
他にも、新商品の開発にも注力しています。コロナ禍のロックダウンを経験した結果、テキスタイルというコアビジネスを支えるため新たな事業を展開する必要性を感じました。
「衣食住」という人類に必要なものの視点から、テキスタイル事業の他に不動産事業、食品事業を展開しています。それに加えて、今後ニーズが高まると感じているデジタル技術と健康分野にも力を入れていきます。
デジタル事業については、コロナ禍に社内用として構築したシステムを他社や取引先に向けてシステムの提供をしつつ、我が社のデジタルショールーム、社内システム、Webstoreなどを作成しました。
健康の分野では、健康とセルフケアを新しい形で融合させるウエルネス事業を立ち上げました。これらテキスタイル以外の4つの事業の売り上げは、全体の10%程度ですが、5年を目途に利益の50%達成を目指しています。
ーーサステナビリティについてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
デビス・ハニ:
ファッション業界は、世界で第2位の汚染産業とみなされています。この問題は、私1人で解決することはできませんが、「アクションを起こすことはできる」と考えました。
そこで、「AirDye®」という大量の水とエネルギーを節約できるプリント技術、サステナブル素材でエコ化リーダーシップの舵を取ろうとしています。京都のプリント工場では、最新型の水を使わないインクジェットプリンターを導入しています。この機械はオーダーミニマムがなく必要な分量だけプリントでき無駄がなく、同時に環境への負荷も減らせます。水もエネルギーもほぼ使わず、納期も短縮できる画期的な機械です。このようなエコなビジネスモデルを強化し、地球環境にも配慮したビジネスを続けていきたいですね。
編集後記
「人は誰でも大切にされたいはず」という言葉が印象的で、その言葉通り関わる全ての人を大切に事業を展開してきたデビス社長。多くの人と関わる業界だからこそ、製品と同じぐらい人間力に重きを置き、地球環境への責任も果たそうと邁進している。次の100年に向けて挑戦を続けるデビス株式会社の今後に期待したい。
デビス・ハニ/1974年兵庫県神戸市生まれのレバノン人。1996年ペンシルバニア大学ウォートン校卒業後、デビス株式会社に入社。長年の営業経験、営業部長、取締役副社長COOなどを経て2021年、代表取締役社長に就任。