※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

髙田織物株式会社は、1890年頃から畳のフチにある畳縁(たたみべり)という布の製造・販売を行い、1950年に法人化された老舗企業だ。70年以上の歴史を持ち、全国シェアは実に40%ほどを占めるトップクラス企業だが、スタイルは先進的で、ユニークなデザインの畳縁を多数製造しているのが特徴である。同社の6代目代表取締役である髙田尚志氏に、これまでの経緯や今後の展望などについてお話をうかがった。

伝統を守るだけでなく、新しいデザインにも取り組む挑戦的な姿勢

ーー髙田織物株式会社の代表取締役に就任された経緯をお聞かせください。

髙田尚志:
小さな頃から「家業」として家族が経営をしているのを間近に見てきました。畳縁は私にとって身近なものだったため、いずれは家業を継ぐことを考えていましたし、社員も「いつかは尚志が次期社長になる」と思っていたようです。

その一方で、私は学校の先生という職業に憧れがありました。また、進学した東京の大学では環境情報学部に在籍したため、畳や経営とは遠い勉強をしてきたのです。それでも、「やはり実家を継ごう」と決意して岡山に戻り、弊社に入社しました。

家業を継ぐことにマイナスイメージがなかったのは、弊社の企業姿勢にあるかもしれません。70年以上の歴史があって畳縁を製造しているというと、「伝統に縛られているのではないか」というイメージを持たれることもあります。

しかし、弊社は全く新しいデザインの畳縁の製造も手がけているなど、凝り固まったところがなく、柔軟な姿勢があるという点に、身内という点を抜きにしても魅力を感じていました。入社後は次第に仕事を覚えていき、2020年に代表取締役に就任して現在に至ります。

社員の声を元に変えてきた「働きやすい環境づくり」で自治体表彰も

ーー代表取締役に就任して取り組まれた業務は何だったのでしょうか。

髙田尚志:
まず取り組んだのは、働きやすい環境の整備です。元から弊社はチャレンジングな姿勢を持っており、クライアントのニーズに合わせたデザインや、現代のインテリアに合う畳縁を製造していました。そうした環境だったため、代表取締役に就任する前から、「次はどのようなチャレンジをしよう?」と常に考え続けていたのです。

家業とはいえ、派手な改革をすぐに思いつくわけではありません。そのため、まずは現場で製造している技術職の方と一緒に、畳縁をつくるところから始めました。仕事を覚え、信頼関係を構築しながら、この仲間を守るために何かできることはないかと知恵を絞ったのです。

そこで見えてきたのが、働きやすい環境の必要性です。日本全体でも、弊社がある岡山県倉敷市でもそうですが、人口は減少傾向にあり、求人さえ出せば応募がどんどん集まるというわけではありません。そんな中でも、岡山県に長く根付いてきた企業であり、畳縁メーカーとしてトップクラスの実績を持つ弊社として、入社のご縁があった方と共に長く働きたいと考えていました。

ーー具体的には、どのような取り組みをされたのですか。

髙田尚志:
私が入社した当時は、部署ごとに有給休暇の取りやすさや残業時間の長短などが異なる状態でした。配属された部署によって待遇に差が出たり、退職につながったりしてはもったいないと思い、働きやすい環境をつくるべく、現状の把握と改善に乗り出したのです。

社員との面談に加えて、社労士などの専門家にも相談し、小さなことから次々に改善していきました。たとえば、留守番電話の導入は、その一例です。以前は17時以降も電話が鳴ることがありましたが、現在は17時以降に外部から電話をかけると全て留守番電話に繋がります。また、育休の推進なども行っていきました。

ーーその結果、どのような評価・変化がありましたか。

髙田尚志:
小さな改善から改革を積み重ねていった結果、倉敷市や岡山県から「働き方改革を推進していますね」との言葉をいただきました。社内外の方の声を聞き入れて変えてきたことが評価され、嬉しく思っています。

また、多彩な人材が入社することで、どんな方も活躍できる職場を実現するために、作業の一部機械化やオフィスのバリアフリー化などにも取り組むようになりました。求人募集の広告を見て「この会社、働きやすそうだな」と思って応募していただき、入社後は長く勤めていただけると嬉しいですね。

ECサイトや店舗販売など、新たな視点を持てる方の力は今後も必要不可欠

ーー今後の事業展開について教えてください。

髙田尚志:
今後は、ECサイトの拡充を進めていく方針です。私が代表取締役に就任する前は、展示会の出展や海外展開の計画を立てていました。しかし、私が代表取締役に就任した2020年はちょうどコロナ禍で、社外で行う企画が全てストップしたことが、ECサイトに力を入れるようになったきっかけです。

また、畳縁の素材を活用した雑貨の販売にも注力します。最近では和室のない家も増えています。そのため弊社では、畳縁の布をハンドメイド素材として販売したり、雑貨として販売したりと、見方を変えてさまざまな方へアプローチし始めたところです。

畳縁の素材を利用した雑貨は、以前は工場見学に来られた方にのみ小規模に販売していました。それが話題となり、わざわざ来社してくださる方も増えたため、正式に店舗をつくって販売をスタートさせたのです。「お客様のニーズがあれば、それに応えよう」という気持ちでスタートし、事業をどんどん拡大しています。

ーー新たな挑戦に向けて必要なものは何でしょうか。

髙田尚志:
やはり、人材の採用・育成だと思います。私は歴代の社長のようなアイデアマンではありませんし、強いリーダーシップもありません。これまでしてきた改革や挑戦は全て、社員と共に協力して成し遂げてきたものだと思っています。ゆえに、これからも弊社が成長していくためには、新たな人材の採用・育成が必要不可欠だと考えているのです。

また、弊社はこれまで家族が事業を引き継いできましたが、次期社長は社員の中から選出することも視野に入れています。経営幹部になれるような、新たなアイデアを持っていたり周囲と信頼関係を築ける方に来ていただけると嬉しいです。

価値のある商品をつくれば、認めてくれるお客様が必ずいらっしゃいます。弊社は海外展開も道半ばと、伸びしろがまだまだありますので、共にチャレンジできる仲間が増えていくと嬉しいです。

編集後記

創業からの歴史は135年にのぼる同社。日本の住宅に必要不可欠だった「畳縁」の製造を続け、固定観念にとらわれずに新たなチャレンジを続けてきた。近年では雑貨販売などにも乗り出し、和室が減少している現在も業績を伸ばしている。今後も新たな試みを果敢に行う同社が世の中に知られる場面はますます増えていくことだろう。

髙田尚志/1981年岡山県倉敷市生まれ。2004年に慶應義塾大学環境情報学部卒業後、実家である髙田織物株式会社へ入社。2020年に同社6代目の社長に就任。畳縁の普及と発展に精力的に取り組み、住環境やハンドメイドの材料として、畳縁の新たな可能性を広げる。女性の活躍にも注力し、2020年に倉敷市男女共同参画推進事業所に認定。2022年から児島商工会議所副会頭に就任し、地域の活性化と地場産業の発展に尽力している。