※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

2022年の日本における衣類の輸入浸透率の98%以上で、国内で流通する衣類のほとんどが海外製品という現状がある。

海外からの安価な衣料品が普及する中、メイドインジャパンにこだわり、OEM衣料品の企画・製造を手掛けているのが株式会社スペディーレだ。

ファッション業界でゼロから会社を立ち上げた代表取締役の恵守浩昭氏に創業の経緯やOEMの魅力、ものづくりへの思いなどを聞いた。

コンプレックスがきっかけでファッションの道へ

――ファッションに興味を持ったきっかけと、今までの経歴を教えていただけますか。

恵守浩昭:
ファッションに興味を持った最初のきっかけは、中学生のときに同級生から「お前の着ているシャツはダサい」と言われたことでした。些細なことですが、このときに感じた「何がダサいんだろう」という気持ちから、メンズファッション誌を見るようになりファッションにハマり、アパレル業界へ進むことになりました。

高校を卒業してからはファッションの専門学校へ入学し、その流れでアパレル会社へ入社。2年ほど原宿の竹下通りで販売の仕事をし、その後数社を経て、当時ブームだったDCブランドへの転職をしました。

――転職する前と後では、取り扱うブランドの価格帯や世界観が大きく変わったのでは。

恵守浩昭:
価格帯やイメージは大きく変わりましたが、それまでの会社での経験が転職後のDCブランドの会社でも活かせたのは良かったと思っています。

たとえばはじめの頃に勤めていた会社は、ロープライスなものづくりの現場だったので、とにかくコストが大切。ですので、生地を買うときに値引き交渉を行うのは普通のことでした。

このコスト意識を持ってDCブランドの会社でも商品の企画・販売に活かし、質を落とさずに売れる価格帯で展開したことにより面白いほど売れるような経験もできました。

幸運なタイミングでの起業と起業後にぶつかった壁


――会社員を辞めて起業された経緯についてお聞きしたいです。

恵守浩昭:
起業したのは、バブル崩壊後で先行きが不安だったことと、ものづくりへの情熱を持っていたことが理由です。応援してくれていたテキスタイルメーカーの社長が創業資金を貸してくれました。銀行もすぐにお金を貸してくれない時代だったので、かなり恵まれていると思いましたし、とても感謝しています。

また、当時はアパレル業界で現場のものづくりの現状を理解している経営者がまだ少なく、起業のタイミングとしても良かったですね。

――恵まれた状況で起業できたとはいえ、1年目や2年目は大変なことも多かったのでは。

恵守浩昭:
起業してからは、人材の確保と育成の難しさを特に実感しました。たとえば現場で何かアクシデントが起こったとき、早めに報告があれば対処出来るのですが、傷口が広がってから問題が表面化するといったことがよく起こっていたのです。

どうすれば解決できるのかを考えて、今は外部のコンサルティング会社を通して社員研修のような勉強会を開いています。人材育成の問題は会社設立から10年くらい経ってから少しづつ解消されはじめ、最近は徐々にまとまってきたところです。

OEMの魅力は個性あふれるブランドや人との出会い


――恵守社長は、他社ブランドの製品を製造する、いわゆるOEMの仕事にやりがいを感じているかと思います。どういった点に特に魅力を感じますか。

恵守浩昭:
たとえば特定のアパレル会社に入社すると、そのアパレルブランドの世界観に沿ったものづくりをすることになりますよね。それももちろん良いことですが、OEMではいろいろなブランドやいろいろな人に出会うことができます。

弊社は300社ほどの工場と付き合いがあり、それぞれに製造するアイテムや得意とする技術や仕様があります。

多くの工場との付き合いがあるからこそ、多様な選択肢のなかからお客様が満足するものづくりが提供できる。それがOEMの魅力であり、弊社の強みだと感じています。

――なかでも貴社は、メイドインジャパンの商品にこだわりがあると伺いました。

恵守浩昭:
日本に流通している衣類は中国、ベトナムなど海外からの輸入品がほとんどで、日本製の商品は減少の一途を辿っています。一方で日本人の気質から生み出される洋服の味わいは長く残されるべきだと思います。ですので、弊社では日本のものづくりを守るという意味でも、メイドインジャパンにこだわっていきたいです。

ものづくりを通して社会へ貢献する取り組みにも挑戦


――人材育成で苦労されたと先ほどおっしゃっていましたが、今後どのような人に会社に来てもらいたいとお考えですか。

恵守浩昭:
縫製工場で働く人の立場に立ってお客様と関わり、周囲の人たちに利益を還元できる人でしょうか。製品をつくる現場はやはり大変ですから、社員たちには縫製工場で働く人たちの姿をしっかりと見てもらって、お客様と工場の橋渡し役を担ってもらいたいですね。

工場で働く人やお客様など、相手に対する思いやりを持ち、仕事に向き合える人と一緒に働きたいです。

――OEM衣料品の企画・製造のほかに、新たな取り組みを始めたと伺いました。最後に、今後どういったことに挑戦していきたいのか教えてください。

恵守浩昭:
弊社では「Lovéco」という、生地で花を作るブランドを新たに立ち上げました。服を作る際に出る残布を使って何か新しくできないかなと考えたのがきっかけです。昨今、脱炭素化が叫ばれていますが、衣類の再生などを通して、弊社も社会へ貢献していきたいと考えています。大手百貨店のポップアップストアに出店していますが、非常に好評を得ています。
今後、より多くの方に手にとってもらいたいと考えています。

編集後記

「日本のものづくりは宝、縫製工場は最も大切なパートナー」と話し、工場と手を取り合って会社を成長させてきた恵守社長。ものづくりとそれに関わる人たちへのリスペクトを忘れない株式会社スペディーレが、今後も日本のものづくり産業を支えてくれることに期待したい。

恵守浩昭(えもり・ひろあき)/1961年生まれ、埼玉県出身。1981年にメンズファッション専門学校卒業。ファッション系の会社に入社して数々の経験を活かし1998年3月、36歳で株式会社スペディーレを設立。