2000年に設立され、東京都港区に本社を置くカラーズ株式会社。東京発のオーガニックコスメカンパニーとして自社ブランドや大手ドラッグストアのPB製品を開発・発信している。事業を立ち上げた経緯や商品開発への思いについて、代表取締役の橋本宗樹氏に話をうかがった。
独自の道を貫く起業家精神――イベント企画からコスメの領域へ
ーー25歳で起業に至った経緯をお聞かせください。
橋本宗樹:
日本人形メーカーを経営していた親戚が自然体で楽しそうに見えたので、若い頃から「起業したい」という思いがありました。学生時代のアルバイト経験が大きく影響し、創業ビジネスではイベントの企画・制作を選びました。スポーツが音楽・ファッション・アートなどの文化とともに進化する流れを体感でき、ただ実施するのではないイベント運営の奥深さを感じたのです。
ーー大切にしている考えを教えてください。
橋本宗樹:
何事も「尖る」ことが重要だと考えています。「本物」をつくったり、世の中にないものに挑戦したりすることです。人がやらないことをやるときにはメリットと同じくらいデメリットも強まりますが、デメリットにも立ち向かう覚悟を持っています。
ーーなぜコスメの領域に進出されたのでしょうか?
橋本宗樹:
良質なイベントをつくる弊社が多くの人に支持されたからではないでしょうか。大手ドラッグストアに勤める友人もその一人で、「プライベートブランド(PB)をつくってみないか」と誘われたのです。昔からイベンターとして流行の発信層とともに文化をつくる努力をしてきたので、「何かいいものをつくれるのでは」と期待してくれたのだと思います。
「面白そうだからやってみる」と異業種である化粧品の領域に踏み出し、まずは開発予定のヘアケア製品について他社のブランドを調べ抜きました。仕事を受けていただけるOEM会社がなかなか見つからず苦労しましたが、熱意を持って担当者を一人ずつ口説いていきました。一緒にチャレンジしてくれたメーカー様とは今もお取引が続いています。
こだわりのある独自商品の開発で、新しい価値・概念を生み出す
ーーPB商品がヒットした要因はどこにあると思われますか?
橋本宗樹:
既存のドラッグストア商品を模倣しなかったことが大きいと思います。新しい価値をつくり出していく上で、先ほどの「尖る」という意味でも「自分たちが引っ張っていく」という意識をいつも強く持っています。
当時、ドラッグストアで展開するヘアケア商材のPET素材のボトルには、パッケージにほこりや傷を防ぐためのシュリンクフィルムをつけることが一般的でしたが、私たちはそれを無用と考え、美しさを実現するためにシュリンクフィルムを外す取り組みを他社に先行して実現しました。
今では、シュリンクフィルムを見ることは稀になりましたが、当時は取引先などから心配されるくらい新しい取り組みでした。
ーーオーガニック化粧品の領域にも進出されましたね。何かきっかけになる出来事はありましたか。
橋本宗樹:
「ザ・ボディショップ」の創業者であるアニータ・ロディック氏は、化粧品メーカーでありながら店内で政治的メッセージを発信しました。事業やブランドを通して社会にメッセージを発信する姿が格好良く、面白いと感じました。
メーカーは、ものというより概念をつくり、一つの哲学を表現しているのだと知り、自分も「いろいろな想いや哲学を起点としたブランドをつくりたい」と思ったのです。
ーー製品へのこだわりもお聞かせください。
橋本宗樹:
弊社は、植物の芳香成分を凝縮した精油(エッセンシャルオイル)をたくさん使う会社です。精油は品質や供給が安定せず、消費者にとっては「価格が高い」「香りが残りにくい」などネガティブな面があります。それでも私たちは、植物が生きるために自らつくり上げた成分は人間の体にも良いと考え、精油にこだわっています。
精油が体に与える影響について科学的に検証し、「THE PUBLIC ORGANIC(ザ パブリック オーガニック)」の開発には多くの時間とコストを費やしました。商品づくりにおいては「効果があるように見せる」のではなく、「効果のあるものをつくる」ということも意識しています。
ーー自社製品への注目も高まっていますね。
橋本宗樹:
人口1,000万人を超える東京では、多くの人がコンクリートジャングルの中でストレスに悩まされています。そんな東京の人たちをイメージしてオーガニックの力でストレスを解消するために開発したのがヘアケア&スキンケア・アロマ用品を中心とした自社ブランド「THE PUBLIC ORGANIC」です。
開発にあたっては植物療法士の資格を活かし、精油による癒し効果を研究しました。精油にはホメオスタシス(恒常性維持機能)を維持する働きがあり、香りを嗅いだときに出るホルモンの量と自律神経や免疫の働きを計測したところ、驚くべき数値が出たのです。
コンセプトにもある「東京」は僕の中ではとても合理的なものです。精油の効果をしっかり数値化したことも東京でつくるオーガニックコスメとしての個性や特徴が評価されたポイントだと思います。
精油とドラッグストアの可能性を模索し、能動的な仲間と新たな未来を目指す
ーー次なる数十年後の夢をお聞かせください。
橋本宗樹:
教育機関にもご協力いただき、精油についてさらに踏み込んで研究しています。効果の有無を検証し、世の中に商品をお届けすることは弊社の長期的な使命です。化粧品以外の領域では、認知症改善に関する精油の効果にも注目しています。
全国に存在する「美容と健康」に高い関心をもつ人にとって、地域のドラッグストアに最高のプロダクトがあることは、理想の環境だと考えています。私は時々ドラッグストアが過小評価されていると感じる時があります。
ドラッグストアは地域の美容と健康を司る、とても大切な場所です。世の中の素晴らしい製品、本当に効果する製品がドラッグストアで手軽に買える理想の環境を実現し続けるためにも、信念をもって最高のプロダクトをお届けし続けることが、私たちの使命のひとつだと考えています。
ーー最後にメッセージをお願いします。
橋本宗樹:
能動的かつ前向きに動く弊社を軍隊でたとえるならば「ゲリラ部隊」です。それぞれがプロフェッショナリティを持ち、自分で考えて行動できることが重要で、そういう人間がたくさん集まっているのがカラーズなのです。
多様性を重んじる文化もあります。プチフレックス制度や華金(はなきん)制度など、オリジナルの制度が多数あり、通常の休暇に加えて、2週間まるまる取得可能な特別な休暇制度もあります。この制度は5年以上働けば、1ヶ月の休暇となると同時にボーナスも支給されます。仕事とプライベートを両方重んじ、体験やインプットを大切にしている社風だからこその制度です。
編集後記
まったくの異業界から美容の分野に飛び込み、オーガニックコスメをヒットさせた橋本社長。流行に乗るだけのビジネスではなく、独自の視点で市場を見渡す中で植物が持つパワーに着目した。カラーズの高品質な製品がより身近になることは、ストレスフリーかつ誰もが暮らしやすい社会の実現に直結するだろう。
橋本宗樹/1975年生まれ。2000年2月にカラーズを設立。自社ブランド「THE PUBLIC ORGANIC」、マツキヨココカラ&カンパニーのプライベートブランド「ARGELAN」等を開発し、マスマーケットにおけるオーガニック・ナチュラルコスメのパイオニアとなる。