地元に根付いた老舗企業は信頼と安定を築く一方で、しばしば停滞のリスクも抱えがちだが、アルバイトや留学、ゲストハウス運営といったさまざまな経験を経た後に家業に入った株式会社フルカワの代表取締役社長、古川洋平氏は、経営理念で企業に新たな風を吹き込んでいる。今回は、古川社長の意外な経歴と、そこから生まれた堅実かつ革新的な経営理念についてうかがった。
「なにかに縛られたくない!」という思いで挑戦の日々へ
ーーまずは、大学生から社会人になるまでの経緯を教えていただけますか?
古川洋平:
福岡で大学時代を過ごし、ギターサークルで弾き語りをしていましたが、就職活動が始まってもなかなか気が乗らず、「通常の職業ではない何か」を探していた感じで、そんな中、私を含めたサークルの仲間4人で、ある量販店の求人に応募しました。
後に見た映画『ソラニン』の苦悩の主演の高良健吾さんのように、「これでいいのか?」という不安や揺れが心の中にありました。量販店ではアルバイトとはいえ準社員のような形で働きましたが、仕事はとても楽しかったです。九州進出の先鋒ということで時給も良かったですし、売り場づくりや値付けもバイトに任されることが多く、B級品を仕入れて「これ、君たちで値段を決めて売ってみて」と任されることもありました。
当時、正社員になることも、家業に入ることにも消極的でした。
ーーその後、イギリスに留学されたとうかがいましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
古川洋平:
26歳の時、量販店に4年ほど勤めた頃に、同僚に「留学を考えている」と話したら、「今さら海外に行ってどうするの?もう落ち着く歳だろう」と言われました。確かにそうですが、行かないで後悔したくないという思いが強く、年齢に関係なく、体験することが大切だと考え、イギリス留学を決断したのです。
インテリアデザインや建築に興味を持っていましたが、バックグラウンドがなかったこともあり、1年間交換留学のビザで滞在しました。それでも、それなりに日常会話レベルの英語は身につけることができ、帰国後は友人の誘いで博多のゲストハウスの立ち上げに参加しました。また、古い長屋をリノベーションしたりして、これも貴重な経験になりました。
強い会社をつくるための意識改革
ーーいよいよ家業に入ったときに考えたことは何ですか?
古川洋平:
30歳で実家に戻り、73年の歴史を持つ長崎県の菓子問屋に入りました。社員が共有すべきコンセプトと価値観をつくることが、まず必要だと思いました。
そのため、「経営理念は会社が考えるもので、自分たちには関係ない」と考える社員も多かったのです。この溝をどう埋めるかが課題でした。
もし社員に経営者の視点を持たせることができれば、会社は非常に強くなるはずです。ただし、「経営者とできるだけ同じ視点を持て」と指示するだけでは不十分で、共同体として理念を共有することが重要だと考えています。社員にやらされていると感じさせずに、どうすれば自発的に取り組んでもらえるか、その方法については今も模索中です。
ーー貴社の強みと現在の展開についてお話しください。
古川洋平:
まず第一に、私たちはお菓子を扱っているという点が強みで、お菓子は「美味しい・楽しい」というイメージがあり、それ自体が強力な武器だと思います。私たちはその立ち位置を活かし、最近ではオリジナル商品の開発にも力を入れています。
たとえば、佐賀県に「ブラックモンブラン」というアイスをつくっている竹下製菓という会社がありますが、そこの営業担当者との雑談からコラボ商品が誕生したことがあります。
また、地元のコーヒー店「長崎スコーコーヒーパーク」とも協力し、「長崎珈琲クランチチョコレート」が生まれました。オリジナル商品のアイデアは、常にこのようにして生まれます。
お菓子だけに留まらない流通を目指して
ーー問屋という流通業として、新しい展開は考えていますか?
古川洋平:
現在、流通は大手に集中しており、中小規模の会社が吸収されるケースが増えていますが、その結果としてニッチな商品や情報がお客様に届かなくなることが懸念されています。地元の小売店に商品を届ける物流として生き残ること、こだわりの商品、ニッチで珍しい、ローカルな商品を届けることに注力したいと考えています。
「フルカワは長崎の面白いものをそろえている」という認識を広め、そこから全国展開への道を切り開きたいと考えています。
ーー最後に、貴社の「ありたい姿」について教えてください。
古川洋平:
私たちの営業理念には、「人づくり・生きる場づくり・笑顔づくり」というものがあります。社内でよく「どうしたら笑顔をつくれるか?」という話をします。それにはまず、自分たちが楽しさを知っていることが大切です。そして、その楽しさをお客様や企業に伝え、その先の消費者にも伝えることが目標です。
そうやって笑顔が生まれれば、お店も企業も、そして私たちも笑顔になれる。経営理念を通じて、そんな笑顔の連鎖をつくれると信じていて、お菓子屋として、それが私たちの最大の使命だと思っています。弊社を「何か相談したら、面白い情報をくれるところ」と思っていただけるように努めていきたいですね。
編集後記
古川社長は気さくな話しぶりで青春時代を語りつつ、社長業に関しては言葉を慎重に選びながら話してくれた。一聴すると悲観的とも思える見解を示す場面もあったが、その裏には深い洞察力と強い信念が感じられた。将来に対する展望は常に明るく、その前向きな姿勢が、会社全体に良い影響を与えている。古川社長の経営理念は、自社や社会に笑顔を届け続けるだけでなく、新たな価値を創造し続けることにつながっていくだろう。
古川洋平/1979年、長崎県生まれ。九州産業大学経営学部国際経営学科卒業。26歳の時にイギリスのウェールズに1年滞在。福岡でゲストハウス「界音」を立ち上げ、運営。2010年に株式会社フルカワに入社し、2020年に代表取締役社長に就任。