※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

地球温暖化の影響を受け、再生可能エネルギーの導入加速化が叫ばれている。普及の壁となっていた従来のアナログ電力システムとの連携問題を解決に導くのがデジタルグリッド技術だ。この革新的な技術の普及に邁進する株式会社DGキャピタルグループ。その代表取締役兼COOを務める新海優氏にデジタルグリッドにかける思いと今後の展望について話を聞いた。

ものづくりの会社から転職し通信の事業を経てデジタルグリッドの普及に取り組む

ーーDGキャピタルグループを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

新海優:
大学卒業後はINAX(現LIXIL)に入社し、開発した商品の販売プロモーションを主に担っていました。その後、急激に変化する時代の潮流に乗りたいと考えてソフトバンクに転職し、ガラケーからスマートフォンに変わるタイミングで私はモバイル通信革命の仕事に携わっていました。

ソフトバンクでプロジェクト責任者なども経験を積んできて、そろそろ外に出ようかと考えたタイミングで、電気識別を可能にして再生エネルギーを導入しやすくするデジタルグリッド技術を提唱していた元東京大学特任教授の阿部力也先生の構想を実現できるのは自分しかいないと思い、2020年に共同でDGキャピタルグループを設立し、今に至っています。

ーー会社設立後の苦労や嬉しかったことをお聞かせください。

新海優:
電気識別を可能にするデジタルグリッド自体が非常に革新的なものであったため、当初は法規制を含めいろいろな外部要因で苦労の連続でした。その中でも一人また一社とサポートしてくださるパートナーや支援者ができ、その積み重ねで徐々に形になり、ここまで来れたのは非常に感慨深いです。

電力のデジタル化により従来のエネルギーから再生エネルギーへの移行を加速する

ーー貴社の事業内容を改めて教えていただけますか?

新海優:
電気は貯蔵が難しく、今まで既存の電力会社がエリア内の電力の需要と供給を同時同量にするように制御していました。このバランスが崩れると電気の周波数が不安定になり、最悪の場合は大規模停電を引き起こしてしまいます。

再生可能エネルギーは出力変動が大きく、同期化力や周波数を維持する慣性力がないため、既存の電力会社の電力網との連系が大きな課題でした。この問題を解決するために導入されたのが、系統電圧を測定して、目標電力相当の電圧位相差で電力を送り込むグリッドフォーミング技術です。この技術をいち早く実現したのが、弊社の共同代表である阿部力也先生です。

再生可能エネルギーの比率が増えてくると、その周波数を電力会社のものに合わせて維持しなくてはなりません。そのために必要となるのが私たちの持っているコア技術です。

今までは再生可能エネルギーを導入したくてもできない地域が多かったのですが、弊社の技術は慣性力や同期化力を備え、火力発電所と同等の品質を持っています。このため、再生可能エネルギーを主力電源化する日本の政策の実現には、私たちの技術が必ず必要になると思います。

ーー現在どのようなプロジェクトを推進していますか?

新海優:
主なプロジェクトは、環境省に脱炭素先行地域として選定された沖永良部諸島における島全体のデジタルグリッド化です。離島は電力系統の規模が小さく、連系する再エネによっては電力系統の不安定さが顕著に表れます。このため、既存の電力システムと協調制御を行うためにグリッドフォーミング技術を導入していきます。

日本には離島が約400有人島ありますが、世界中の離島も同じ問題を抱えています。現在海外で、このプロジェクトをスリランカで展開していますが、今後は東南アジア諸国、たとえばインドネシアの離島など、必要とされている地域から順次世界に広めていきたいと思っています。

デジタルグリッド技術を普及させるための課題と展望

ーーデジタルグリッド技術のリーディングカンパニーである貴社の強みを教えてください。

新海優:
弊社の強みは行政に先駆けてチャレンジしていることです。電力系統と協調制御し、グリッドフォーミングという系統をつくることが必要になってきます。これからこの分野に参入する企業は増加していくと思います。

弊社の技術を使うことで、デジタル制御によって既存の電力系統と共存しつつ電力を自由に融通することが可能になります。地産地消の再生エネルギー分散型の発電所が各地にできているので、地域のエネルギーを使った地方創生の原動力にもなると感じています。

ーーどのようなパートナー企業や事業家と今後組む予定ですか?

新海優:
デジタルグリッドは、地域にソフト面だけでなくハード面もつくる必要があります。制御するマザーボードの部分は弊社で作り、変換するハードの部分は各国でそれぞれ作ってもらうパソコン分野の「インテル・インサイド」のような部品主導型ビジネスモデルを目指しています。

名乗りを上げてくださる企業があれば、その企業が所属する国が候補地となります。判断基準は弊社の設計基準で物を作れるかどうか、マーケットに対する生産能力、国との関連性です。国も地域のエネルギーによる地産地消を推奨しており、弊社は地方創生を検討する地域密着企業からもお話をいただいています。

ーー今後の課題と展望についてお聞かせください。

新海優:
デジタルグリッド技術は世界で必要とされています。いかに一緒に組むパートナー企業や支援者を募り、広げていくかが課題です。弊社は、ベンチャー企業として急成長しているため、資金調達や組織作りにも苦労があります。

世界中で再生エネルギーの主力電源化の波は止められない状況です。グリッドフォーミングという接続方式を世界中へ普及するために、沖永良部諸島やスリランカでの実績をどう世界に発信するかが課題です。共同代表である阿部力也先生が開発したこの技術を広めたいという使命感を持ち、日々活動しています。

編集後記

再生エネルギー導入の加速を後押しする画期的な技術であるデジタルグリッド。この技術を世界に広げる使命感と変革への期待感で、新海COOは走り続けている。その情熱と行動力は、まさに世界的なエネルギー革命を推進する力となっている。世界的なエネルギー革命のリーディングカンパニーとしてひた走るDGキャピタルグループの今後の動向に注目したい。

新海優/1974年、愛知県生まれ。大学卒業後、株式会社INAX(現株式会社 LIXIL)、ソフトバンク株式会社を経て、阿部力也元東京大学特任教授が提唱したデジタルグリッド構想を実現するため、2020年に共同代表で株式会社DGキャピタルグループを設立し、代表取締役兼COOに就任。2023年、環境省脱炭素先行地域である沖永良部島に株式会社えらぶゆり電力を設立し、代表取締役社長に就任。