生成AIの活用が話題となっている近年、ビッグデータやAIなどのデジタル技術を活用するDX(デジタルトランスフォーメーション)や、情報技術分野で活躍するIT人材についても耳にする機会が多い。そんな中、約10年前からAI技術を活用した事業を展開しているのが株式会社ガラパゴスだ。
代表取締役社長の中平健太氏に、創業のきっかけや事業内容の着想、そして成功までの苦労と挑戦についてうかがった。
同期4人で起業を決意 デジタルものづくりへの挑戦
ーー貴社の創業のきっかけと、当時の構想をお聞かせください。
中平健太:
大学卒業後、2006年に製造業のコンサルティングファームに就職しました。この会社は、日本の産業で重要な役割を担う製造業の効率を高めることで日本の経済力を強化する、というビジョンを掲げていました。優秀な同期や先輩も多く、仕事はとても充実していました。転機となったのは入社して2年が経過した頃の同期との集まりで、将来について本音で話しているうちに、「一緒に会社をつくって新しいことを始めよう」という話で盛り上がりました。その1年後の2009年に、同期4人で株式会社ガラパゴスを創業しました。
起業を決めたものの、コンサルティングの仕事が非常に忙しかったため、新しい会社の事業内容について話を進める余裕がないまま1年が過ぎ、本格的に考えたのは退社後でした。検討した結果、前職でしっかりと学んだ日本のものづくりについての経験を活かし、新しい会社は「デジタルものづくり」である、システム開発やWebサイト制作を事業の中心に据えることに決めました。
Web制作からAI開発へ!挑戦し続けた10年の苦労と進化
ーー現在の事業に至るまでにはどのような経緯がありましたか?
中平健太:
2009年3月の創業当初はガラケー(ガラパゴス携帯)のサイト制作を手掛けていましたが、同年8月に日本で発売されたiPhone 3GSを手にしたとき、今後はガラケーからiPhoneへと市場が移行していくと直感し、すぐにスマホアプリ開発を主力事業に切り替えました。
Webサイト制作は競争が激しいレッドオーシャンでしたが、アプリ開発はまだブルーオーシャンだったため、参入を決断したのです。その結果、予想通りアプリ開発案件の受注が増え、2010年頃には現在も継続しているアプリ開発事業の基礎ができました。
それから5年後、売上が一定額に達し利益も出初め、社員数も30名ほどに増えて会社が安定した頃のことです。もともと世の中を変えたい、何か新しいことを始めたいと起業したはずが、いつの間にか安定に甘んじているという感覚に陥っていました。そんなとき、たまたま参加した勉強会でAIが画像を生成する技術に出会い、大きな衝撃を受けたのです。それがきっかけとなり、2016年にAIの研究開発を本格的に始めようと決意を固めました。
それ以前にも新規事業にはチャレンジしていましたが、Twitter(現X)のbotや、スマホアプリのプラットフォーム開発など、10年間で14回の失敗を重ねていました。試行錯誤の結果、最終的にAIのディープラーニング技術をデザイン分野で活用する「AIR Design(エアデザイン)」という事業にたどり着いたのです。
最初に開発したのは、デザイン未経験者デモAIを活用して簡単なロゴを自動生成することができるという、当時としては画期的なシステムでした。しかし、ロゴ制作の市場規模が小さく、売上が伸びないことに気づき、2018年末にはロゴのAI事業から撤退し、現在取り組んでいる広告デザイン事業に移行していったのです。
「私たちは世界を変えられる」確信したきっかけと方向転換
ーー広告デザイン事業を軌道に乗せるために、どのような取り組みをされたのですか?
中平健太:
ロゴ制作の事業はうまくいかなかったものの、AIのディープラーニング技術を活用したクリエイティブデザインは必ず成功すると信じていたため、この分野から撤退することは考えませんでした。そこで、デザイナーやライター、ディレクター、広告代理店の方々など、クリエイティブデザインに関わる約50名にヒアリングを行った結果、Webマーケティングに使用される広告デザイン(特にランディングページやバナー)の制作にチャンスがあること、そしてその市場規模が大きいことに気付いたのです。
「AIR Design」の構想ができた際、仲の良かった広告代理店の社長に企画書を持って相談に行きました。説明が終わるとすぐにその社長に「大変だからやめておいた方がいい」と止められたのですが、そのとき、私は「よし、勝った」と思いました。業界のプロが大変だと言っているのであれば、他社に先駆けてそれを成し遂げれば成功間違いなしだと思ったからです。そこから社内の組織や仕組みを構築して、販売を開始したところ、反響が強く契約社数が右肩上がりに増えていったのです。
ーー貴社の営業戦略についても教えてください。
中平健太:
新しいビジネスモデルを世の中に発信するのは非常に大変で、先行投資で事業を拡大していたため、資金繰りにも苦労しました。当初は予算が少ないお客様を多数獲得する戦略をとっていましたが、サービスや提供する価値を見直して、大手・中堅企業との取引へと戦略を変更したことが成功につながったと考えています。
「AIR Design」がターゲットとしている広告およびマーケティング市場は非常に広大で、まだAIを活用できていない企業が依然として多く存在します。そのため、今後も成長の余地が大きい領域だと確信しています。
生成AIがつくる新たな時代 テクノロジーの主役交代に挑む戦略
ーー今後の展望についてお願いします。
中平健太:
まさに今この瞬間が、テクノロジーの世界で主役が交代するタイミングだと考えています。数十年前にテレビが登場し、コマーシャルが生まれました。その後、インターネットやスマートフォンが普及し、情報革命が起き、サイバーエージェントのような広告代理店が主役になりました。そして今、生成AIが大きく普及し、クリエイティブの世界に革命が起きようとしています。今こそが挑戦するチャンスなのです。
私たちは「AIR Design」をさらに進化させ、広告・マーケティング市場でのAI活用を推進し、安定的に成果を出せるようなシステムを提供していきたいと考えています。2030年代に数百億円から数千億円規模の売上を目指し、既存の広告代理店とのM&Aを含む拡大戦略を進めていきます。
編集後記
取材中、中平社長は「AIを従業員のように使いこなすことが大切であり、デジタルものづくりに産業革命を起こしたい」と語った。その挑戦は、社会に大きな影響を与えたいという思いから始まっており、社会の流れをいち早く察知して進んでいく姿勢に感嘆させられる。テクノロジーが進化し、AIに仕事を奪われるという懸念もある中で、中平社長の「AIを使いこなす」姿勢はますます重要になってくるだろう。この変化の波の中で、株式会社ガラパゴスがどのように進化していくのか、今後も注目したい。
中平健太/1981年東京生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、株式会社インクス(現SOLIZE株式会社)でプロセス改善コンサルティングに従事。2009年に株式会社ガラパゴスを創業。広告デザインを高品質・高速に制作するサービス「AIR Design」をリリース。ICCサミットカタパルト準優勝、Mizuho Innovation Awardなど受賞多数。