業務効率化を目的に、さまざまな会社がAI技術を活用している昨今。そんな中、Spiral.AI株式会社はLLMの技術を活用し、生成AI×コミュニケーションの領域で「人間らしさの再現」に挑戦している。
「弊社には好奇心旺盛な人が多い。生成AIの分野には、高い好奇心が必要」と語るのは、代表取締役CEOの佐々木雄一氏だ。
強い好奇心と探求心を持つメンバーで構成されるSpiral.AI株式会社とは、一体どのような会社なのか。同社の強みや生成AIの将来性、佐々木社長の夢などを聞いた。
将来性を感じさせる生成AIに出会い起業
ーー独立の経緯を教えてください。
佐々木雄一:
私は小学生の頃から自分で望遠鏡を組み立てたり、AIの基礎のような本を両親に買ってもらったり、理系分野に興味がある少年でした。
キャリアをスタートしたのは、スイスの欧州原子核研究機構です。ここで、ノーベル賞を受賞したヒッグス粒子の発見に携わった後に、「技術だけでなくビジネスも1度学んでみたい」と思うようになりました。
そこで、ビジネスを学びつつ世の中にインパクトを与えられる仲間と働こうと、McKinsey&Companyに入社しました。その後、スマートシティのAIシステムを開発するNeural Pocket社へ転職。そして、30代のうちには自分で起業したいと思っており、実際に弊社を立ち上げたという流れです。
当時、生成AIの分野はまだ非常に新しく、活用事例がほとんどありませんでした。「OpenAIに勝てるわけがない」という声もありましたが、私は「生成AIがインターネットのような大きなインフラになるだろう」と予感していました。
AIを通して人間と対話するような体験を提供したい
ーー事業を行ううえで、どういった価値観を大切にしていますか。
佐々木雄一:
私は生成AIの可能性を信じています。生成AIは黎明期にあり、いずれインターネットのように爆発的に普及するはずです。その一方で、今の世の中は、生成AIのポテンシャルを活かしきれていないとも思っています。
たとえば私が初めてChatGPTを使ったとき、「人間のように賢い友達ができた」と非常に驚きました。現在ChatGPTは業務効率化を目的に使われることが多いですが、私はそのような使い方では、まだ生成AIの良さを100%活用できていないように思います。
そこで、私がChatGPTを「人間みたい」と思ったときの新鮮な気持ちを、そのまま事業にしたいと思いました。AIを活用してキャラクターと会話できるようにするなど、人間と対話するようなことを目的とした使い方ですね。
ーー事業内容を教えてください。
佐々木雄一:
弊社は、大規模言語モデル(LLM)の開発を専業としている会社です。ゼロから言語モデルをつくる力があり、これを先ほどお伝えした「人間性の再現」として活用できるのが弊社のユニークな点です。
主に芸能人やキャラクターをAI化させて喋らせるAIキャラクター事業において、LLMを活用した会話サービスの開発を行っています。
弊社の言語モデルは、自然な口語形式で、マルチターンの会話に特化して調整されているのが特長です。ついツッコミたくなる余白を残した発言や、LLM側からユーザーに問いかけてくる挙動など、一般的なLLMとは異なる振る舞いを学習させており、自然な会話を行うことができます。
「AIが隣にいる」日本の文化特性を活かして、世界へ挑戦
ーー今後の展望と注力テーマを聞かせてください。
佐々木雄一:
10年後には技術とエンターテインメント領域において高いバランス感覚を持っているソニー株式会社のような会社になることを目指しています。
私たちが得意としている「自然なマルチターン会話ができる言語モデル」は新しい技術なので、自ら先陣を切って未来の可能性に賭けたいというお客様とともに市場を開拓していきたいと思っております。そのため、この生成AIの分野にともにチャレンジしたいお客様と多く出会っていきたいですね。
ゲーム会社やイベント会社に私たちが技術支援するという形も理想ですし、「ゆるキャラ」をはじめとするキャラクターの活用という方向性で私たちの事業に興味を持ってくださる自治体とも協力できたらと思っています。
ーー最後に佐々木社長の夢をお願いします。
佐々木雄一:
将来的には、ドラえもんのような存在をAIでつくれると夢がありますよね。「AIの隣にいるのが日本人、AIと相対するのがアメリカ人」と言われることがありますが、このようなAIが隣にある日本の文化特性を活かした弊社のサービスは、世界で活躍できると思います。また、弊社のこういった事業に興味がある人は、一緒に面白いことができたら嬉しいです。
編集後記
佐々木社長は同社の社風について「ジャズのような組織。技術チームが良い製品をつくれば営業チームが面白い案件をとってくる。お互いが煽り合いながら、良いものをつくる視点を持ったメンバーが増えている」と語った。生成AIを使って社会を変える同社の挑戦はまだ始まったばかりだが、取材を通して、同社の高い技術には人々の心を豊かにする大きな可能性を秘めていると感じた。
佐々木雄一/東京大学で物理学を専攻し、スイスの欧州原子核研究機構(CERN)で ブラックホールなどの研究に従事。 その後、McKinsey&Companyにて企業のIoT、ビッグデータ、AI利用を支援。 スマートシティAIを開発するニューラルポケット株式会社にてCTOとしてAI開発をリード。 創業約2年半で上場を果たし、創業4年で社員数を250名に拡大した。2023年3月Spiral.AI株式会社を設立。