※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

ホールケーキの上部に飾られる、誕生日などを祝うメッセージ付きのチョコレートプレート。これらのチョコレートでできたオーナメントをはじめ、ボンボンショコラやクッキーなどのオリジナル商品を製造し、ホテルや洋菓子店に届けているのが、株式会社たにぐちだ。

「最大の強み」だという社員の特徴や、大切にしている考え、チョコレートでつくったストローの開発などについて、代表取締役社長の谷口雅一氏にうかがった。

食べる人と、働く社員の笑顔を意識した商品づくり

ーーたにぐちに入社後の経緯を教えてください。

谷口雅一:
入社後は営業職に就き、製菓材料問屋も兼ねていた当時は伝票作成や荷物の配達など、さまざまな業務に携わりました。並行してチョコレートの営業活動も行っていたので、とても忙しかったですね。

このとき特に学びになったのが、期日を守るなど当たり前のことをきちんと遂行する大切さです。社会に出て基本的なことができていない人が多いことに気付き、その重要性を感じました。

ーー入社後に後継者としてのプレッシャーを感じましたか。

谷口雅一:
当初は周囲の目が気になっていた時期もありました。しかし、自分の立場はサッカーのホーム&アウェイのように、状況によって追い風にも向かい風にもなると気付いたのです。

たとえば失敗をしたら「あいつはだめだ」と批判されますが、後継者として責任を引き受けたことで「この人に言えば何とかしてくれる」という信頼も得られます。つまりプラスマイナスゼロだと思ってからは、創業者の息子という立場を気にしなくなりました。

ーーお父上から学んだことについてお聞かせください。

谷口雅一:
直接的な教えはありませんでしたが、日常生活の中で経営者としての姿勢を見せてくれていたように思います。

たとえば、当時食事に行った際にデザートの飾りを持ち帰って量産できる方法を家で考えたり、バレンタインデーなどのイベント時には百貨店の視察にもよく行ってたりしていました。また、レストランに連れて行ってもらい、見て、食べて、食のプロが演出するその場ならではの雰囲気を体感させてもらいました。

ーー社長就任後はどのような取り組みをしてきたのですか。

谷口雅一:
主に社員の仕事への意識向上に取り組みました。それまで工場では、毎日大量の注文を受ける中でとにかく目の前の仕事だけ必死にこなしていました。それはもちろん評価すべきなのですが、社員がもっと前向きな姿勢になってほしいと感じました。

ものづくり、そして商いに大事な「笑顔」という本質が抜けていたことに気付いたのです。そこで、「お客様と、関わるすべての人々を笑顔にする」を理念としたコンセプトブックを作成しました。

社員全員に企業理念をより深く理解してもらうことで、ただ仕事をこなすのではなく、やりがいを持って働ける環境づくりの土台をつくることができたと思います。さらにお客様、仕入先様、地域の人々にも配布し、当社の取り組みや想いに賛同していただき、より良好な企業活動の輪を広げています。

製品加工度と再現性の高さをもたらす技術の秘訣は「社員」

ーー貴社の強みについてお聞かせいただけますか。

谷口雅一:
チョコレートオーナメントの加工度の質の高さと、他社から依頼を受けて製造するOEMでの再現性の高さです。営業がお客様の要望をヒアリングし、工場で忠実に再現します。

それを遂行できるのが弊社の最大の強みである「社員」です。どんなに厳しい局面でも最後までやり抜く姿勢と、機動力の高さが優れています。また、食品の「安全」を追求した国際規格のFSSC22000や、環境を保護するための規格のISO14001を取得しています。食品の安全を追求すると共に、地球環境に配慮した活動を行っています。ここまで会社が成長できたのは、縁があって一緒に働く「社員」がいるからだと感じています。

目指す人物像とスローガンを通してできた「受け身ではなく自ら考え動ける」組織

ーー貴社が大切にしている考えを教えてください。

谷口雅一:
現会長から受け継いだ理想の人物像を表す「心得八気」(「元気」「勇気」「本気」「根気」「気配り」「気遣い」「気づき」「気転」)です。社員には、文字で認識するだけでなく、その言葉の真意まで思いを巡らせてほしいと思っています。スローガンには、「5Sの進化」を掲げています。

これは、生産性を上げるためのものですが、2024年の春からは、より良く変化していく「進化」、より深く理解・発展していく「深化」の意味合いをもった「シンカ活動」に取り組んでいます。このような活動を通して、前向きな姿勢を大事にしています。

トップダウン方式から社員の意見を取り入れるボトムアップ方式に切り替えたところ、次々と新しい改善案が出てきました。特に生産性向上や衛生面の改善においては、想像していた以上の成果をあげていますね。自分たちで考え、動いてくれる優秀な社員のおかげで、安心して任せることができます。

ーー社員研修や幹部育成についてはいかがですか。

谷口雅一:
社外研修として得意先の製造現場を見学し、他社の優れている面を学んで視野を広げてもらっています。また、原料メーカーからアドバイザーを招いて講習会を実施するなど、チョコレートづくりの勉強も行っています。

幹部育成では、課長や係長を集めてセミナーを開催し、会社の状況や今後の方向性について話し合う機会を設けています。自ら考え、互いに高め合う、このような視座を高める取り組みは今後も続けていく方針です。

「出社するのが楽しみになる会社」を目指して職場環境づくりに努める

ーー新製品開発についてはいかがですか。

谷口雅一:
プラスチックストローの代替品として、環境に配慮した「チョコストロー」を開発しました。チョコレートを筒状に成形するのは難しいため、他社ではなかなか真似できないでしょう。

2024年の2月から本格的に提案を開始しました。ホテルやカフェチェーン、テーマパーク、ファミリーレストランなどから徐々に認知度を広げていき、将来的には海外展開に繋げたいと思っています。これからは環境に配慮したサステナブルな商品開発が不可欠だと考えています。

ーー最後に今後のテーマやビジョンについてお聞かせください。

谷口雅一:
「月曜日の朝から来たくなる会社」にすることです。「笑う門には福来る」というように、社員が笑顔で働ける環境づくりを目指します。

一般的には、8時間の勤務時間に加え、休憩1時間と往復の通勤時間を含めると、1日11時間ほど仕事に費やすことになります。この限りある時間を有意義なものにできるように、これからも社員から意見を拾いながら、取り組んでいきます。

社員にはプライベートも大切にしてほしいので、年間休日もさらに増やしていけるといいですね。子育てや介護についての制度も考えていきたいと思っています。一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、楽しんで働ける会社にしていきます。

編集後記

仕事を楽しむことを意識し、社員の自主性を伸ばしてきた谷口社長。社員たちがいきいきと働き、活発に意見を言い合える土壌づくりは、企業の成長にとって必須なのだと感じた。株式会社たにぐちは、これからも消費者を笑顔にする商品を生み出すことだろう。

谷口雅一/1970年大阪生まれ。1993年、株式会社たにぐち入社、大阪本社にて販売部所属。2006年、東京オフィス開設と同時に販売部課長兼所長に就任。2018年に販売本部部長に就任。2020年、専務取締役に就任。2021年に代表取締役社長に就任。