※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

タルト専門店の「ア・ラ・カンパーニュ」やマカロン専門店の「グラモウディーズ」など、神戸発祥のスイーツブランドを複数展開する株式会社ハット・トリック。2023年10月には食品製造販売メーカー・飲食チェーンなどのビジネスにおいて経験豊富な守部英喜氏を代表取締役として迎えた。

数多くの企業で事業の立ち上げや経営企画をおこなってきた守部氏の手腕とは。商品へのこだわりや強み、今後の企業発展への道のりについて話をうかがった。

飲食業界で働き続け、数多の企業にて経営再生・リブランディングに成功

ーー飲食業界に興味を持ったきっかけと、これまでの経歴を教えてください。

守部英喜:
学生時代は飲食店でのアルバイトに精を出し、親族で集まる際にはお酒を囲むことが多かったことからお酒に関する仕事に興味を持ち、「菊正宗」に入社しました。創業325年(就業当時)というブランドを守り抜く企業で働くことで、社会人としての基盤を築くことができました。

営業回りをしていた際、「ポムの樹」の創業社長と出会ったご縁からスタートアップ初期であった「ポムフード」に転職を決めます。そこで10年ほど勤め上げ、取締役本部長としてナンバー3の立ち位置となり、直営事業とFC事業部を統括し約160店舗の出店に成功しました。

新たなことを勉強したいという思いもあり、「名古屋コーチン」を主体とした製造・販売業の「さんわコーポレーション」に入社し、営業本部強化や人事制度策定の導入、経営企画などを統括し実績を残しました。

その後、鶏肉の加工処理メーカーの「ヤマショウフーズ」からお声がかかり、取締役として新規事業の立ち上げに携わり、さらに投資会社「プロスペリティ1」にCOOとして入社し「北前そば高田屋」の事業再生を3年かけて黒字化。2019年には100店舗25ブランドを展開する外食チェーン「ダイナミクス」にCEOとして着任し、コロナショックを迎えながらも従業員の雇用を守り、新規事業を立ち上げて3年間の任期を終えました。

ーーそこからハット・トリックに入社されるのですね。

守部英喜:
別の企業で顧問アドバイザリーをしていた時、PEファンドが創業家から事業承継を進めていたハット・トリック社CEOのお話をいただきました。弊社は「ア・ラ・カンパーニュ」というスイーツブランドを軸に、2026年で35周年を迎えます。これを期に第二創業として、これから全国に店舗を増やし、従業員・お客様により満足していただくため、私が招聘された次第です。

産地にこだわったフルーツを使用し、手間暇をかけたスイーツが自慢

ーー商品へのこだわりを教えてください。

守部英喜:
ケーキや焼き菓子は手づくりにこだわり、1品1品手間をかけて仕上げることにこだわっています。また、フルーツタルトの専門店でもあるため、果物の仕入れには気を配っており、それぞれの地域に足を運んで、産地ごとに良質の果物を選んでいます。

ケーキのラインナップは毎月変えており、定番3商品に加え、特に季節感に留意し、常に新しい商品をお客様に届けられるよう、毎月5〜7品程度、季節商品を取り入れています。

ーーハット・トリックの強みは何でしょう?

守部英喜:
カフェ業態は、パスタやキッシュなどのフードメニューを充実させており、店内の内装も独自の世界観を大切にしており、前年比130%を超える勢いで売上を伸ばしています。

また、焼き菓子の開発にも注力しており、マカロンやタルトレットといった商品をECサイトなどでも販売を強化しています。その品質の高さは、有名外資ホテル、高級食品チェーンなどにOEMでご指名いただけるまでになり、ケーキに次ぐ弊社の定番商品となっています。

ーー社内の業務改善について、今後どのような取り組みを進めていく予定ですか?

守部英喜:
サービス面の向上のため、まずは研修を強化するべく、私の直属でトレーナー部門を年内に発足しました。新任や中堅の方向けはもちろん、幹部を集めたコンプライアンス研修もおこない、従業員が心地よく働ける環境を提供していきます。

さらに、会社の理念や接客マニュアルなどを記載した「サービスハンドブック」を作成しました。言葉遣いや接客ルール、衛生面など、細かい部分を統一して皆が同じ方向を向けるよう、ポケットに入れていつでも確認できるようにしました。

サービスの向上は、どれだけ上層部が施策を練ったところで、現場任せにしていると机上の空論になってしまいます。マネージャーやトレーナーが現場に入り、課題を共有して、計画→実行→検証→改善の繰り返しでスタッフと共に考え行動することが本当の意味での改善につながるのです。管理職の皆さんには「肩書きで仕事をするものではない」と伝えていますが、現場で働く従業員の皆さんのことを一番に考え、同じ姿勢で業務改善に励むよう心がけています。

ーー製造部門についての業務改善はどうお考えでしょうか?

守部英喜:
工場設備の老朽化も進んでいるため、設備の刷新やレイアウト変更で作業効率のアップに努めています。

また、クリスマスやバレンタインなど繁忙期における製造過程のプロセスを見直しました。これまで繁忙期製造は効率の悪い勤務体系が常態化していました。営業部と連携をして夏ごろから工程分業の整理準備を進め、計画製造の精緻化をはかったところ、昨年は勤務体系が大きく見直されて繁忙期を乗り切ることに成功しました。

“神戸発祥”のブランドを守り、地域にも従業員にも愛されるお店に

ーー最後に、今後のハット・トリックの展望をお聞かせください。

守部英喜:
神戸発祥のスイーツブランドとして拡大してきたため、神戸という地域に貢献していきたいという思いがあります。神戸の企業とコラボレーションするなど、今後どの地域に出店しても、あくまで「神戸のア・ラ・カンパーニュ」として展開していきます。

パティシエという職業は、子どもの「将来なりたい職業」でもランキング上位に入っています。「自分もあんな店で働いてみたい」と憧れの対象になるような店舗にしていきたいですね。

そのためにはまず、今働いている従業員に自らの会社を誇りに思ってもらうことが必要です。こだわりの商品とサービスを提供することでお客様から評価いただき、その評価をしっかりと給与に反映し、従業員に還元することで、幸せのサイクルが循環していきます。従業員が自ら「このブランドを愛している」と心から思えるようになったら、ハット・トリック社は神戸を代表するだけでなく日本を代表する洋菓子会社に成長しているはずです。

編集後記

多くの企業の事業発展に携わり、その手腕を買われてハット・トリックに入社した守部氏。飲食業界の経験が長いことから、単なる経営の見直しではなく、企業が本来持っている強みや特色を活かし、さらに発展させていこうとするスタンスに愛と思い入れを感じた。今後より多くのファンに愛されるであろう同社の発展に期待が高まるばかりだ。

守部英喜/1967年生。大学卒業後、「菊正宗」に就職したのち、「ポムの樹」の創業期にかかわり、チェーン化に成功。同社を退職したのち、複数の飲食小売チェーンで再生事業・リブランディングに取り組み、高い評価を受ける。2023年に株式会社ハット・トリック代表取締役に就任。