大きいサイズの専門店「サカゼン」で知られる坂善商事株式会社。他にもインポートや婦人服など、さまざまなアパレル商品を製造、販売している。
創業者の祖父と2代目社長の父から会社を受け継ぎ、2021年に取締役COOに就任した村上進平氏は、従業員が働きやすい体制の構築や、新たな商品開発に力を入れている。村上氏に、取締役COO就任までの経緯や見据える未来についてインタビューを行った。
会社を継ぐことを意識していなかった学生時代から、経営に携わるまでの道のり
ーー以前から会社を継ぐことを意識していたのでしょうか?
村上進平:
幼少期から自宅のトイレに売上の数字が貼ってあったり、リビングに経営方針が掲げられていたり、正月には全社員を自宅に招待して、お酒や料理を振る舞うなど、特殊な家庭環境で育ちましたが、自分が会社を継ぐとは考えていませんでした。高校時代には毎朝、通学の満員電車でサラリーマンの暗い顔を見ていて「こんな風にはなりたくない」という思いがあり、アメリカの大学に留学しました。
しかし、一時帰国時に入院中の祖父のお見舞いに行って話をしたとき、「自分が家業を継がなければいけない」と強く感じました。そこからアメリカに戻って2週間ほどで準備をして帰国し、すぐに坂善商事に入社したのです。
ーー取締役COOに就任するまでの経緯を教えてください。
村上進平:
弊社で販売スタッフを1年ほど経験した後、立川の新店舗で約1年半、店長を務めました。その後、異動したEC事業部が1億円以上の赤字を出している部署だったこともあり、経営への意欲が芽生え、損益計算書を見たりして、誰がどんな業務をしていて何を変えれば利益につながるのかといったことを考えるようになりました。そして、業務の改善を繰り返すことで3年で黒字化し、売上を2倍に増加させることに成功したのです。
また、この経験を通じてチームで同じ方向を向いてやっていくことが、いかにビジネスにおいて大事かを学べたことも大きな成果でした。当時のメンバーには本当に感謝しています。
EC事業では結果を出せたものの、会社全体の売上は右肩下がりだったため、「自分がやるしかない」と感じ、社長に申し出て3年前に取締役COOに就任しました。
ーー就任後、新たに取り組まれた施策などはありますか?
村上進平:
就任してからは「クリエイティブ」「マーケティング改革」の2点に注力しています。たとえば、弊社の大切なアンバサダーの一人に、長年務めてくださっているタレントの石塚英彦さんがいますが、これまでの「大きいTシャツを着ている石ちゃん」から「ダンディーな着こなしをする格好良い石ちゃん」への脱却を図りました。
また、もともと弊社商品を愛用してくださっているジャンボたかおさんも新たにアンバサダーとして迎え、若年層に対するマーケティング戦略を組んでいます。
PRに関しても、これまではチラシや電車の中吊り広告などアナログなPRをしていましたが、SNSやウェブでのPRを強化したり、昨年にはゴジラ×サカゼンでの"規格外"のコラボを行うなど、時代やニーズに沿った新しい切り口でのマーケティングにも力をいれています。
ポテンシャルの高いビッグサイズ事業でさらなる高みを目指す
ーー「サカゼン」といえばビッグサイズかと思いますが、ビッグサイズの事業にどのような可能性を感じていますか?
村上進平:
体の大きい方は洋服に対して選択肢が少ないのが現状です。もっとファッションを楽しみたいという潜在的なニーズがあると感じています。
弊社でもベーシックなデザインの服を取りそろえていますが、海外ブランドやゴルフウェアなど、よりファッションを楽しめるような商品ラインナップや店舗でのおもてなしをすることで市場創出ができると思います。体が大きくなって今まで着ていた服が着られなくなったときに、「サカゼンに行けば問題を解決してくれる」と思われる存在になりたいですね。
そのために、体の大きい方たちがサイズやフィット感以外でも満足するような商品をつくりたいと思っています。現在、私が商品開発部門を統括しており、水着や甚平、パジャマなどのカテゴリーを充実させることは勿論、大きいサイズに振り切った商品開発も行っています。
一つの例を挙げると、ビジネスアイテムに「すごいシリーズ」というものがあります。こちらのシリーズは大きいサイズの方が欲しい機能に特化した商品です。「体感できる圧倒的な機能性」に加え、大きい方がカッコよく見えるようサイジングにもこだわりました。発売以降大好評で多くのお客様から高い評価をいただいています。
今後も「感動するほど汗がしみない服」、「帰宅時まで蒸れない靴」、「顔が大きい人専用のサングラス」、「ウエスト100センチ以上の方限定の紐の長いショルダーバッグ」など、大きいサイズを求める人に向けて振り切った商品開発に取り組んでいきます。
また、ビッグサイズは海外でも需要があると思うので、数年後には海外展開できるように、今後世界でも戦える商品を生み出していきたいですね。
関わる全ての人を幸せにする企業であるために進み続ける
ーー経営において大切にしている考えを教えてください。
村上進平:
私が取締役に就任した時に、それまではなかったミッション・ビジョン・バリューを策定し、「全ての人に楽しさと幸せを」というミッションのもと、お客様や従業員、取引先など関わった全ての人が幸せになるような会社を目指しています。
給与水準を高めて福利厚生も充実させ、働きがいのある会社にすることで従業員を幸せにすると同時に、世の中に必要とされる会社でありたいです。一例ですが、弊社は毎年両国国技館で行われる「わんぱく相撲全国大会」への協賛をしています。
実は、「相撲」は弊社がビッグサイズ事業を始めたきっかけでもあります。弊社本社が両国国技館に近く、力士の方を目にすることも多かった創業者が「彼らが着れる服、楽しめる服が無いのではないか」と着目したことが始まりなんです。
今や会社を支える事業体になっていますが、会社を受け継ぐ身として、「相撲」に対しては恩返しの意味も含めて今後もサポートを行っていきたいと思っています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
村上進平:
創業から80年の歴史の中で受け継がれてきたやり方や文化が根強く残っている中で、マインドや行動を変えることは簡単なことではありませんが、それでも共感をしてくれる仲間がとても増えており、本当に感謝の気持ちしかありません。これからも、ベテラン、若手、未来の仲間と、ワンチームで進んでいきたいと思います。
5年後には、ビックサイズでお客様に感動を与えられるような商品をつくり、日本一のブランドを実現したいですね。
編集後記
組織運営において人の気持ちが重要だと語る村上氏は、従業員にとって働きがいのある企業であることを大前提として改革を進めていると感じた。体が大きい方がもっとファッションを楽しめるような商品開発に注力する坂善商事が、全国でシェアを広げ、多くの人に感動を与える未来はそう遠くないはずだ。
村上進平/1995年、東京都生まれ。明治学院高校卒業後、ロサンゼルスに留学。2015年に坂善商事株式会社に入社し、販売員、店舗店長、EC事業部長を経て現職。部門営業利益率が10%の赤字だったEC事業の売上高を3期で2倍にし、黒字転換を実現。2021年より最高執行責任者として商品開発からマーケティングまでを管掌。