電力自由化が進む中、再生可能エネルギーの普及と電力の効率的な取引が喫緊の課題となっている。この問題に革新的なソリューションを提供するのが、デジタルグリッド株式会社である。
AIを活用した電力取引プラットフォームを運営し、電力の需給調整や再生可能エネルギーの普及促進に取り組んでいる。2017年の創業から5年で急成長を遂げた同社の代表取締役社長、豊田祐介氏に話をうかがった。
学生時代の研究が起業の礎に
ーーエネルギーに興味を持ったのはいつごろからでしょうか。
豊田祐介:
大学3年生のときから電気の研究を始めました。当時、東京大学で教授を務めていた阿部力也先生の研究室に所属し、電力のインターネット化の研究に取り組んでいました。電気は電力会社から一方的に供給されるものではなく、今後みんなのものになるという考えの下、双方向に取引が成立するような世界について研究していたのです。
ーー大学卒業後はどのような進路に進みましたか。
豊田祐介:
大学院を卒業した後、ゴールドマン・サックスに就職しました。そこで太陽光発電への投資などを手がけ、再生可能エネルギーの現場を見る機会を得ました。その後、投資ファンドのインテグラルに転職しましたが、阿部先生とは毎年会って意見交換を続けていました。2017年に、再生可能エネルギー由来の電力をやりとりする「デジタルグリッド」を本格的にビジネスにしようという話になり、一緒に会社を立ち上げる決意をしたのです。
電力のフリーマーケットのようなAIプラットフォームを提供
ーーデジタルグリッドの事業内容について教えてください。
豊田祐介:
簡単に言えば、電力のフリーマーケットのようなものです。電気の売買を希望する人々をマッチングさせるプラットフォームを提供しています。ただし、電気には物と異なり在庫という概念はありません。発電した瞬間に使用しなければならないという特性があります。そこで、AIを使用して需要を予測し、需要と供給が合うように調整を行っているのです。
ーーどのような仕組みでAIは機能しているのでしょうか。
豊田祐介:
たとえば、AIがあるコンビニ店舗の電力使用パターンを学習して予測します。そして、そのタイミングで必要な電力を発電所から送電する予約を入れるのです。これを大量の店舗や工場に対して実施しています。従来は電力会社が大規模に行っていたことを、個別にきめ細かく対応しているわけです。
弊社では、再生可能エネルギーに特化したマッチングプラットフォームも提供しています。たとえば、太陽光発電の電力を売りたい事業者と、再エネ由来の電力を購入したい企業をマッチングさせるのです。このプラットフォームでは、政府が設定する価格(FIP単価)にとらわれず、市場原理に基づいた自由な取引が可能です。これにより、再生可能エネルギーの普及促進にも貢献できると考えています。
高精度AIとリスク管理体制が強み
ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか。
豊田祐介:
やはりAIによる予測精度の高さでしょう。加えて、リスクを負う覚悟があることも強みだと考えています。天候の変化で予測が外れ、電力が不足した場合、通常はペナルティを負担しなければなりません。弊社ではそのリスクを引き受けています。AIの精度に自信があるからこそ、ペナルティは弊社で負担するという姿勢を貫いているのです。
ーー他社にはない特徴は何でしょうか。
豊田祐介:
弊社の大きな特徴の一つが、小規模な取引にも対応できる点です。プロ同士の取引だけでなく、一般企業が直接電力売買を行いオリジナルな電力料金を実現できる環境というのは、業界内でも画期的な取り組みだと自負しています。さらに、弊社のシステムは完全に自動化されているため、取引にかかる手数料を大幅に抑えられるのです。これは顧客にとって大きなメリットだと思います。また、再生可能エネルギーと従来型発電の両方を扱えることも強みの一つです。エネルギー源の多様化が進む中、さまざまなニーズに柔軟に対応できる体制を整えています。
電気代をゼロにしてエネルギーを潤沢に使える社会へ
ーー今後の展望についてお聞かせください。
豊田祐介:
究極的には、電気代をゼロにすることを目指しており、エネルギーを潤沢に使える社会を実現したいと思っています。ただし、これには長い年数がかかるため、まずは燃料費がかからない電源、すなわち再生可能エネルギーの普及を加速させたいと思います。
また、将来的には、月間で30億円程度の電気がやりとりされるような世界を実現したいと考えています。現在の規模を5倍、10倍と拡大していき、いずれは日本の電力の大半を扱えるような、日本を代表するエネルギープラットフォーマーになりたいですね。
編集後記
豊田氏が語る未来のエネルギー像は、一見夢物語のようでありながら、確かな現実味を帯びている。AIによる精緻な予測と、大胆なリスクテイクの姿勢。そこには、学生時代から温めてきた研究を実社会で実現しようという強い意志が感じられた。電力という私たちの生活に不可欠なインフラを扱いながら、その仕組みを根本から変革しようとする挑戦。デジタルグリッドの今後の展開に、大いなる期待が寄せられる。
豊田祐介/1987年生まれ、東京都出身。2012年に東京大学大学院工学系研究科を修了後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。証券部門では為替・クレジット関連の金融商品に携わり、戦略投資開発部では太陽光発電の開発・投資業務を担当。2016年、プライベートエクイティファンドのインテグラル株式会社に入社し、幅広い分野のPE投資業務に従事。2018年にデジタルグリッドへ参画。2019年、デジタルグリッド株式会社代表取締役社長に就任。