2020年10月、日本では2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことが宣言された。また、昨今は再生可能エネルギーへの注目が高まっており、一人ひとりの環境に配慮した取り組みが求められている。
このような時流の中で、電力を切り口に人々の生活と環境に貢献する事業を手がけているのが株式会社エナリスだ。同社は、電力の需要を予測して調達を行う「需給管理代行サービス」をはじめとしたさまざまな事業を展開している。
今回、代表取締役社長の都築実宏氏に、同社が大切にする価値観と電力への思いを聞いた。
新電力を支えるために「需給管理の代行」で会社をスタート
――貴社の事業について教えてください。
都築実宏:
弊社は、電力の需給管理代行と小売、企業の脱炭素を支援する脱炭素ソリューションの提供、アグリゲーション(電力統合制御)の4つを事業の柱にしています。脱炭素ソリューションの事業を始めたのは2~3年前で、もともとは需給管理をはじめとする新電力業務の代行事業からはじまった会社です。
弊社は『みらい研究所』という研究機関を持っており、社会に分散するエネルギー源を管理・制御するための技術など、先進的な研究を行っています。
また、現段階ではマネタイズはできていませんが、ブロックチェーンを使って太陽光などの再生可能エネルギーが生み出す「環境価値(発電や消費などに伴って排出される二酸化炭素がゼロであること)」を顕在化して「他の商圏価値(ポイントなど)」に変換する事業などにも取り組んでいます。
――そもそもなぜ貴社は需給管理代行の事業から始まったのでしょうか。
都築実宏:
新電力事業を支えたいと思ったのが大きな理由です。新電力には多くの企業が参入していますが、電力の需給管理は難しく、そこでつまずいてしまいます。新電力が立ち上がらないと、電力の自由化は進みません。それなら、弊社が需給管理の部分を代行して新電力を支援すれば、電力業界が活性化し、自由化も進むのではないかと思い、代行サービスを始めました。
当時は需給管理を代行サービス事業として始めるという発想自体が市場になく、今となっては革新的な試みだったのではないかと思います。
「当たり前を変革する」ベンチャー精神が強み
――貴社の強みを教えてください。
都築実宏:
先ほどお伝えした通り、当時は珍しかった需給管理の代行事業をいち早く始めるなど、新しいことに先駆けてチャレンジするのは弊社の強みです。また、ブロックチェーンやIoTなどの先進的な技術を積極的に磨いているのも、強みを生かしているからこそだと思っています。
このような強みを会社のDNAとして引き継いでいこうと、弊社では2019年に「当たり前を変革する」というアイデンティティを掲げた企業理念を社員たちが作り出しました。社員一人ひとりがベンチャー精神を持って仕事に取り組んでいこうという意識を持っています。
こうした企業理念のせいか、弊社の社員は素直で、前向きに物事に向き合っていてとても心強いです。脱炭素や環境に興味がある人が集まっているためか、ボランティア精神を持っている人も多いですね。
ーー強みを生かして、今後注力していきたいことを教えてください。
都築実宏:
今後注力したいことは、大きく分けて人材育成、働き方改革、商品・サービスの強化、そしてカーボンニュートラルを目指すことです。
電力やエネルギー業界は大きく変革しています。電力やエネルギーに関する知識、整えられる制度をキャッチアップしながら、新しい技術や仕組みを生み出すことにチャレンジしなければなりません。こうしたチャレンジを一緒にしてくれる人材をしっかり支援していきたいと思います。
また働き方改革でいえば、コロナ禍が落ち着いても弊社ではリモートとオフィスのハイブリッド勤務を継続しています。効率よく高いパフォーマンスを発揮できる環境づくりを大切にしていきます。
商品やサービスについては、電力が持つさまざまな価値に注目し、脱炭素社会をはじめとする社会課題やお客さまのニーズに応えていきたいと思っています。
脱炭素に取り組むお客さまや社会を支えていきたい
――カーボンニュートラルを目指すことについて、詳しく教えていただけますか。
都築実宏:
弊社の親会社のKDDIが2030年までにカーボンニュートラルを実現することを目指すと宣言し、弊社も2023年8月に同様の宣言をしました。
カーボンニュートラルに関しては、社内でも多くの議論がありました。弊社は発電所を持っているので、そこをどうやって脱炭素化するのか。これについては様々な選択肢があり、ハードルがあるのも事実です。社会のニーズや状況を見極めて手法を選択しながら、カーボンニュートラルを達成していきます。
――最後に都築社長の電力に対する思いを教えていただけますか。
都築実宏:
2016年4月に熊本地震が起こった時、私はKDDIの『auでんき』の立ち上げに従事し始めたばかりでした。熊本のお客さまの中には『auでんき』に加入登録してくれている方がたくさんいらしたにも関わらず、電力供給に関して自分たちにできることは何もなく、無力感を覚えました。
熊本地震をきっかけに、蓄電池やEVなど社会に分散する電源を有効活用する必要があると強く感じました。そして電気を有効に使うための仕組みを考えなければいけないと強く思いました。
分散電源を有効活用することは再生可能エネルギーの普及や脱炭素社会の実現につながると思っています。脱炭素社会はお客さまとともに社会が一丸となって実現することが不可欠です。
そのためにも、お客さまに「脱炭素といえばエナリスだよね」と信頼していただける会社になりたいと思いますし、そのためにもっと成長していかなければと感じています。
編集後記
取材中、都築社長は「エナリスはエネルギーの会社だけでなく、高い技術力を持ったテックの会社でもある」と語った。多種多様な仕事に挑戦できること、そしてベンチャー精神と安定性の両方があることも同社の魅力だ。
新しいことに果敢に挑戦するエナリスが、これからもエネルギー業界の「当たり前を変革」し続けてくれることに期待したい。
都築実宏(つづき・さねひろ)/1988年第二電電株式会社(現:KDDI株式会社)入社。企画・制度担当として通信ネットワークや通信自由化などに携わる。2015年4月エネルギービジネス部長、2016年4月エネルギービジネス企画部長を歴任し、KDDIにおける電力事業(auでんき)の立ち上げに従事。2020年4月にエナリス代表取締役社長に就任、現在に至る。