※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

創業103年の歴史を持つ送電工事会社、株式会社ETSグループ。鉄塔建設や電気設備の工事において重要な役割を果たす中でも、鉄塔での作業を担う人たちは「ラインマン」と呼ばれ、社会性の高い任務を通してダイレクトに地域に貢献していると言える。同社代表取締役社長の加藤慎章氏に、社長就任の経緯や今後の展望についてうかがった。

日本の基幹インフラを支えるため、老舗工事会社の社長就任を決意

ーー社長就任の経緯をお話しいただけますか。

加藤慎章:
外資系エネルギー会社の日本法人CEOだったことから私に声がかかりました。エネルギー業界に20年以上従事した経験から、日本で脱炭素化を進めつつ、エネルギーの安定供給を実現するためには送電網の整備が不可欠だと認識していました。東日本大震災後の計画停電も送電網の脆弱化が一因です。

ETSグループの社長を引き受けることは、「大規模な送電網整備に貢献できる」と考えました。プロジェクトを通じて、日本のエネルギー供給の根幹を支える重要な役割を担うことで、自身も責任を果たすことができるのではないかと考えたのです。

ーーもともと経営者になる夢をお持ちだったのでしょうか。

加藤慎章:
私はサラリーマン家庭で育ち、経営者とは無縁の世界で過ごしていました。キャリアの中でさまざまなチャレンジを重ね、向上心を持ち続けたからこそ、社長というポジションに就けたのだと思います。

最初に勤めた中部電力では、発電所建設や技術営業などを経験しました。その後転職先でグローバル企業に転じ、自分の能力やスキルの不十分さを痛感し、それを乗り越えるためには自分を正しく評価することの大切さと、苦労を糧に成長するには普段以上の努力が必要であることを学びました。

失敗することがあっても、目の前にある成長のチャンスを見逃さず、掴み取ろうとする姿勢が次のステップにつながります。経営者となってからも変わらず、新しい挑戦を前向きに受け入れていきたいと思います。

ーー就任にあたってご苦労はありましたか?

加藤慎章:
社長就任の直前に父のがんが発覚し、私は「看病と新たな職務を両立できるのか」と非常に悩みました。家族と話し合いを重ねた結果、「この仕事は、日本のエネルギー社会にとって責任重大な仕事である」と背中を押され、社長業を引き受けることにしました。

平日は東京で業務をこなし、週末は父がいる名古屋に帰省する生活は体力的・精神的にも苦しいものでしたが、母と姉の支えもあって無事に乗り越えられました。

2020年9月の入社から3ヶ月で社長に就任したので、社員の信頼を得られるように全力でコミュニケーションに努めました。歴史ある会社として、先輩たちが築き上げた伝統や信頼を守りつつ、昔からの固定観念にとらわれた企業文化を変える必要がありました。

社員に幸せと誇りを与えられる会社に--DXと多角的な戦略による革新

ーー社長として大切にしていることを教えてください。

加藤慎章:
「いつも心にユーモアを」という考えは昔から変わらず、小学校では面白い人ランキングで選ばれるほど明るい子どもでした。職場の雰囲気が良く、社員がいつも笑顔でいられる企業であるためにも、常にユーモアを持って社員と向き合うことを心がけています。

ーー社長就任後の取り組みについても教えてください。

加藤慎章:
AIの力を借りた業務のDXや、数字の見える化で生産性を改善しています。社長就任後、3期連続で増収・増益となり、2023年の売上は80億円を達成しました。社員が生き生きと働けて笑顔になれる取り組みとして、社員の幸せ実現に特化した役職である「チーフ・ハピネス・オフィサー(CHO)」を新設したほか、生活に役立つ金融教育も行っています。

送電工事の従事者である「ラインマン」という仕事は認知度が低く、自分の仕事に誇りを持てない社員が多くいたことから「ラインマン認知度向上プロジェクト」にも注力しました。「この街に明かりを灯すのは私達」という新たな企業理念・キャッチフレーズは、社会に役立つ仕事をしていることへの自信を生み、エンゲージメントの向上にもつながりました。

メディアへの露出にも積極的で、「ラインマン女子・ライライ」というキャラクターがSNSで人気を集めています。社員をモデルにした「ラインマンカレンダー」は、社員のご家族や鉄塔マニアの方に毎年好評です。SNSで実施した先着50名様へのプレゼント企画は一瞬のうちに枠が埋まりました。

多様性のある人材を育てながら新たなステージへ

ーー今後の展望をお聞かせください。

加藤慎章:
2024年10月には「ETSグループ」として完全持株会社に改組し、東証へ再上場を果たしました。日本各地で進行中の送電のビックプロジェクトなどを始め、東北電力NT様、東京電力PG様などとの既存取引を更に強化していく所存です。

新卒から中途採用、外国人といった多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、社内外での教育を通じて未来に向けた人材育成にも力を注いでいきます。建設業界全体の課題である人手不足により、現在は仕事を取りたくても、断っている仕事もあります。経営戦略的には今ある足場をじっくりと固めていくことを最善に考えつつ、新事業への重点投資を行ってまいります。

編集後記

家族の一大事に直面しながらも、日本のインフラを支える「老舗企業の代表」という大役を引き受けた加藤社長。自他ともに認める優れたキャリアと家族の支えが、その選択をより希望に満ちた未来へと導いた。伝統と革新を見事に融合させたETSグループは、多くの企業が手本としたい展開を見せてくれるだろう。

加藤慎章(かとうのりあき)/国内電力会社、外資系企業を数社経て、外資系エネルギー会社の日本法人CEOに就任。2020年、株式会社ETSホールディングスの代表取締役社長に就任。その後、2024年10月株式会社ETSグループ代表取締役社長に就任。同時期に東証スタンダード市場へ上場を果たす。日本政府国費留学としてバージニア工科大学、上海交通大学にて就学。横浜国立大学大学院修了(工学修士)。筑波大学大学院修了(経営学修士)。一級建築士、技術士(衛生工学)の資格を保有。公益社団法人経済同友会の幹事も務める。