不動産業界にデジタル革命を起こすべく、人工知能とビッグデータを駆使したサービスを展開するリーウェイズ株式会社。同社が開発した不動産分析システム「Gate.」は、価格査定ツールを超え、不動産の真の価値を多角的に分析。約700社もの導入実績を誇り、大手不動産会社から銀行、インフラ企業まで幅広く活用されている。「不動産マン」を尊敬される職業に変えるという大きな夢を抱き、データと技術で業界の常識を覆す同社の挑戦について、代表取締役CEOの巻口氏に話をうかがった。
新聞配達から始まった不動産業界への挑戦
ーー巻口社長のキャリアについて教えてください。
巻口成憲:
私のキャリアは、巣鴨の新聞販売店での住み込みアルバイトから始まりました。親に勘当されて東京に出てきたので、仕送りもなく、住み込みの仕事を探すしかなかったのです。2年間、新聞配達をしていましたが、当時付き合っていた方の親に「正社員として働いてほしい」と言われたこともあり、他の仕事を探すことにしました。
ーーどのような経緯で不動産業界に入られたのでしょうか?
巻口成憲:
簿記の資格を取得していたので、それを生かせる経理の仕事を探していました。たまたま吉祥寺の不動産デベロッパーの総務経理職を見つけたことが、不動産業界に入ったきっかけですね。入社後は経理の他に、会社の基幹システムを自作するなど、システム開発の責任者も兼任していました。その後、KPMGコンサルティング、デロイトトーマツコンサルティングと、大手コンサルティング企業でキャリアを積み、MBAも取得しています。
2005年には、リノベーション事業を展開するリズム株式会社を立ち上げ、東京のシングルライフを楽しくするための個性的な物件を提供することに注力しました。私は、11人家族で16部屋もある実家で育ち、家族や部屋の数だけ思い出があります。その経験から、東京の1人暮らしの部屋にも思い出を詰め込めるようにしたいと思ったのです。
このリズムを立ち上げた経験が、後の弊社設立につながっていきます。リノベーションの経済価値を分析する必要性を感じ、人工知能を活用したシステム開発の着想を得ました。
データで変革する不動産業界のイメージ
ーーリーウェイズ株式会社を設立された経緯をお聞かせください。
巻口成憲:
弊社を設立する前に不動産の電話営業をしていたころ、あるお客さまから衝撃的な言葉をかけられました。「こんな仕事して恥ずかしくないの?」と言われたのです。私たちは日本の4割の住宅インフラを支えているという自負があったので、非常にショックを受けました。そこで、アメリカの不動産業界について調べてみると、医者や弁護士と同じくらい評価の高い職業だということがわかったのです。
日本との違いを分析した結果、データの蓄積と透明性の有無が大きな要因だと気づきました。アメリカでは不動産業者と一般ユーザーが同じレベルの情報を見ることができるため、サービス競争が起こり、信頼性が高まっています。
一方、日本では情報の非対称性があるため、不透明さが残っていると考えました。そこでデータをしっかりと分析し、信頼される不動産業界をつくりたいという思いから弊社を立ち上げました。
ーー貴社の事業内容を教えてください。
巻口成憲:
弊社の主力事業は、不動産分析システム「Gate.」の開発・提供です。「Gate.」は単なる価格査定ツールではなく、不動産の価値を総合的に分析するシステムです。コストや取引事例の比較、収益性を総合的に評価し、将来の家賃下落率や売却時の利益なども考慮して、不動産投資のIRR(全期間利回り)を計算することにより、投資判断の精度が格段に向上するのです。
おかげさまで、現在では約700社の企業に導入いただいており、インフラ企業や生命保険会社など、さまざまな企業で活用されています。
さらに、「Gate.」の知見を活かしたDXコンサルティングも行っています。不動産業界だけでなく、金融機関や企業の経営企画部門など、幅広い顧客に対してデータ分析やAI構築のサポートを提供。大手企業の自社ブランドAI査定システムの開発や、マーケティングシステムの構築なども手がけています。
不動産とテクノロジーの融合で目指す未来
ーー貴社が求める人材像はどういったものでしょうか?
巻口成憲:
弊社が求めているのは「π(パイ)型人材」です。不動産のこともわかり、テクノロジーのこともわかる、そういった人材が理想ですね。弊社ではエンジニアであっても宅建の資格を取得してもらいますし、営業もテクノロジーについて理解を深めてもらっています。
不動産とテクノロジーの両方を理解することで、より良いサービスを提供できる上に、社内のコミュニケーションも円滑になり、エンジニアと営業の対立といった問題も起きにくくなるのです。そうした勉強にも前向きに取り組める方だと、より弊社にフィットすると思いますよ。
ーー今後の展望について教えてください。
巻口成憲:
弊社の目標は、アメリカのCoreLogicのように、不動産に関わるありとあらゆるデータを提供できるような企業になることです。不動産業界のデータインフラを整備し、物件情報、査定情報、マーケットトレンド、個人情報など、不動産取引に必要な情報を一元的に提供するプラットフォームになりたいですね。
また、予測分析の新商品も開発中です。アメリカでは、プレディクティブ・アナリティクスという分析手法があり、それを活用することで「このお客さまは90%の確率で半年以内に物件を売却する」といった予測ができます。その再現にはさまざまなデータが必要となるため、日本の個人情報保護の観点から完全な再現は難しいです。しかし、市場分析を活用すれば、同じような予測モデルが構築できると考えています。
最終的には、証券マンや営業マンのように「不動産マン」という言葉を一般的にしたいですね。データの透明性を高め、業界全体のイメージを改革することで、尊敬される職業に押し上げたいと考えています。
編集後記
巻口氏の「今できることを最大限にやる」という言葉が印象に残った。新聞配達、システム開発、リノベーション事業と、常に前進し続けてきた軌跡が、今の同社を形づくっている。不動産業界の常識を覆す「Gate.」の開発には、巻口氏の並々ならぬ思いを感じた。「不動産マン」を憧れの職業にするという目標。その実現のために、データと技術で業界の未来を切り開く姿に、大きな可能性を感じずにはいられなかった。
巻口成憲/1971年生まれ。立教大学大学院、早稲田大学大学院修了。新聞販売店で専売として2年間働いた後、国内不動産デベロッパーに入社し、経理業務、システム開発責任者を兼任。KPMGコンサルティング株式会社(現 PwCコンサルティング合同会社)に転職し、ナレッジマネジメントと人事制度プロジェクトを多数担当。MBA取得後、トーマツコンサルティング(現 デロイトトーマツコンサルティング合同会社)でBSCや制度設計プロジェクトに従事。2005年、リノベーション事業を展開するリズム株式会社の設立に参画。専務取締役としてマーケティングと販売部隊を統括。2014年、リーウェイズ株式会社を設立、現在に至る。