※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

創業105年を迎えた株式会社あかのれんは、中部・近畿地方を中心に95店舗を展開する衣料品販売の老舗企業だ。「店はお客さまのためにある」という社是のもと、地域密着型の専門店として、日常生活に欠かせない商品を手頃な価格で提供している。

プライベートブランド「Yururiya」では、ミセス層に向けた新しいファッションを提案している同社。デジタル化やEC事業の強化など、時代の変化に対応した新たな取り組みも進めている。今回は、2023年に代表取締役社長に就任した伊藤瑛祐氏に、次の100年に向けた取り組みについて話をうかがった。

現場第一主義で、社員の意識を一新

ーー社長就任までの道のりについてお聞かせください。

伊藤瑛祐:
私は大学卒業後、繊維商社のタキヒヨー株式会社に入社し、3年間の修業期間を経験しました。タキヒヨーを選んだ経緯としては、弊社と長年の取引関係があり、両社の経営陣の親交があったことが大きかったですね。入社後は自ら動いて仕事を覚えたり、先輩の仕事を手伝ったりしていました。当時はとても大変でしたが、今となってはいい経験だったと感じています。

その後、2013年に弊社へ入社し、店長やバイヤーとして現場での経験を積みました。社長就任の大きな転機となったのは2019年です。当時、私は商品統括部長の補佐として業務に当たっていましたが、会社の業績が思うように伸びず、社員の士気も低下していました。そこで当時の社長(現会長)に相談し、私が商品統括部長として組織改革に着手することになりました。

ーー組織改革にあたり、どのような取り組みを行いましたか?

伊藤瑛祐:
「現場を見て、現場の声を聞く」という方針を掲げ、基本に立ち返ることで組織の立て直しを図りました。具体的には、現場への訪問を増やしたり、社員とのコミュニケーションを密にしたりといったことですね。

同時に、お客さまの声を中心に据えた商品開発や店舗運営の見直しを行いました。その結果、社員たちが自ら機会を見出し、積極的に行動するようになったのです。この取り組みが評価され、2023年に代表取締役社長に就任しました。不安もありましたが、これまでの現場経験と、改革を通じて培った組織への理解が、私の強みになっていると感じています。

顧客ニーズに応えるプライベートブランドの展開

ーーあかのれんの事業内容と強みを教えてください。

伊藤瑛祐:
事業の主軸は中部・近畿地方を中心に95店舗を展開する衣料品販売です。特徴として、スーパーマーケットやドラッグストアに隣接した立地が多く、日常的な買い物のついでに立ち寄りやすくしています。プライベートブランドもあり、ミセス向けの新しい着こなしを提案する「Yururiya」を中心として「RED WILL」「vol sorae」の3つを展開しています。

事業の強みは、お客さまの日常生活に欠かせない商品、特に衣服を安価で提供している点です。ポイントカードを活用した還元セールなども好評で、お客さまから高い支持をいただいています。

ーープライベートブランドはそれぞれどういった特徴がありますか?

伊藤瑛祐:
「Yururiya」は、40代から60代の女性をターゲットにしたブランドで、カジュアルブランドに慣れた世代に向けて、年齢によるお洋服のお悩みをカバーしつつ、フレッシュな印象を与えるデザインを心がけています。価格帯は2,000円から3,000円程度で、専門店よりもリーズナブルな価格設定にしました。

「Yururiya」以外のブランドも、「RED WILL」はエレガントカジュアル、「vol sorae」はナチュラルテイストと、コンセプトを分けることで、幅広い顧客ニーズに応えられるよう工夫しています。今後は、これらのブランドをさらに充実させ、お客さまのライフスタイルに合わせた商品展開を進めていきたいですね。

100年の歴史を礎に、次の100年へ挑戦

ーー会社の成長に関して、どのようなことに取り組んでいますか?

伊藤瑛祐:
コロナ禍のある出来事を契機に、新規取引先の開拓に力を入れるようになり、現在も販路の拡大に取り組んでいます。その出来事とは、ある水着メーカーさんとの取引です。当時は水着の需要が激減し、多くの企業が在庫を絞るような状況でしたが、私たちは「今だからこそチャンスがある」と考え、即断即決で水着を仕入れました。

確かに仕入れた当初の売上は芳しくありませんでしたが、コロナ禍が過ぎたあとには大きな成果につながりました。このメーカーさんは今でも優先的に商品を提供してくださいます。こうした信頼関係の構築が、長期的な視点での成長につながると実感した出来事でしたね。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

伊藤瑛祐:
現在、店舗数は95店舗ですが、今年度中に97店舗に増やす予定です。短期的には100店舗達成が目標ですが、将来的には120店舗、150店舗と拡大していきたいですね。また、経営者として受け取ったバトンを次の世代にどう渡していくかということも常に考えています。

弊社は創業から105年を迎えますが、次の100年、そして200年と続いていく企業となるためには、地域に根ざした企業であり続けることが重要となるでしょう。「店はお客さまのためにある」という社是を全社員で共有し、これまでの歴史を大切にしながら、新しい取り組みにもチャレンジしていきたいと思います。

編集後記

36歳にして100年企業のトップに立ち、伝統を守りながらも大胆な改革を進める伊藤社長の姿勢に感銘を受けた。また老舗企業の新たな風を感じた。特に印象的だったのは、コロナ禍での逆張り戦略だ。誰もが縮小する中、積極的に仕入れを行うという決断は、同氏がもつ勇気と洞察力の表れだろう。次の100年を見据えた取り組みに、より一層の期待が高まる。

伊藤瑛祐/1987年愛知県名古屋市生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業後、繊維商社であるタキヒヨー株式会社に入社。3年の修業期間を経て2013年に株式会社あかのれんに入社。店長・バイヤーを経験し、2023年に同社代表取締役社長に就任。