※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

高級婦人服の製造・販売を行う株式会社トリヰ。同社を代表するブランドである「YUKI TORII」は世界的なファッションデザイナーである鳥居ユキ氏が手掛けており、流行を取り入れつつエレガントさも持ち合わせるラインナップが特徴だ。今回は、同社の社長であり鳥居ユキ氏の娘でもある鳥居真貴氏に、フランスでの経験やブランドに込めた思い、日本の服づくりの展望を聞いた。

父の急病でコロナ禍のさなかに社長就任。周りの支えが乗り切る原動力に

ーー学生時代にはどのような勉強をしたのか教えてください。

鳥居真貴:
もともとはデザインより数字を扱う分野に興味があり、大学でも経営学を勉強していました。しかし、当時社長であった父や、現在も弊社のデザイナーを務める母から「デザイナーを継いでほしい」と言われており、どちらも勉強してから進む道を決めようと決意し、フランスの服飾学校であるスタジオ・ベルソーに入学しました。

スタジオ・ベルソーは、デザインの技術よりも発想力を重視する校風でした。絵画や映画を鑑賞したり、街を歩いたり、人と交流したりして発想力を育む経験ができ、日本では得られない刺激を多く受けたと思います。

帰国後、弊社に入りファッションデザイナーとして経験を積みました。

ーー社長に就任した際に困難なことはありましたか?

鳥居真貴:
父から事業を継承したのは、ちょうどコロナ禍の時期でした。父が病気で倒れたために経営について何も教わることができず、多くの課題が山積みでした。

この困難を乗り越えられたのは、ひとえに周りの方々の支えのおかげです。古くからのお客さまや取引先である百貨店・専門店、銀行や生地屋さんなど、さまざまな方に励まされ、ときにはご指導もいただき、何とか乗り切ろうと勇気を持つことができました。

コロナ禍における接触制限により、直接会ってお礼を伝えられないまま転勤や退職した方や、誠に残念ながらお亡くなりになった方もいらっしゃいます。当時支えてくれた方々には、この場をお借りして、改めて感謝申し上げます。

流行を取り入れつつもエレガントさを失わないブランド「YUKI TORII」

ーー社長として大事にしている考えをお聞かせください。

鳥居真貴:
父が社長だった時代はトップダウンの経営スタイルでしたが、私はデザイナーとして現場で長く働いてきたため、社員とは長年一緒に頑張ってきた同志のような関係です。

私が父と同じやり方をしても、成功は難しいと思っているため、横のつながりを大切にして、風通しの良い経営を目指したいと考えています。

ーー貴社のブランド「YUKI TORII」について教えてください。

鳥居真貴:
「YUKI TORII」は弊社の主力ブランドで事業の核です。デザインの特徴として、女性たちのリアルライフに寄り添うというブランドの思いを反映し、着心地の良さとエレガンスを両立させたモダンスタイルを提供しています。

新商品に流行を取り入れることもありますが、アイテムのテイストには必ずブランドの芯が通っています。たとえばミニスカートが流行った際も、生地感や形、色など、すみずみまでこだわって「YUKI TORII」特有の上品さを失わないデザインに仕上げました。

ーー主にターゲットとしている購買層はありますか?

鳥居真貴:
特に年齢層は絞っておらず、実際に弊社の商品を買ってくれているお客さまも、20代〜80代までさまざまです。「YUKI TORII」の商品を好きになってくれる方であれば、どんな方にでも手にとって、ご自分なりの装いを楽しんでいただきたいですね。

もちろんお客さまの年齢層によって求められるアイテムは変わりますが、弊社では気に入ったものをピックアップしていただけるよう、幅広い商品をそろえています。ぜひ自分自身がお好きなコーディネートを楽しんでほしいと思います。

通信販売も主流になってきましたが、店舗で実物を見て手に取った方が愛着が湧くでしょう。販売スタッフがお客さまに商品の魅力をしっかりお伝えしますので、ぜひお気軽に足を運んでください。

異業種の企業とコラボレーションして新たな販路を開拓

ーー現在力を入れている取り組みは何でしょうか?

鳥居真貴:
国内外問わず、新たなファンを獲得することです。

これまでの宣伝方法はコレクションの発表が中心で、そこで「YUKI TORII」の服を知ってもらうことが一番の宣伝と考えていました。しかし時代は変化し、新しい方法を取り入れなければ注目を集められなくなっています。

現在は、特に20代から30代の方に「YUKI TORII」を知ってもらえるよう、SNSの活用など新たな宣伝方法を模索中です。弊社の商品は比較的高額なラインナップが多く、20代や30代の方が気軽に手に取れる価格帯ではないかもしれません。しかし、最近では若年層でも好きなものに対して強い思いを持ち、お金をかける方が増えてきたように思います。

まずは「YUKI TORII」を知ってもらい、幅広い年齢層の方に「いいな」と思ってもらえる商品づくりを心がけます。

ーー今後の展望をお聞かせください。

鳥居真貴:
弊社はこれまで、品質の高いものづくりを行う国内の生地屋さんや刺繍屋さんなどと手を取り合って事業を続けてきました。しかし、コロナ禍を経て閉業してしまった店も多く、日本国内での服作りはどんどん難しくなっています。弊社のみならず日本の服飾業全体に共通することではありますが、どのように服づくりを続けていくのかが大きな課題と捉えています。

弊社の事業は「YUKI TORII」のブランドなしには成り立ちません。今後はもっと違うルートからでも「YUKI TORII」を知ってもらえるよう、国内のものづくり企業とのコラボレーションを考えています。

最近では、大阪でネジやビスなどの工業製品を手掛ける企業と協力して商品をつくりました。その企業ではピンバッジやチャームなどの小物も手作りで制作しており、Instagramを見て商品の魅力に引き込まれ、弊社からお声掛けしたのがきっかけです。その小物をモチーフにTシャツやエコバッグなどを制作し、カジュアルにもエレガントにも身につけられる仕上がりになりました。

コラボレーション先の企業のファンの方が「YUKI TORII」に興味を持って問い合わせてくれるケースもあり、相乗効果が生まれたと感じています。今後も国内の企業と協力し、一緒に頑張ってよりよいものづくりを続けてまいります。

編集後記

自社の商品やコラボレーション商品の魅力を語る鳥居社長からは、服づくりと、その元となる日本の良質な素材に対する深い愛情が感じられた。60年以上続く「YUKI TORII」という自社ブランドへの誇りはもちろんのこと、たくさんの職人や支えてくれる人々への感謝を忘れないからこそ、どんな困難も乗り越える力が生まれるのだろう。

鳥居真貴/成城大学経済学部卒業、スタジオ・ベルソー(フランス)卒業。1995年、株式会社トリヰに入社しファッションデザイナーとして研鑽を積む。2021年に代表取締役社長に就任した後も、企画、デザインを継続して手掛ける。