※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

芸術的なピンタックや、美しい色合いに染め上げた着心地の良い服で愛される、日本発のブランド「ヤッコマリカルド」などを展開する株式会社ワイエムファッション研究所。流行の移り変わりが激しいファッション業界において、47年の歴史を誇り、今では海外にも根強いファン層を持つ。

先代からバトンを受け継ぎ、その個性的な製品をさらに広めようと奮闘する代表取締役社長の渡邊青氏に、家業を継いだ経緯や今後の展望についてうかがった。

ロンドン留学で磨かれたマインド

ーー20代でロンドンへ留学されたきっかけを教えてください。

渡邊青:
私が通っていた英語学校では、演劇の衣装づくりをする機会があり、ファッションへの興味は芽生えていましたが、家業を継ぐつもりはまだなく、「語学を学ぼう」という軽い気持ちでロンドン留学を決めました。

ーー留学中、ロンドンでどのような影響を受けましたか。

渡邊青:
ロンドンは「自由でいいな」と感じました。「こうあるべきだ」という固定観念にとらわれることなく、自分の意見をしっかり持つ人々や、自国を誇りに思うナショナリズムの強い人たちが多くいました。日本にいたときには感じたことのない新しい価値観に触れ、私自身も自分の意見を大切にする意識が芽生えたことをはっきり覚えています。

大学院修了後は日本には戻らず、友人とデザイン会社を立ち上げました。それまで築いたデザイン業界での人脈を活かして仕事を進めることができ、人との出会いがいかに人生において大切であるかを強く実感しましたね。

帰国後に継いだ家業で感じた違和感

ーーなぜロンドンから帰国し、家業を継ぐことになったのですか。

渡邊青:
弊社の主力ブランド『ヤッコマリカルド』は、1977年に私の両親が立ち上げましたが、両親が年齢を重ねる中で、「このまま同じものをつくり続けていては会社の未来がない」と感じていました。ファッション業界で生き残るためには、常に変化を求め、新しいお客様を惹きつけなければなりません。

「誰かが何とかしなければならない」と思い、同じくロンドンにいた弟と相談を重ねた結果、私が帰国して家業を継ぐ決断をしたのです。

ーー家業に入り、どのようなことから着手しましたか。

渡邊青:
両親の会社には創業当初からほとんどの企画を一手に担う、中心となる人物がいました。そのリーダーシップのもと、下にいる社員たちは信頼を寄せる一方で、創造力が止まっているように私は感じました。そこで、入社して20年近くになる社員のマインドを変えるために、私の考えに強く共感してくれる外部の人材を積極的に採用し、ともに変革を進めたのです。

たとえば、会議では「こう思うから、こうした」という明確な意思表示を求め、良いか悪いかを徹底的にディスカッションする場をつくりました。意見をぶつけ合い、真剣に議論しなければ、良いものは生まれないと確信しているからです。

『ピンタック』の個性がブランド最大の武器

ーー洋服づくりで大切にされていることを教えてください。

渡邊青:
弊社では、「ピンタック(ピンのように細いタック)」をブランドのアイデンティティとして大切にしています。装飾的な要素が強いピンタックですが、弊社では生地の段階からピンタックを施す独自の製法を採用しており、これほど多くのピンタックを取り入れている服は他にはないと自負しています。

また、「製品染め」の工程にもこだわり、真っ白な状態で製品をつくり上げた後、最後に染めることで深みのある美しい色合いを実現しています。当初はこれらの技術を製品の特徴として打ち出していましたが、「これほどまでに精巧なピンタックの技術とデザインは、弊社だけのものだ」と考えるようになり、現在ではピンタックをさらにブランドの中心に据える戦略をとっています。

弊社はモノづくりに対する真摯な姿勢を貫き、「0から1を生み出す会社」であり続けることを誇りにしています。そのため、自分たちにしか生み出せない希少価値の高い製品を提供することを大切に、オリジナリティの高い製品が生み出す感動をお客様に届けたいと考えています。

国や年代を超え、誰もが着たくなるファッションへ

ーーグローバル展開について教えてください。

渡邊青:
すでにイギリスをはじめとするヨーロッパやアジアに店舗を展開していますが、今後はさらに海外展開に力を入れていきたいと考えています。以前から海外からのお客様が多く、「日本で買いたい」とスマートフォン片手に店舗を訪れてくださる方もいます。そういった海外のファン層をさらに広げていきたいと思っています。

ーー将来的にどのようなファッションをつくっていきたいですか。

渡邊青:
まずはブランドをエイジレスなものにしていきたいと考えています。創業から47年が経ち、現在は60歳以上のお客様に多くご愛用いただいていますが、今後は20代、30代の方への認知度も高めていきたいですね。創業47年が経ち、技術者も高齢化する中で、その技術を次世代に継承し、組織全体の新陳代謝を図る必要があります。ブランドのイメージを若返らせ、幅広い年齢層の方が着られる服を具現化していきたいと考えています。

また、弊社の製品には高度な技術が必要なため、量産は難しいのですが、それこそが弊社の強みであり、希少性を大切にしたいと思っています。国内の店舗数をあえて限定し、新たなマーケットへの進出としてポップアップショップの展開も考えています。次世代を担う新たな人材が加わり、彼らの目を通してブランドが新たな評価を受けることで、新しいアイデアが生まれ、さらなる発展の可能性が広がると信じています。

編集後記

数多くのファッションブランドが競い合う中で、自らのアイデンティティである「ピンタック」に誇りを持ち、揺るぎない信念で希少価値を追求し続ける渡邊社長。その言葉からは、ものづくりへの深い愛情と、オリジナリティの高い製品を生み出すことへの強いこだわりが伝わってくる。

独自性の強い価値を創り出す情熱と信念が、ワイエムファッション研究所のさらなる飛躍を支える原動力となることは間違いないだろう。今後の展開がますます楽しみである。

渡邊青/1971年東京都出身、セントラル・セント・マーチンズ、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒業。ロンドン滞在中に会社を立ち上げ、セレクトショップのプロデュースやファッションニュースの発信などを行う。2012年に帰国しYACCOMARICARD企画チームに着任。企画部長を務めたのち、2021年株式会社ワイエムファッション研究所社長に就任。