
日本のサウナ文化を牽引してきた株式会社メトス。企画からデザイン、施工、メンテナンスまで一貫したサービスを提供し、場所に合わせた理想的なサウナづくりをサポートしてきた。同社が何より大切にしているのは「安心安全を第一に考える」姿勢であり、それは代表取締役社長である吉永昌一郎氏自身の信念でもある。独自の経歴を持つ吉永氏に、日本の温浴・サウナ文化を支えるリーディングカンパニーとしてのこだわりや思いを語ってもらった。
航空自衛隊の整備士から「サラリーマン社長」に
ーー社長就任までの経歴を聞かせてください。
吉永昌一郎:
高校を卒業後、航空自衛隊に入隊し、3年間の厳しい訓練や勉強、適性審査を経て、航空機の整備士として従事しました。仕事にはやりがいがあり、決して楽しくなかったわけではありません。ただ、無言の機械を相手にすることを生涯の仕事とするのに違和感があり、「人と関わる分野で働きたい」という思いから、航空自衛隊を退職。その後、アパレル業界や照明業界などを経て、1997年に弊社に入社しました。
山口県から九州一円を担当する営業を任され、その後は東京支社長、理事、取締役を歴任し、2018年に社長に就任した次第です。
ーー社長として特に心がけていることはありますか。
吉永昌一郎:
全国に約100社ある特約販売店の現場へ積極的に足を運ぶように心がけています。販売店の方々の考えや、販売ツールに関する課題など、生の声を直接聞くことを重視しているからです。
販売店との連携は非常に重要です。「社長が頻繁に外に出ている会社は良くない」という意見もありますが、「連携を強めるには、社長がデスクに座っていては何も始まらない」というのが私の持論。私は、いわゆる「サラリーマン社長」です。会社には係長、課長、部長といった肩書きがありますが、私にとって「社長」という肩書きもその延長線上にあるもので、特別なものとは考えていません。
サウナ・温浴事業を軸にした多角的な展開

ーー貴社の事業内容について教えてください。
吉永昌一郎:
「サウナ・温浴事業」をコアビジネスとしています。この事業は、一時の低迷期を経て再び多くのお客様に支持されていますが、サウナに関する正しい知識が十分に広まっているとはいえません。たとえば、多くの方が「サウナはどれも同じ」と考えがちですが、実際には目的に応じた適切な入り方があり、それに合わせた設計が求められるのです。
サウナの設置場所は、ホテルや旅館、スポーツクラブ、スーパー銭湯などの公衆浴場だけでなく、別荘や個人住宅といったプライベートな空間も含まれます。それぞれの場所に応じた設計ルールがあり、弊社では、コンセプト提案から企画、デザイン、施工、さらにメンテナンスまでを一貫して手掛けることで、理想的なサウナ空間を提供しています。
また、近年注力しているのは、本格的なリラクゼーション空間を家庭に届ける「プライベートサウナ事業」です。家庭で本格的なサウナを楽しみたいというニーズに応えています。
弊社は1966年に本場フィンランドのサウナを日本に導入し、サウナブームの先駆けとして、以来、日本におけるサウナの歴史そのものを刻んできたと自負しています。今後もこの分野には力を入れていく方針です。
ーー「サウナ・温浴」以外の事業についてお聞かせください。
吉永昌一郎:
「暖炉・薪ストーブ事業」も弊社の主要事業の一つです。ヨーロッパでは暖炉のある家が一般的です。「火のある暮らし」が日常の一部となっており、日本でも今後、そのようなライフスタイルへの需要が高まると確信しています。そのため、身近に炎を楽しめる薪ストーブから、空間のメインテーマとなるオーダーメイド暖炉まで、幅広い製品を取りそろえています。
また、「介護・福祉事業」で手掛けているのは介護浴槽の提案と提供です。介護現場の浴室環境改善や、生活機能の変化に対応した浴槽の提案・提供を通じて、高齢者や要介護者の方々の生活をより快適で安全なものにすることを目指しています。
また、新規事業として、2018年より日本初のサウナグッズ専門店を展開しています。単に商品を販売するだけでなく、B to Cのお客様と直接接点を持って、サウナの本場フィンランドの文化や、環境への配慮、持続可能性を重視したアウトドア活動やサウナに関する情報発信も行うことで、サウナを軸とした豊かなライフスタイルを提案したり、お客様のニーズを汲み取る貴重な機会となっています。
安心安全を徹底的に追求する企業の哲学
ーー貴社のこだわりはどのような点にありますか。
吉永昌一郎:
人命を預かるという意識のもと、ルールづくりや法令遵守を徹底することが、会社としてのこだわりであり、私自身の信念です。航空自衛隊の整備士時代から一貫して「セーフティ・ファースト」を信条としており、この安全・安心の追求は弊社でも最優先事項です。飛行機整備で妥協が許されないのと同様に、サウナでも介護浴槽でも人が生まれたままの無防備な状態で利用する以上、安全には万全を期す必要があります。
また、「人」を中心に「もの」や「こと」を考えるのも、弊社のこだわりの一つです。「人に関わる仕事がしたい」という私の思いは企業姿勢にも色濃く反映されています。
さらに、「住」のプロフェッショナルに徹底することも弊社のこだわりです。サウナは一時的なブームから文化へと変わりつつあります。将来的には生活の一部として定着し、サウナ付き住宅はもっと身近なものになるでしょう。また、「火のある暮らし」へのニーズも増え、暖炉や薪ストーブの需要は今後さらに高まると考えています。
住空間において、火や水を扱う設備は設置すると簡単には動かせないため、その導入は慎重に行わなければなりません。弊社は「住」のプロとして、お客様の安全と安心を最優先にサポートすることを使命としており、それこそが私たちの存在意義だと考えています。
編集後記
航空自衛隊の整備士として培った緻密さと、営業現場で鍛えた実直な姿勢と行動力。社長となった今もその姿勢を貫く吉永氏の姿に、ただならぬ熱意を感じた。現場の声を自ら聞きに行くリーダーは稀有であり、その姿勢こそがメトスを温浴・サウナ業界のリーディングカンパニーたらしめている源泉なのだろう。
サウナを文化に昇華させ、「住」のプロフェッショナルとして安心と安全を追求する同氏の信念には、心を動かされずにはいられない。誰もがこのリーダーのもとで働きたいと願うような、稀有な経営者の姿がそこにあった。

吉永昌一郎/福岡市博多区出身。高校卒業後、航空自衛隊整備士を経て、アパレル業界、照明業界、水処理メーカーを渡り歩いたあと、1997年株式会社メトス(旧:中山産業株式会社)に入社。入社後は、山口県〜九州一円の営業を手がけ、その後、温浴事業統括、東京支社長、理事、取締役を経て、2018年に代表取締役に就任。