※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

和菓子業界は、伝統的な製法や味を守りつつ、現代の消費者ニーズに応える新しい商品開発も求められる、伝統と革新のバランスが重要な分野だ。

そんな和菓子業界において、1879年の創業以来、長く愛され続け145周年を迎えた株式会社青柳総本家は、伝統的な和菓子の製造販売だけでなく、時代のニーズに応じた新商品開発や海外展開にも積極的に取り組んでいる。今回は、6代目となる代表取締役社長の後藤稔貴氏から、経営理念、人材採用、そして今後の展望などについてうかがった。

老舗和菓子店を守るために必要な革新

ーー代表取締役社長に就任するまでの経緯を教えてください。

後藤稔貴:
私は、株式会社青柳総本家5代目社長の長男として生まれました。幼い頃から周囲の人には「長男だから将来は会社を継ぐんだよ」と言われ続けてきたのですが、それを決めるのは私ではなく、経営者である父だと考えていました。そのため、学生時代は家業を継ぐことに無関心でした。当時は父も私に跡を継がせようとは考えていなかったのではないかと思います。

大学卒業後、医療機器メーカーの営業職に就き、その後、語学留学のためにセブ島に2ヶ月滞在したことをきっかけに、「海外に駐在してチャレンジしてみたい」という思いが芽生えました。そのことを父に相談したところ、「家業を継ぐつもりがあるなら、20代のうちに帰ってこい」と意外な答えが返ってきたのです。

医療メーカーで朝の6時から夜の11時まで働く姿勢を見て、父の私への評価が変わったのかもしれませんね。

父の言葉を受けて、2017年に青柳総本家に入社し、その後、製造、販売、経営企画などに携わり、2024年3月に代表取締役社長に就任しました。

ーー入社から現在までの間で印象に残るエピソードを聞かせてください。

後藤稔貴:
最も印象に残っているのはコロナ禍の経験です。2019年10月に本社に戻り、商品開発や経営に参加するようになったのですが、その4ヶ月後に日本全土がコロナの影響を受けました。売上が95%も減少する厳しい状況に直面し、このままではいけないと強く感じました。

同時に、会社の在り方自体を変える必要性も感じていました。ただ、歴史ある企業ですので、何を変え、何を守るべきか、その見極めが最初の大きな課題でした。

まず取り組んだのが企業理念の策定です。その過程で、会社のロゴマークであるカエルの由来を再確認しました。これは昭和初期に祖父がつくったもので、柳についた虫を食べようとするカエルの姿が、諦めずにチャレンジし続ける不屈の精神を表しています。

会社の歴史を紐解いていくと、フレンチやイタリアンレストラン、高級喫茶など、笑顔になる空間を提供しており、さまざまなチャレンジをしていたことがわかりました。つまり、青柳総本家は本来、ベンチャー精神を持ってチャレンジし続けてきた会社だったのです。

「老舗だからこうあるべき」という固定観念を捨て、「青柳総本家はチャレンジする会社だから、新しいことを企画するのは当たり前」というマインドに変えていきました。

この過程で生まれたのが「青柳総本家に関わる人を笑顔に」です。弊社はこの理念を軸に据えてさまざまなチャレンジを重ねることで、コロナ禍を乗り越えることができました。

チャレンジ精神を重視して若手の力で会社を変革

ーー人材採用に関してはどのように考えていますか。

後藤稔貴:
人材採用に関しては、大きな変革を進めています。まず、40年ぶりに新卒採用を再開しました。これは、会社の未来をつくっていくために不可欠だと考えたからです。次の世代が活躍できる環境づくりや、時代に合わせた働き方の導入など、現状に甘んじることなく、常に変化を続けています。

新しく入る人には、単に成長する船に乗るのではなく、自分で船の舵をとってほしいと考えています。そのために、適切な仕組みを整えながら権限委譲を進めていきたいと思います。私一人が新しいアイデアを出すだけでは、会社の成長に限界があります。チャレンジしたいという人材には、そのための土台を提供したいと考えています。

これまでの弊社は、新しい挑戦に対して前向きに考えられていないこともありました。しかしこれからは、アイデアを実現するためのポジティブな発想や行動が盛んに飛び交う姿勢に変えていきたいと思います。常にチャレンジできる空気感や体制を整えていくことが、この時代を勝ち抜くために必要不可欠だと考えているからです。

ただし、チャレンジは必ずしも賛同を得られるとは限りません。新しく入る人たちにはそのことを理解したうえで、挑み続ける精神を持ち続けてほしい。そして、会社としてはそれを支援できるような体制や雰囲気づくりを目指していきます。

「笑顔製造業」として進化し続ける青柳総本家の挑戦

ーー今後の展望について教えてください。

後藤稔貴:
弊社の人気商品「カエルまんじゅう」をベースに生まれた「ケロトッツォ」は、SNSでのアレンジレシピが話題となり商品化に至りました。このような新しい取り組みは今後も積極的に続けていきたいと考えています。

国内市場においては、既存商品の展開にもまだまだ可能性があると感じています。カエルのお菓子のラインナップ強化や、全国展開のさらなる推進など、挑戦の余地は十分にあります。また、カエルをモチーフにしたブランド展開や、雑貨分野への進出も視野に入れています。

海外市場の開拓も重要な課題です。弊社の和菓子は外国人観光客からも非常に人気が高く、日本の伝統的なお土産として注目されています。今後は、マレーシアやシンガポールなどアジア圏を中心に、多角的に市場を開拓したいと考えています。

これらの展望を実現するためには、チャレンジ精神あふれる人材の採用と育成が不可欠です。青柳総本家では、総合職として採用を行い、製造、販売、企画などさまざまな部門で経験を積んでもらいます。特定の職種に限定せず、幅広い知識とスキルを身につけ、将来的には事業の責任者として活躍できる人材を育成したいと考えています。

私個人としては、自分がつくった商品が売れることよりも、青柳総本家という会社で誰かが喜んでくれることに幸せを感じます。お客様の笑顔はもちろん、社員や従業員が「青柳総本家で働いてよかった」と思ってくれることが、何よりの喜びです。

青柳総本家は、これからも「笑顔製造業」として、お客様に喜んでいただける商品やサービスを提供し続けます。同時に、社員や従業員全員が幸せを感じられる会社を目指します。伝統を守りながらも常に新しいことに挑戦し、お客様と従業員の笑顔をつくり出す。これからもその姿勢を貫き、青柳総本家をさらなる発展へと導きたいと考えています。

編集後記

伝統と革新のバランスをとりながら、常に新しいチャレンジを続ける後藤社長。「笑顔製造業」という理念のもと、お客様と従業員の笑顔を第一に考える経営哲学に深い共感を覚えた。

カエルのロゴマークに込められた「諦めずにチャレンジし続ける精神」は、まさに現在の青柳総本家を象徴している。145年の歴史を持ちながら、常に新しい価値創造に挑む姿勢は、日本の老舗企業の新たな可能性を示唆しているといえるだろう。後藤社長のリーダーシップのもと、この先同社がどのような「笑顔」を製造していくのか注目したい。

後藤稔貴/1879年創業、青柳総本家5代目の長男。大学卒業後、一般企業で営業として働いた後、2017年に株式会社青柳総本家に入社。2019年に取締役、2022年に代表取締役副社長就任。2024年3月に代表取締役社長就任。