※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、自宅で食事をする人が増加し、冷凍食品や簡単に調理できるカット済み食品の需要が伸びている。

今回紹介する鳥治食品株式会社は、全国の産地から取り寄せた食用肉の卸業に加え、鶏肉のカット技術を強みにさまざまな加工品やプライベートブランド商品の製造などを行う、食のトータルカンパニーだ。

同社、代表取締役社長の内本氏は、鶏肉の卸業から始めた事業を、カット技術を武器に拡大させたことについて「戦う土俵を変え、ライバルを減らして無意味な争いをしないことで、他社との差別化を図ってきました」と語る。

カリスマ経営者だった創業者の父から受け継いだ会社を、革新的なアイデアで発展させた内本社長の経営手法とは。カット技術へのこだわりや、人材育成への思いを聞いた。

税理士事務所からスーパーマーケット勤務を経て、鶏肉の卸業へ転身

ーー大学卒業後は、税理士事務所とスーパーに勤務の後、貴社に入社されたとお聞きしました。異色な経歴かと存じますが、入社までの経緯をお聞かせください。

内本基嗣:
創業者である父は、中小企業の経営をする苦労を息子に味わわせたくなかったのか、「会社を継いでほしい」と言ったことはありませんでした。大学卒業後は、父の勧めもあり、近所で付き合いのある税理士事務所に入社しました。そのままここで働き続けるのだろうと思っていた矢先、事務所の経営者の方が急逝されたのです。そのとき父から「店を継いでみないか」と話があり、鳥治食品に入社を決めました。

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

内本基嗣:
当時弊社では、鶏肉の小売店とは別に「ミスターバード」という生鮮食品のスーパーマーケットを5店舗ほど経営していました。先代社長は鶏肉を専門としていたのであまり経営には関わらず、人任せの状態になっていたため、修業の意味合いも込めて他企業のスーパーに約2年勤務しました。

入社して12年間は、ほとんどスーパーマーケットの事業部で働いていました。専務に昇進後「スーパーマーケットはお前に任せる」と言われるようになった後、本社鶏肉事業部に戻り社長就任に至ります。

カリスマ社長のワンマン経営を一新し、社員が自ら考えて仕事をする環境へ

ーー社長就任時に苦労されたことはありますか?

内本基嗣:
創業者である先代社長は、営業の見積もりなども全て自らの感覚で作成していたので、営業担当者は見積もりもつくれず、お客様との交渉も見積書を持って行くだけというような仕事をしていました。そこでワンマン経営の縦割り組織を改め、「なぜあなたがこの役職に就いているのか、何の責任があるのか」を一人ひとり理解してもらい、営業が自分で数字を考え見積もりをつくれるような環境を整えました。

工場の労働状況も悪く、新規の仕事が入ると夜9時ごろまで働き通しになることもざらにありました。定時で帰ってしまう営業の人間に工場の手伝いをしてもらい、「みんなで力を合わせて仕事をする」という意識を浸透させていきました。今では機械の導入なども行い営業の応援なしでほぼ定時に帰れるようになりました。

衛生観念も低い時代でしたので、手袋をはめて鶏肉を切るという文化がなかなか根付かず、私も率先して手袋をはめ、連日作業場に立ちました。最初は渋っていたベテラン職人の方たちも次第に協力してくれるようになりました。

ーー先代社長についてのエピソードはありますか?

内本基嗣:
先代社長は息子である私から見ても尊敬できる、才能にあふれた人間でした。社員からの信頼はもちろん、数字の面でも抜群の状態で会社を引き継がせてもらい、素晴らしい会社を譲り受けたと思っています。

カリスマ性が強かったため、勇退して何十年経っても未だに先代の考え方が染みついている部分も多いです。先代の葬儀の際も、パートの方たちを含め全社員が横断幕に寄せ書きをしてあたたかく見送ってくれました。厳しい人間ではありましたが、従業員から愛されていたのだと実感しています。

顧客のニーズを理解し、必要なサービスを提供できる人材に

ーー会社の強みを教えてください。

内本基嗣:
弊社が1番力を入れているのは鶏肉のカット技術です。私が引き継ぐ前は卸業をメインにしていましたが、弊社は職人と呼ばれるカット技術の高い従業員が豊富で、若い人材も入ってきている状況でした。他社との差別化を図るためにも、カットに力を注ぐ決意をしました。

3g〜120gまで幅広いカットを可能にし、唐揚げ用・ステーキ用など複雑な形状にも対応できるようにしました。卸業で安定した仕入れを行い、なおかつプロのカット技術と機械カットやトンネルフリーザー等を駆使して、顧客の扱いやすい形状で商品を提供できる弊社の取り組みは非常に話題となり、引き合いも多くなりました。

しかし、今後デジタル化が進み、機械が作業をする時代が必ず来ます。社員はどういう商品をつくり、どう発信していくかを考えられるようになる必要があります。そのためにカットを担っていた職人を実際に営業商談に連れて行き、ユーザーのニーズを把握できるようにしました。さらに外部情報をキャッチするため、「気になるお店があれば経費を使って調査してほしい」と伝えています。

作り手のニーズに応えた「少量パック包装」で新たな顧客を開拓

ーー今後強化したいと考えていることはありますか?

内本基嗣:
新規取引先開拓のため、鶏肉のパック包装に注力していきます。あらゆるニーズを想定し、弊社でパッキングして納品することで、これまで主流だったトレー商品に比べ、店舗の手間をグッと減らせるようになりました。実は10年前に機械を仕入れて事業を始めていたのですが、大阪ではなかなか受け入れてもらえず、最近になってようやく売上を伸ばし、事業として軌道に乗ってきたところです。

これまで病院食や学校給食、食品工場に出荷することが多かったのですが、今後は新たな戦略として、少量パックや必要な分だけ解凍できる「バラ凍結」の強みを活かし、外食産業にも進出したいと思っています。

次世代の会社を担う人材に必要な要素とは

ーー社員の人材育成についても話をうかがいたいのですが、会社の経営を担っていく幹部候補にとって必要な要素は何でしょう?

内本基嗣:
管理職になるためにはトップセールスである必要はなく、円滑なコミュニケーション能力と、非難からではなく長所から人を評価できる能力が重要だと考えています。大企業ではないので、管理職者は、これからの若い世代に対してやるべき事、やらなくていい事を明確に示し、指導しなければいけないと思っています。

ーー若い世代の方に向けてメッセージをいただけますか。

内本基嗣:
どのような職場や仕事であっても、まずは自分が好きなことを見つけてください。仕事に対するやる気は、それを好きか嫌いかの違いで大きく結果が変わります。

そして、成功するには必ず努力が必要です。仕事に興味を持ち、楽しみを見出した上で努力を惜しまなければ、成功に近づくことができると思います。

編集後記

カリスマ創業者から会社を引き継いだ内本社長。「先代社長からとても良い状態の土地(会社)をいただいたので、私はそこにしっかりとした土台となる鉄骨を立て、次世代につないでいきたい」と語った。品質管理や商品の拡充を武器に、鳥治食品の躍進はこれからも続いていくことだろう。

社内の社員専用ジムにて

内本基嗣(うちもと・もとつぐ)/1966年大阪府生まれ。大阪学院大学卒業後、1988年税理士事務所に入所し、約5年間経理財務部門を経験。その後1993年スーパーマーケットに入社し、約2年間小売業界で研鑽を重ね、1995年鳥治食品株式会社に入社。2005年代表取締役社長就任。