IT業界にあって、人情味あふれる経営で独自の道を歩む株式会社フリースタイル。若者の就職支援から始まり、今やゲーム開発まで手がける同社の歩みは、常識を覆す挑戦の連続だった。
未経験者を優秀なプログラマーに育成する教育システム、障がいのある人が開発の中心を担うソフトウェアプロジェクト、そして従業員第一主義。これらを武器にIT業界に新たな価値観を提示し、成長を続ける同社。今回は代表取締役の青野豪淑氏に、その経営哲学と将来の展望について話をうかがった。
ヤンキー支援から始まった、人を大切にする経営哲学
ーー貴社を創業された経緯を教えてください。
青野豪淑:
当時、私は営業職として働いていましたが、ある日、錦二丁目の繁華街でいわゆるヤンキーといわれるような人たちと出会ったのです。兄弟のような感覚で彼らと交流するうちに、就職に苦労している現状を知りました。そこで、彼らを社会に復帰させたいという思いが芽生えたのです。
IT業界には、プログラミングのような高度なスキルを必要とする仕事だけでなく、パソコンのセットアップなど、未経験者でも取り組める仕事があることに気づきました。これなら彼らにもチャンスがあると思い、会社として本格的に取り組むことにしたのです。
ーー創業当初、最も苦労されたことは何ですか?
青野豪淑:
社員の質をどう上げていくかに苦労しましたね。一般的な会社なら面接で落とされてしまうような人ばかりを雇っていましたから。無断欠勤は当たり前で、せっかく仕事をとってきても「俺はギタリストになる」と言って辞めてしまう。納期に遅れて、お客様に迷惑をかけてしまうこともありました。
しかし、そこであきらめずに別のアプローチを考えました。説教しても効果がないので、たとえば、1か月間欠勤せずに出勤できたら遊びに連れていくなど、彼らの欲求をうまく利用して、少しずつ仕事に慣れてもらったのです。そうした努力の結果、徐々に社員の定着率が向上しました。今では、当時のメンバーの多くが立派な社会人になっています。中には大手企業で活躍している人もいますよ。
未経験者でも挑戦できる環境で実現した「オバケイドロ!」の成功
ーーフリースタイルの主な事業内容をお聞かせください。
青野豪淑:
弊社の主な事業は、ITソフトウェア開発、ゲーム開発、そしてシステム開発です。最初はITの基礎的な作業から始めましたが、社員たちのスキルが向上するにつれて、より高度な開発案件も手がけるようになりました。
また、ゲーム開発事業は、会社に余裕ができてきたころ、社員から「ゲームをつくりたい」との提案を受けて、「やってみよう」と即決して始めました。ゲーム開発の経験者は1人もいなかったので、最初は手探り状態でしたね。しかし、彼らの熱意は本物でした。
外部のコンサルタントも招き入れながら、みんなで必死に学び、約5年の歳月を経て、ついに「オバケイドロ!」が完成したのです。このゲームはNintendo Switchで発売されて、大きな成功を収めました。
ーー未経験からゲーム開発に挑戦されたのですね。
青野豪淑:
そうですね。一般的なIT企業では考えられないことかもしれません。でも、私たちには「人を育てる」というスキームがあったのです。これは、ヤンキーといわれるような人たちを立派な社会人に育てた経験から生まれたものです。
多くの企業は、既にスキルを持った人材を採用することが多いでしょう。しかし、私たちはまったくの未経験者を優秀なプログラマーに育てる力があります。これは、他社には真似できない強みだと自負しています。
この教育システムは、強制ではなく自由度を重視しているのが特徴です。勉強会は夜に開催していて、参加は自由です。人間は強制されると反発しますからね。興味を持った人が自然と参加するようになる。そうやって、少しずつスキルを身につけていくのです。
いいことをして大きくなる、新しいIT企業の形
ーー今後の展望についてお聞かせください。
青野豪淑:
今の時代、ドライな関係やネット上でも心ない書き込みが多いですよね。だからこそ、愛や友情、仲間といった価値観が大切になってくると思うのです。
IT業界の中心にありながら人への優しさを掲げる会社、それが弊社の目指す姿です。いいことばかりして潰れていくのではなく、こうした理念を持った会社が大きくなる。弊社が大きくなるにつれて、人に優しい経営が世の中に広がれば、これから起業する人たちも、「人に優しくする方が成長できる」と思ってくれるかもしれません。
その一環として、私たちは「WelfDoc(ウェルフドック)」という、障がいのある方が中心となって開発したソフトウェアも手がけています。これは、障がい者福祉施設で作成される書類をペーパーレス化するもので、開発の95%以上を障がいのある方々が担当しました。こうした取り組みを経て、ハンディキャップやバックグラウンドに縛られることなく、活躍できる場を増やしていきたいですね。
ーー具体的にはどのような事業展開を考えていますか?
青野豪淑:
まず、ゲーム開発事業をさらに拡大していく予定です。現在は次の大型タイトルの開発に取り組んでいますが、将来的には年間複数のタイトルを開発できる体制を目指したいです。
そのためにはまだまだ人材が必要で、ゲームプログラマーだけでなく、企画者やデザイナーも募集しています。コンシューマーゲーム機の開発経験者は大歓迎です。来年以降、さらに多くのゲームを開発する予定ですし、会社もどんどん大きくなっていきます。私たちと一緒に、名古屋から世界に通用するゲームをつくり上げていく。そんな挑戦的な仕事に興味のある方々との出会いを楽しみにしています。
編集後記
青野社長の熱い思いと、独自の経営哲学に圧倒されたインタビューだった。一見すると型破りな会社に見えるが、その根底には「人を大切にする」という普遍的な価値観が息づいている。同社の今後の成長が、IT業界だけでなく、日本の企業文化全体にどのような影響を与えるのか。今後の展開が非常に楽しみだ。
青野豪淑/1977年大阪生まれ。高校卒業後、精肉店に勤務したのち、営業にキャリアチェンジしトップの成績を納める。2006年に株式会社フリースタイルを設立、現在に至る。