※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

賃貸物件を探す際、「問い合わせたらすでに満室だった」という経験を持つ人は多いだろう。大手不動産ポータルサイトでは、最新情報が反映されるまでにタイムラグがあり、問い合わせた時点で既に満室だったというケースが多く見られる。

この課題を解決すべく立ち上がったのが、株式会社エアドアだ。同社が提供するダイレクト賃貸検索プラットフォーム「エアドア」は、管理会社と直接データを連携することで、空室確認の手間を大幅に削減。エンドユーザーは最新の物件情報にアクセスできるようになり、無駄なやり取りの削減によって、仲介会社の業務効率も大幅に向上させたという。テクノロジーを通じて情報格差のない賃貸取引の実現を目指す、代表取締役CEOの鬼頭史到氏に話をうかがった。

不動産業界で芽生えたDXの構想

ーー創業に至るまでのご経歴を教えてください。

鬼頭史到:
私はもともと学生時代から、「いつか起業したい」という漠然とした希望がありました。起業を視野に入れて就職先を探していたところ、ベンチャー志望者の仲間から、不動産業界に特化したSaaS企業である株式会社いい生活を勧められたのです。優秀な経営陣とたまたま同じ高校の出身者が3人もいることにご縁を感じて入社を決意しました。入社後は7年間営業部に所属しマネジメントをさせていただいた後、不動産DXに関連した新規事業の責任者を2年間務めました。

実際に働いてみると、不動産業界は巨大、外から見る以上に構造が複雑で、関わる人も多く、一筋縄ではいかない業界だと思いました。そのため、起業するということは甘くないと思いましたが、人生を賭けるなら高ければ高い山の方がいいこと、そしてこの業界は人のつながりをとても大切にするので、私自身の生き方にもマッチするなと思い、この業界で勝負したいという気持ちが芽生えました。

インドのホテルプラットフォームを運営するOYO Hotels Japan合同会社に転職。1年でトップセールスになれましたが、やはり不動産テック系のサービスをやりたいと考えて、弊社の前身である株式会社RoomStoreを立ち上げたのです。

ーーコロナ禍に起業したことで、どのような苦労がありましたか?

鬼頭史到:
困難だと感じたことは、特にありません。むしろ、新型コロナウイルスの流行によって外出の機会が減ったことで、サービスの内容を充実させることができたのではないかと考えています。

不動産業界は業者間で会合や会食する機会が多い業界です。もちろんこういった会合で人とのつながりができるわけですから、貴重な交流の機会だと考えて、私も積極的に参加してきました。ところが、コロナ禍では人が集まることができず、会合や会食がなくなってしまったのです。

時間に余裕が生まれ、これまで外出していた時間を自社サービスの開発に充て、内容の充実に努めました。その結果、コロナ禍が明けたときには万全の体制でサービスをスタートさせることができたのです。新型コロナウイルスの影響が最も顕著な時期に起業したことは結果的によかったと、ポジティブに受けとめています。

リアルタイムのデータ連携で実現する効率的な賃貸取引

ーー貴社が運営する「エアドア」とは、どのようなサービスですか?

鬼頭史到:
弊社の賃貸プラットフォームサービス「エアドア」は、家主さんや管理会社(元付会社※)とリアルタイムでデータを連携することで、物件を探しているエンドユーザーが最新の正しい情報に直接アクセスできるようになっています。

これまでの大手不動産ポータルサイトでは、エンドユーザーが最新の情報を直接見ることができず、物件を見つけて問い合わせてもすでに満室だったというケースが多々生じていました。「エアドア」は、エンドユーザーがよりリアルタイム性が高い情報にアクセスできるので、おとり物件に悩まされる心配がありません。

私たちは宅建免許を持っていないので、内見や契約に関しては、物件がある地域の不動産仲介会社さんにお願いしています。「エアドア」では、管理会社が掲載した最新の物件情報をもとに内見の依頼が来るので、お客さまとスムーズに話ができます。結果として、エンドユーザーだけでなく仲介会社さんにとっても効率的なシステムとなり、感謝される関係性を築くことができたのです。

(※)元付会社:不動産取引において、物件のオーナーから直接依頼を受けている事業者のこと。

顧客の真のニーズを引き出すAI活用戦略

ーー貴社の今後の展望をお聞かせください。

鬼頭史到:
「エアドア」では、データベースと生成AIを活用したサービスを展開予定です。第一弾として、不動産営業の「前さばき」をエアドア内で構築しています。

前さばきとは、お客さまの希望を事前にヒアリングし、空き物件と照らし合わせながら提案するプロセスのこと。これをAIで効率化し、よりスムーズ・かつ最適な物件提案を実現できるよう取り組んでいます。

たとえば渋谷でワンルームの物件を探していたお客さまがいたとします。お客さまにヒアリングしたところ、その方が地方から東京に転勤になり、単身赴任するための物件を探していたことがわかりました。そして、さらに詳しいヒアリングによって、その方に奥さまとペットがいることがわかったとしたらどうでしょうか。東京近郊で50平米くらいのペット可の物件であれば、ご夫婦とペットで暮らすことができ、単身赴任するよりもQOLの向上が見込めるかもしれません。このように、お客さまのご要望をしっかりと引き出し、よりよい選択肢を提示できるように「エアドア」のサービスを最適化したいです。

ーー最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。

鬼頭史到:
新しいことに挑戦したい方や、未経験でも向上心のある人たちと一緒に働けると嬉しいですね。

人員を増やして営業部門の体制をしっかり整えた上で、各地域ごとの代理店制度なども活用できればと考えています。「不動産事業者とカスタマーにフラットな世界をつくる」という弊社の理念に共感してくださる方や、弊社のサービスを面白いと感じてくださる方の応募をお待ちしています。

編集後記

コロナ禍での起業を「むしろよかった」と語る鬼頭社長の言葉に、逆境を糧にする経営者としての強さを見た。創業からわずか数年で、管理会社や仲介会社との信頼関係を築き上げた背景には、業界への深い理解と誠実な対話があったのだろう。テクノロジーで業界の非効率を解消しながら、人と人とのつながりも大切にする。その両立こそが、これからの不動産プラットフォームの在り方なのかもしれない。

鬼頭史到/1986年、福岡県北九州市生まれ。2010年に立教大学を卒業し、新卒で株式会社いい生活へ入社。営業部門にてキャリアをスタートさせ、営業部門長などを経て、新規事業部の立ち上げにも携わる。2019年にTabist株式会社(旧OYO Hotels Japan合同会社)に転職し、初年度年間トップセールスを記録。2020年に株式会社エアドア(旧株式会社Room Store)を創業し、代表取締役に就任。