BIJIN&Co.株式会社の「CLOUDCASTING(クラウドキャスティング)」はデジタル技術で効率的なエンタメ界のマッチングを支援するサービスだ。
異業種の掛け合わせで多様なビジネスモデルを展開する同社の代表取締役、田中慎也氏に発想力の根源を解き明かすべく話をうかがった。
社会の変化に関する肌感覚に基づく着実なキャリア
ーーこれまでの経歴をお聞かせください。
田中慎也:
いつかは社長になりたいという思いがあり、帯広工業高校を卒業して数ヶ月後には独立しました。
起業当初のビジネスは携帯電話の新規契約獲得でした。若さを武器に積極的に飛び込み営業をしていたのですが、北海道内ではトップの実績を作り続けて、22歳頃にはJ-PHONE(ジェイフォン)の公式ショップをオープンしました。
その後、サービスブランドはボーダフォン、SoftBank(ソフトバンク)へと推移しましたが、私は継続して公式ショップを運営していました。加えて、携帯電話の販売だけでなく、広告代理業、美容室経営、中古車の買取事業にも参入しました。
ちょうど30歳の時、iPhoneの発売が開始されたタイミングで「美人時計」というサービスが話題になりました。当時は携帯電話向けのアプリケーションが世に出始めた頃で、私はこのアプリの名前自体が初耳でしたが、その東京版の創業者が北海道でのサービス展開を考えているとのことで知人から紹介されました。それが契機で北海道版の「美人時計」のフランチャイズ運営を開始しました。
2010年頃には東京版の「美人時計」の社長から会社を売却する話があり、その会社を最終的に買い取る流れでBIJIN&Co.株式会社の代表取締役に就任しました。札幌でできるあらゆることを20代でやり尽くしたという感覚と、スマートフォンの出現による世の中の変化に対する肌感覚があいまって、30代は東京でチャレンジしたいという気持ちでした。
マッチングの統合プラットフォーム「クラウドキャスティング」
――「クラウドキャスティング」サービス開始のきっかけは何だったのでしょうか。
田中慎也:
「美人時計」は登録者が多く、話題性があり、イベント参加などの引き合いがありました。しかし、そのビジネスモデルは、アプリのダウンロードごとの収益を分配するシンプルなものだったので、その運営だけで事業を続けるのは難しいと感じていました。
そこでキャストと呼ばれる3万人ほどの登録者をデータベース化して、直接、クライアントがキャストに発注できる仕組みをいち早くつくりたいと考えていました。そこから生まれたのが「クラウドキャスティング」です。
2015年頃からは社内ツールの位置づけで試用を開始しました。1年後には社外に提供できる形になったので、2016年からサービスを開始しました。
ーー現在の「クラウドキャスティング」について詳しくお聞かせください。
田中慎也:
キャスティングをデジタル化するサービスで、人が人に仕事を発注するときのプラットフォームを目指しています。単にマッチングだけでなく、検索・発注・契約・支払いといった一連の処理をすべてシステム上で行うことができます。
たとえば、ある内容のブログを書いてくれる人を探している場合、条件をフォーマットに入力して送ると募集できます。フォーマットには募集の内容に応じて必要な項目が表示されます。募集をかける対象を絞ったり、特定のキャストを指名したりすることもできます。そして応募があれば、応募者のフォロワー数を確認して合格者を決めることができます。
ーー今後の「クラウドキャスティング」についての展開はいかがですか。
田中慎也:
人気のあるタレントの場合、毎月、何百件もの問い合わせがありますが、検討に値する内容は10%程度です。そこで与信管理、反社チェック、売掛払いの代金未回収リスクのチェックといった一次請け処理や契約書の作成をサービスとして代行すると、あとはスケジュールの確認と受注の判断だけでよくなるので、トータルで芸能事務所のデジタルサポートになります。
オファーする側にとっても、必要項目を入力して送ると回答が得られるので、発注が簡単になります。
経験値を糧に進化を続ける未来へのビジョン
ーー今後のビジネスモデルは、どのようなものでしょうか。
田中慎也:
新規営業について、昨年まではサービス開発に重点を置いていたので、問い合わせに応じるインプット型が主でしたが、今後はアウトプット型の営業を仕掛けるフェーズに入りました。
組織体制も営業主体の役員人事に切り替えました。かなり世代交代をして新たに20代の取締役社長を迎えます。ビジネスモデルが完成して、若手人材にどんどん営業に出てもらう段階なので、役割分担も大きく変えました。
ーー未来のビジネスオーナーたちへアドバイスをお願いします。
田中慎也:
とにかくいろいろなことに手を出してみてほしいですね。その中でうまくいったこと、本当に好きだと思うものを伸ばせばいいと思います。
僕は20代の頃、何でも挑戦したくて、はたから見ると逆に何がしたいのかわからないと言われました。でも、今は会話の中で詳しく説明したり現状や予定について話せることも多くなり、経験が生きていると思っています。
編集後記
社会の変化についての理解と、すでにある資産の活用が、リスクを回避した起業への近道だと語る田中慎也代表。世の仕組みと真理を見抜き、今あるものを発展させるために常に先を見越す力が、ゼロから確実なビジネスを生む源だった。
世代交代と営業力強化で勢いを増すことが期待されるBIJIN&Co.株式会社。田中代表をはじめとする新リーダーたちの今後の躍進が楽しみだ。
田中慎也/1977年生まれ。北海道出身。1999年に株式会社ビーコミュニケーションズを設立。ソフトバンクショップの運営やビューティーサロンの経営、広告代理業、出版事業など、さまざまな事業を手がける。2010年、「美人時計」の事業を買収し、BIJIN&Co.株式会社の代表取締役に就任。2017年、エンタメ業界に特化したデジタル・キャスティングサービス「CLOUDCASTING(クラウドキャスティング)」をリリース。