
元芸人としての発信力とエンターテインメントスキルを企業のマーケティングに活かし、新しいビジネスモデルを展開している株式会社フラワーズロマンス。芸人によるユニークな企業PR動画制作サービス「芸人インターン」と、TikTokやYouTubeの運用代行サービス「MOVIS(ムービス)」を主軸に、企業の採用活動や認知度向上を支援している。
芸人時代に培った企画力や演出力を存分に活かせる場を創出する芸人のセカンドキャリアの受け皿としての機能も持ち合わせる。今回は、同社代表取締役社長の中道正彦氏に起業の経緯や今後の展望などについてうかがった。
イベントMCの成功が起業のきっかけに
ーー社長のこれまでの経歴を教えてください。
中道正彦:
私は18歳で鹿児島から大阪に出て、高槻市内の印刷工場で働いていました。ところが、働いているうちにヘルニアを患い、やりたい仕事ができなくなってしまったのです。
これは、社会に出たばかりの私にとって非常にショッキングな出来事でした。そして、「このまま会社員でいるより、自分の好きなことをした方がいい人生になる」と考えるようになりました。そして、吉本総合芸能学院に入学して芸人になる道を選び、12年間芸人として活動したのち、33歳のときに芸人を引退しました。
ーー起業を意識されたきっかけについてお聞かせください。
中道正彦:
芸人を引退したときに、私にはすでに妻と子どもがいました。ですから、次のキャリアを探すに当たっては、やはり「給料がいくらもらえるか」ということが気になったのです。かつて会社員として働いていたときの給料が手取り11万円ほどでしたから、また会社員に戻っても同じくらいしかもらえないかもしれません。それなら、自分で起業した方がより稼げるかもしれないと考え、起業を考えるようになりました。
ーー起業した際の印象に残っているエピソードはありますか?
中道正彦:
2016年に「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」に入会しました。当時は芸人を引退する直前で、私は150席くらいのキャパシティがある飲食店の店長を務めていました。そんなときに、HIU主催の「ホリエモン万博」というイベントを近畿大学で開催することになったのですが、台風の影響でトラブルが続出。予定していたMCが来場できず、当日になって急遽私がMCを務めることになったのです。
堀江さんのトークを芸人らしく上手にいじって場を盛り上げることができ、非常に自信がつきました。そして、「これだけ難しいことを上手くやれるなら、起業しても食べていけるだろう」と考えて、翌日に法人登記したのです。
芸人と企業を結ぶ、新時代の動画SNS運用サービス

ーー貴社の事業内容を教えてください。
中道正彦:
弊社は「芸人インターン」と「MOVIS」という2つのサービスを軸に、企業の価値を最大化することを目指しています。1つ目の「芸人インターン」は、芸人が社長インタビューや、職務体験レポートをして、企業のPR動画を作成するサービスです。
作成した動画は、企業ホームページに掲載されたり、転職エージェントさんを通して見込み求職者さんに送ってエンゲージメントを高めるなど、企業の認知を高めるなどの目的で使用されています。
このサービスの強みは、芸人が実際に企業を訪問する点です。「こんな芸人が会社に来た」と社員がシェアすることで企業への興味が促進され、リファラル採用につながりやすくなっています。芸人がわかりやすく噛み砕いて、且つユーモアを交えて企業の魅力や事業内容を伝える事ができるのも強みです。
2つ目の「MOVIS」は、TikTokやYouTubeの運用代行サービスです。「MOVIS」では、動画SNSを運用したい企業と、動画配信を得意とする芸人やアーティストを結びつけて、サービスを展開しています。芸人がこれまでに培ったブランディング力や個性を磨く能力を活かして、企業動画の出演者に「こういう人間性を打ち出していこう」「こういうキャラクターで行こう」というご提案ができるところが強みですね。
「MOVIS」サービス紹介
弊社の一番の特徴は、芸人やミュージシャン、俳優などの夢を追っている人や、セカンドキャリアを探している人を雇用しているところです。そうした方々が持つ優れたエンタメスキルや発信スキルを活かし、SNS運用やPRが苦手な企業に向けて、エンタメ性を取り入れたサービスを提供しています。
ーークライアントからはどのような反応がありましたか?
中道正彦:
特に印象に残っているのが、福岡のタクシー会社さまです。その会社は、全盛期は社員数80名ほどの規模でしたが、コロナ禍でドライバーが減ってしまい、60名程度まで落ち込んでいました。コロナ禍が明けてからさまざまな採用施策を試していましたが、なかなか成果が出なかったそうです。
そのような状況のなか、弊社サービスを利用してYouTubeの動画配信を行ったところ、20名ほどの採用を実現することができたのです。30〜40代の社員が多く入社したことで、会社全体が若返ったとお喜びの声をいただきました。
管理体制を強化し次のステージへ挑戦
ーー事業に対する社長の思いをお聞かせください。
中道正彦:
私自身が芸人をやめたときに、「このまま社会に適応できないんじゃないか?」という気持ちがありました。幸いにも飲食店の店長に抜擢されて無職にならずにすみましたが、このとき飲食店の黒字化の力になってくれたのは、芸人仲間や芸人時代の人脈だったのです。
たくさんの人に助けてもらううちに、自分の中に「いずれ芸人に恩返しがしたい」という思いが芽生えました。そのため、私は芸人引退後のセカンドキャリアを探す人たちに強い思いがあります。しかし、芸人時代のスキルを活かせる仕事が少ない上に、たとえ10年培ってきた芸歴をリセットして社会人になっても、社会で活躍するのは難しいのが現状です。
このような現状を踏まえて、私はセカンドキャリアを探す元芸人の受け皿となり、これまでに培ったスキルを活かしたうえでお金を稼げる会社をつくりたいと考えるようになりました。粘り強く経営に取り組んだ結果、少しずつ依頼が増えてきたことを、嬉しく思います。
ーー今後はどのようなところに注力したいとお考えですか?
中道正彦:
まずは社内の管理体制を強化したいですね。今後は新規事業への参入も検討しているので、内部体制を盤石にした上で、各事業ごとに責任者を置くことを検討中です。また、事業としては、現在は動画マーケティング事業が好調なので、そちらを今後も伸ばしていくつもりです。
この部門の事業責任者が育ったら、次は芸人を続けながら社会人として働くデュアルキャリアを持つ人と企業をマッチングする、転職エージェントのような事業を新しく立ち上げたいと考えています。今後も私の経験を活かして、芸人のセカンドキャリアを広げていきたいですね。
編集後記
芸人やアーティストが持つスキルを、企業のPRという場で開花させる。そこには、人材の可能性を見出し、新たな価値を創造する経営者としての才能が光っていた。芸人たちの新たなキャリアを創出するという同社の事業は、夢を追う人々の可能性を広げる挑戦でもあるのだと感じた。

中道正彦/1983年、鹿児島県薩摩川内市生まれ。吉本総合芸能学院(NSC27期)を卒業後、12年間お笑いコンビ「フラワーズオブロマンス」で芸人として活動。芸人を引退後、株式会社フラワーズロマンスを設立。芸人やアーティスト(ミュージシャン、俳優)などの発信スキル、エンタメスキルを活かして企業のSNS運用、映像制作を行う事業を展開。