プロフェッショナルコーチとAIを組み合わせた、新しいコーチング・サービスを提供するスタートアップ企業、株式会社mento。創業から4年で5万時間以上のコーチングセッションを提供し、「初めて自分という人間を見てもらえた」という受講者の驚きの声を多数生み出している。
代表取締役の木村憲仁氏は、自身がコーチングで人生の転機を経験したことからその可能性に着目し、今は自身が多くの人々の可能性を広げる支援を続けている。一人ひとりの本質的な成長にフォーカスした支援のあり方について、話をうかがった。
自分自身の迷いから見出した、「人を支える」という新しい可能性
ーー創業までの経緯についてお聞かせください。
木村憲仁:
新卒でリクルートホールディングスに入社し、中古車を扱う部署でインターネットサービスの企画開発を担当しました。1年目からユーザー向けサイトの全面リニューアルを任されるなど、早いうちから大きなチャレンジをさせてもらえる環境でしたね。
約4年半在籍した後、もともと考えていた起業への思いを実行に移すことにしました。これまでに経験を積んだ中古車業界に着目し、株式会社ウゴク(現在はmentoに社名変更)を創業したのですが、事業を進める中で迷いを感じることが多くなっていったのです。その迷いの正体がわからないまま半年ほど過ごしていたとき、周囲からコーチングを受けることを勧められました。
ーーコーチングとの出会いは、どのような経験をもたらしましたか?
木村憲仁:
最初は半信半疑でしたが、コーチングを受けてみると、自分の中で考えていたことや迷いがクリアになっていきました。特に印象的だったのは、初めて会ったコーチから「本当は何がしたいのか」と問われたときのことです。全く利害関係のない人にすら取り繕った回答をしようとした自分に気づき、自分自身の本音と向き合うことにつながりました。おかげで、周りからどう思われているかを気にしてばかりいて、自分の本当の思いを濁らせていたことに気づいたのです。
この経験を通じて、コーチングという手法の持つ可能性と、それが日本社会で十分に活用されていない現状を強く認識しました。私自身がコーチを探したプロセスを振り返ってみても、玉石混交の情報の中から本当に自分に合う優秀なコーチを見つけ出すのはとても難しいことでした。この課題を解決したいという思いが、現在のコーチングサービス「mento(メント)」の事業につながっていきます。
人とAIが両輪となって365日支える、これからのコーチング
ーーコーチングサービス「mento」の内容について教えてください。
木村憲仁:
私たちが運営する「mento」は、プロフェッショナルなコーチとコーチングを受けたい方を結びつけるプラットフォームです。国際的に認められた資格を持つコーチの中から、優秀な方々を厳選してご紹介しています。
もともとは個人向けのサービスとしてスタートしましたが、現在では、企業の中間管理職を育成するための施策としてご利用いただくケースが増えてきました。一人の管理職の方が半年から1年という期間、同じコーチと継続的に関わりながら、マネジメントにおける悩みや部下との関係性、事業の変革期における判断など、さまざまな課題に向き合っていきます。そうした中で私たちは、クライアントがしっかりと価値を感じていただけているかを常にモニタリングし、より効果的なコーチングが実現できるようサポートしています。
ーー今後のサービス展開についてはどのようなビジョンをお持ちですか?
木村憲仁:
人によるコーチングは1ヶ月に1、2回といった頻度での関わりになりますが、日々の業務の中ではさまざまな課題や気づきが生まれます。そういった日常的な経験をコーチにフィードバックし、また、学んだことを日常に活かしていくという循環を、AIが24時間365日支えていく。そんな体制のサービスを目指しています。
そのために、特に力を入れているのが、AIを活用したサポート機能の開発です。たとえば、コーチングセッションの内容をAIが自動で要約し、次のアクションまで提示してくれる「AIサマリー」という機能を実装しました。
「Lead yourself」を掲げ、全員でつくる理想の組織
ーーサービス提供において、印象的なエピソードを教えてください。
木村憲仁:
特に心に残っているのは、ある大企業の人事担当者からいただいた言葉です。研修の一環として弊社のコーチングを取り入れたところ、ある社員から「20年以上この会社で働いてきたが、初めて自分という人間を見て、支援をしてくれたと感じた」という声があったそうです。通常の研修ではなかなかない、心からの感謝の言葉でした。
私たちのサービスは、「人を幸せにする、人生をより豊かにする」という軸を持っており、効率化や省力化を目指す多くのサービスとは少し異なります。ソフトウェアだけで現状を変えていくことに限界を感じている方々からも共感をいただけるのは、そこに「人によるコーチング」で実現する独自の価値があるからだと考えています。
ーー組織の成長戦略についてお聞かせください。
木村憲仁:
私たちの重要な価値観の一つに「Lead yourself」があります。自ら考え、自ら行動することを重視しており、これは採用活動にも通じています。人事部門だけでなく、現場のメンバーも自ら仲間を探し、スカウトする。全員で採用に関わることで、本当に組織にフィットする仲間を見つけることができています。
弊社はベンチャー企業という特性上、仕事は流動的で、まだまだ決まっていないことだらけです。だからこそ、自ら課題を見つけ、解決策を提案できる人材が必要不可欠です。待っているだけでは何も生まれません。その認識を全員で共有しながら、これからも組織を成長させていきたいと思います。
編集後記
効率や生産性を追求する現代のビジネス環境の中で、「人生をより豊かにする」という明確な軸を持って、事業を展開する同社の姿勢が強く印象に残った。木村氏自身が体験したコーチングの価値を、より多くの人々に届けたいという思いが、サービスのすみずみにまで行き渡っている。人とテクノロジーを掛け合わせて、日本にコーチング文化を根付かせようとする挑戦に大きな期待を寄せたい。
木村憲仁/1990年生まれ。早稲田大学文学部卒業。2014年、新卒でリクルートホールディングスへ入社。中古車販促のプロダクトマネージャーを4年半務め、消費者向けのサービス開発を牽引し事業成長に貢献。2018年に株式会社mentoを創業し、翌年パーソナル・コーチングサービスmento(メント)のサービスを開始。個人・法人向けにサービスを展開し、これまでのべ5万時間以上のコーチングセッションを提供している。