
2015年に設立されたPIAZZA株式会社。地域コミュニティアプリ「ピアッザ」を通して地域住民の交流を図る。大きな特徴は、行政・自治体と連携したサービスの普及活動と、街の再開発にかかわる事業者を取引先としたビジネスモデル。代表取締役の矢野晃平氏に、創業の経緯や類似サービスとの差別化、今後の展望をうかがった。
「人とのつながり」を求めた経験から起業を決意
ーーご経歴をお話しいただけますか。
矢野晃平:
幼少期から16年にわたり、家族の転勤に伴い海外を転々としました。新しい環境に馴染むのが得意ではなく、引っ越しのたびに友人関係を築き直すことに苦労し、孤独を感じることも多かったです。そんな中、高校生のころ、イタリアには「PIAZZA(ピアッザ)」という場所があることを知りました。そこは、人々が自然に集まり、交流し、活気あふれる街の中心となる公共空間でした。このピアッザのように、誰もが安心してつながれる場所の持つ力に感銘を受け、地域における人々の暮らしを支える空間づくりに関心を持つようになりました。
建築業界を目指し、大学では土木工学を専攻したのですが、海外経験を活かす形で採用してくださったのは外資系の金融機関でした。その後、IT企業へ転職し、オンライン・コミュニティを軸としたゲーム開発に携わりました。
その後、子どもが事故に遭ったことが転機となります。家族だけでは精神的に閉鎖的になってしまうなかご近所の方の声がけによって助けていただき、改めて「地域の人々をつなぐ広場」の必要性を実感しました。ただ当時、理想的なfacebookをはじめとするマスSNSはあったのですが、地域や暮らしに密着したものが国内になく、自らつくったというのが起業の背景です。米国ではローカルSNSが既に浸透し始めていたことも後押しになりました。
テクノロジーの力で時代の価値観に合う地域交流を実現

ーー現在の事業内容を教えてください。
矢野晃平:
街の成長に伴走するビジネスとして、地域プラットフォーム事業、エリアマネジメント事業、エリアプロモーション事業の3つを展開しています。エリアマネジメントとは、地域の再開発において、住民やテナントといった民間を主体に進めるまちづくりです。ビル内に設けられたパブリックスペースや、マルシェなど地域のにぎわいを生むイベントもその一環ですね。
主要サービスの「ピアッザ」は、地域住民が交流を図れるプラットフォームで、現在は東京・神奈川・大阪といった首都圏を中心に導入されています。
地域のイベントや習い事情報の検索、不要な家具・家電を近所で受け渡すリユース機能などを備えた無料アプリとして、ユーザー数は17万人を突破しました。
ローカルコミュニティは独自性が強く、デジタル化だけでは解決しない課題もあるため、地域向けサービスは事業が成立しにくい傾向があります。その上で私たちは、再開発事業に取り組むデベロッパー様や、ローカルビジネスを展開する企業様に「ピアッザ」の機能を活用していただき、地域問題の解決を可能にしています。
ーーサービスの強みもうかがえますか?
矢野晃平:
情報のデジタル化によって、ユーザーが地域と適度な距離感を保てることが一番の強みです。従来型の地域コミュニティでは、強固なコミットメント力を試されますが、私は現代人の多くが「都合のいいご近所づきあい」を求めていると思います。
地域のために活動できるフェーズは人それぞれなので、気軽に地域のリソースにアクセスできる形が、今後の地域コミュニティの在り方ではないでしょうか。タイミングが合えば興味のあるトピックに参加してみよう、という機会を提供するサービスが「ピアッザ」ですね。
また、生成AIの活用で、大小さまざまな地域情報をデータベース化するテクノロジー面も強みです。特に、ネット上で地域情報を得る若い世代にとって、チラシや回覧板よりも役立つ提供方法を生み出せました。その一例として、イベント情報を生成AIで読み取り一元管理できる「チラデジ」という仕組みがあります。
さらに、アプリを使った街の再開発やメディア化という観点で、財源を確保するビジネススキームそのものも特徴的です。小さな会社でありながら、デベロッパーなど大手企業と取引できる理由の一つと言えます。
仲間とビジネスパートナーを増やし、新たなまちづくりを続ける会社へ
ーー今後の展望をお聞かせください。
矢野晃平:
人口が減少し続ける日本においては、「地域に根付く場所を生み、街を運用していく」という発想が大事になっていくでしょう。私たちはテクノロジーを駆使して、街の魅力や自信を高め続ける仕組みづくりに今後もコミットしていきたいと思います。
デジタル化の後れから、存続が難しくなっている地場産業は少なくありません。会社が大きくなれば、地域の事業をより支えられると考え、5年以内のIPO(新規上場)も目指しています。
また、現在は全国13都道府県、73自治体と「ローカル・ユナイテッド・パートナー協定」を結んでおり、「ピアッザ」内に開設したエリアも盛り上げていきます。全国の自治体や企業と連携していき、地域のみんなを結ぶローカル・ユナイテッド企業になるというビジョンも、いずれは実現したいですね。
ーーいっしょに働きたい方へメッセージをお願いします。
矢野晃平:
弊社の従業員には、「ピアッザ」の元ユーザーが多くいます。地域のコミュニティに課題を感じていたエンジニアや、弊社アプリや施設のご利用者側など、背景がさまざまなメンバーが集まり、「人々が支え合える街をつくる」という共通のミッションに挑んでいます。
そのため、私たちだからこそ提供できるものが沢山あると思っています。もちろん様々な考えの人がいますが、みんなで同じ目標に向かって日々取り組んでいます。
地域コミュニティアプリの開発からスタートした弊社は、新たなまちづくりをする会社へ変わろうとしています。事業拡大に向けて多くの仲間を求めているので、地域活性に関心がある方はぜひお越しください。
編集後記
より良いまちづくりを進める手段として、人のつながりにフォーカスしたPIAZZA株式会社。サービス開発の背景には、家族が困難に見舞われる中で、地域住民との交流に救われた矢野氏の経験があった。十人十色のストーリーを抱えた人材が、トップダウンではない組織で活躍している社風からも、信頼しあう心と助け合いを大切にする姿勢がうかがえる。

矢野晃平/1985年生まれ。イタリア語で「広場」を指す「PIAZZA」という空間概念に出会い、都市設計の道を志す。カナダ・McGill大学の土木工学部設計科を卒業。卒業後は日興シティグループ証券(現:SMBC日興証券)投資銀行本部に入社。その後、株式会社ネクソンに入社し、経営企画部でオンライン・コミュニティを軸としたゲーム事業に従事。2015年、PIAZZA株式会社を設立し、代表取締役に就任。