※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

企業のDX(※1)に不可欠なAPI(※2)の管理・活用を支援するKong株式会社。APIをデジタルサービスの「中枢神経」と捉え、企業の競争力に直結する戦略的資産として管理基盤を提供している。同社の日本事業を率いるのは、代表取締役社長の有泉大樹氏だ。大手日系企業から外資系、そしてスタートアップと、常に挑戦の舞台を求めキャリアを歩んできた。特に前職で「電子帳簿保存法」を改正し新市場を創造するという、社会に大きなインパクトを与えた実績のある企業でスタートアップから営業として約10年従事。「やり切った」という達成感を得ながらも、なぜ再び市場創造という道へ歩みを進めるのか。その原動力となる情熱に迫る。

(※1)DX(Digital Transformation):デジタル技術を活用してビジネスや社会の構造を根本的に変革する取り組み

(※2)API(Application Programming Interface):異なるソフトウェアやシステム間で機能やデータを共有するためのインターフェース

偶然の出会いから始まった挑戦 キャリアの礎を築いた営業時代

ーーIT業界に進まれた経緯についてお聞かせください。

有泉大樹:
大学を卒業した1999年は、戦後最大の就職氷河期といわれた時代でした。実は、もともとIT業界に強い興味があったわけではありませんでした。第一志望だった航空業界への道が叶わず、悔しい思いをしたのです。そして、ご縁があったのが大塚商会です。ここで一貫して営業職を経験したことが、現在の私のキャリアの基盤となりました。

ーー大塚商会での14年間で、特にキャリアの礎となった経験は何ですか。

有泉大樹:
製造業や流通サービスなど幅広い事業に携わり、多様なITに触れることができたのは大きな財産です。中でも転機となったのは、営業として「主体的に動く」という心構えが徹底的に鍛えられたことでした。当時は自ら能動的に動けない人材は淘汰される厳しい環境だったため、必死に考え抜きました。まさか自分が将来、外資系企業のトップになるとは想像もしていませんでした。しかし、この「若いうちの苦労」が後のキャリアの幅を広げたと確信しています。

日本の変革への信念と情熱 社会を動かした前職での大きな成功体験

ーー転職を決意された経緯について教えてください。

有泉大樹:
35歳を過ぎた頃、幼少期の海外経験からくる「グローバル志向」と、自社ブランドを売りたいという「メーカー志向」が強くなり、転職を決意しました。当時、転職はネガティブに捉えられがちでしたが、「人生一度きりだからこそ挑戦したい」という思いが勝りました。

デル・テクノロジーズに転職して最も衝撃を受けたのは「働き方」です。日本の時間管理とは異なり、与えられた時間でいかにパフォーマンスを出すかという自主性と成果を重んじる文化に、大きな学びと魅力を感じました。

その後、コンカーに転職しました。デル・テクノロジーズでの経験から、ITトレンドがクラウドやSaaS(※3)へ移行していると肌で感じ、「クラウド事業」「日本企業の強化」「スタートアップ」という3つの軸を立てました。この軸に合致したのが、経費精算のクラウドソリューションを提供するコンカーだったのです。日本の非生産的な業務を変革し、企業の競争力強化に貢献できるという点に、大きな可能性を感じました。

その信念のもとで特に会社として注力したのが、政府に働きかけ、「電子帳簿保存法」の改正を実現させたことです。これにより領収書の電子化が認められ、新たなマーケットが生まれました。そして、日本の働き方に大きな変革をもたらすことができたのです。入社時に20数名だった組織は、10年で360名規模に成長しました。社会に大きなインパクトを与えられたことは、私にとって非常に大きな喜びと満足感につながりました。

(※3)SaaS(Software as a Service):利用者がソフトウェアを自身のコンピューターにインストールするのではなく、提供者側のサーバーを通じて、インターネット経由でサービスを利用する形態

AI時代の新たな武器 API管理が拓くイノベーションの加速

ーーコンカーでの成功を経て、なぜ再び市場創造に挑もうと思われたのですか。

有泉大樹:
50歳を目前にして、「気力や体力が落ちる前にもう一度挑戦がしたい」という思いが湧き上がってきました。それは、コンカーで経験したような「日本にまだないマーケットを創造し、日本企業の競争力強化に貢献する」という挑戦です。ありがたいことに、ご縁があって弊社への参画が決まりました。

ーー新たな挑戦の舞台として貴社を選ばれたのはなぜですか。

有泉大樹:
APIは現代のデジタルサービスの「中枢神経」であり、特にAI時代において企業の競争力に直結する戦略的資産です。しかし、日本の企業はその戦略的活用という点で欧米に遅れをとっており、ここに大きな可能性を感じました。

一方で、組織内でAPIが爆発的に増加し、管理が追いつかなくなる課題も生まれています。セキュリティリスクといった深刻な課題もその一つです。弊社は、この絡み合ったAPIを適切に管理・整理する基盤を提供する、この分野で唯一無二ともいえる競争力の高い企業です。企業のDXを安心して加速させるご支援ができると確信し、参画を決意しました。

ーー企業のAI活用が加速する中で、貴社はどのような価値を提供しているのでしょうか。

有泉大樹:
2024年に、既存のAPI Gatewayを「AI Gateway」へと進化させるオープンソースのAIプラグイン群「Kong Gateway 3.6」を発表しました。これにより、企業のAI活用を劇的に簡素化し、安全性を高めることができます。たとえば、「ai-proxy」プラグインを使えば、アプリケーションのコードを変更することなく、OpenAIやAzure AIなど複数のAIサービスを簡単に適切に切り替えられます。

また、「ai-request-transformer」などのプラグインにより、プログラミング不要でリアルタイム翻訳といったAI機能をAPIに組み込めます。さらに、「ai-prompt-guard」プラグインが、AI活用のガバナンス強化にも貢献します。AIへの指示が社内ルールに準拠しているかを確認する、ファイアウォールのような役割を果たすのです。これらの機能によって、企業はAIトラフィックの管理、セキュリティ、監視を一元化し、イノベーションを加速させることが可能です。

国内外のパートナーシップと成長戦略 アジア太平洋の頂点を目指す挑戦

ーー日本での具体的な成長戦略をお聞かせください。

有泉大樹:
日本市場に深く根ざしたビジネスを展開するには、ローカルパートナーの力が不可欠です。2024年にはNTTデータ、電通総研、野村総合研究所(NRI)といった、日本を代表する企業と新たにパートナーシップを締結し、今では10社に及ぶ大手パートナー様とアライアンスを締結いたしました。今後は、パートナー様向けの支援プログラムを拡充し、トレーニングや認定資格制度などを通じて、共に日本企業のDXを推進していきたいと考えています。

また、並行してグローバルレベルでの連携も積極的に進めています。特にAPIセキュリティは世界的な関心事であり、2024年9月からTraceable AI社と協業してセキュリティ機能を強化しています。さらに、APIの可観測性を高めるためにDynatrace社と、リアルタイムデータストリーミングの領域でConfluent社とも協業を開始しました。これらの先進的な技術を日本のお客様にも提供していきます。

ーー今後の目標や組織づくりについてはいかがですか。

有泉大樹:
3年以内にアジア太平洋地域でトップの市場を創造することが目標です。その成長の原動力は「働きがい」にあると確信しています。序列に囚われず、全員が「同じ船に乗る仲間」として協力し合える、そんなワンチームのカルチャーを築きたいと考えています。そのために、ミッションやビジョンも全員で話し合って決め、誰もが仕事の存在意義を感じられる組織を目指しています。

ーー最後に、ご自身の人生観と、仕事で大切にされていることは何ですか。

有泉大樹:
「人生は一度きり」という考えが全ての根底にあります。だからこそ、後悔のないよう、常に挑戦し続け、やりきったと思える人生を送りたいです。そしてもう一つ大切にしているのは「人とのご縁」です。人との交流は、自分にはない価値観に触れ、新たな知識を得るきっかけになります。そこに壁をつくらず、積極的に関わっていくことが、自分自身の人生を豊かにしてくれると信じています。

編集後記

偶然の出会いから始まったITキャリア。有泉氏の歩みは、一見すると「縁」に導かれたもののようにも見える。しかしその根底には、「まだない市場を創造し、社会に価値を提供する」という一貫した挑戦の意志が燃え続けている。コンカーで日本の働き方に変革をもたらした成功は、壮大な物語の序章に過ぎなかった。APIというデジタル社会の「電力網」を整備する事業者として、日本の未来をどう描き、支えていくのか。同氏の第二章から目が離せない。

有泉大樹/1977年生まれ。1999年中央大学を卒業後、株式会社大塚商会に入社。以降14年間にわたり、製造業・流通サービス業におけるSI事業、ソリューション提案に従事。その後、デル・テクノロジーズ株式会社、株式会社コンカーなどに在籍。SI事業やソリューション提案、DX推進に携わる。2024年7月にKong株式会社に入社し、代表取締役社長に就任。