※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

日本の魅力を海外に発信する際の障壁である言語の壁を、AI技術と人の力で乗り越える株式会社こんにちハロー。同社が提供する動画翻訳サービス「こんにちハロー」は、話者の声質を維持しながら多言語に翻訳し、唇の動きまで自然に変換する技術で、インバウンド需要に応える企業を支援している。

飲食店やホテル、医療機関など幅広い業種で導入が進む同社のサービスについて、東京大学在学中に起業した同社代表取締役CEO、早見星吾氏に話を聞いた。

外国人観光客の多い築地育ちの東大生が実感した「言語の壁」

ーー現在の事業のアイデアは、どのような経験から生まれたのでしょうか?

早見星吾:
父から紹介された、Horizon社でのインターンがきっかけでした。社長は台湾出身で、日本語は堪能なものの英語が苦手でした。そのため、アメリカでのビジネス展開に苦労していたのです。2023年に社長がサンフランシスコへ出張する際、ちょうど私は大学の冬休みで時間があり、英語が得意だったため「私も同行します」と申し出て、社長のサポートをすることにしました。

そうして現地での業務支援を行う中で「HeyGen」という、翻訳にも対応した動画生成AIと出合い、その可能性に強く惹かれたのです。この革新的な技術を日本でどのように活用できるかを考え始めたことが、今の事業の原点となっています。

ーー数ある課題の中で、特に「言語」の問題に着目された理由は何ですか?

早見星吾:
築地市場で干物屋を営む叔父の姿を幼いころから見ていたことが影響しています。外国人観光客が多く訪れる築地では、叔父を含め多くの店主が英語でのコミュニケーションに苦労している現実を目の当たりにしていました。こうした幼少期からの体験と、父からの「失敗してもいいから、一緒に問題を解決するための事業をやってみよう」という一言が背中を押してくれ、2024年、東大の在学中に弊社を設立することとなったのです。

会社の設立を決意した際、最も時間を要したのがAI関連技術の法的保護です。技術の独自性を守るため、IT系の法律に詳しい弁護士と議論を重ね、他社からの模倣を防ぐための特許戦略を綿密に立てていきました。基盤づくりには想像以上の労力がかかりましたが、今思えばこの過程が現在の事業を支える礎になっています。

AIと人間の協働で、声も唇も自然に「翻訳」する

ーー貴社が提供するサービスの特徴を教えてください。

早見星吾:
弊社は「世界への架け橋、あなたの声で」というコンセプトのもと、AI技術を活用した動画翻訳サービス「こんにちハロー」を提供しています。特筆すべきはリップシンク技術により、翻訳された言語の発音に合わせて、話す人の唇の動きまで変換される点です。あたかもその人が話しているように見えるため、視聴者に違和感を与えません。実際、初めてサービスを体験したお客様からは「本当に自分が外国語を話しているように見える」と驚きの声を多くいただいています。

そうしたAI技術に人間のチェックを加えることで、AIが苦手とする固有名詞や同音異義語の誤訳を補正し、高精度な翻訳を実現しているのです。現在は、飲食店やホテル、医療機関など、幅広いお客様にご利用いただいています。

ーー貴社の強みはどのような点にありますか?

早見星吾:
複数のAIを比較分析し、最適なものを選定できる点が最大の強みです。動画の翻訳に使用するAIは複数あり、感情表現が豊かなものや、中国語の発音が綺麗なものなど、それぞれ得意分野が異なります。弊社ではこれまでに多くの動画を扱ってきており、どのAIがどのような用途に最適かを蓄積されたデータから判断できるのです。

また、AIを開発している企業のCEOや経営層と直接コネクションがあり、ニーズや改善点を伝えられる関係性を構築していることも強みとなっています。

言語の壁を越え、自分の声で世界とつながれる社会へ

ーーどのような事業者にサービスを活用してほしいとお考えですか?

早見星吾:
インバウンド需要に対応する事業者に特に活用していただきたいと考えています。現在、日本は海外からの観光客が増えていますが、言語の壁によって日本の文化や魅力を正確に伝えられているとは言いきれません。そうした現状に対して、「こんにちハロー」がお役立ちできると思うのです。

たとえば、お寺を訪れる観光客に対して、参拝方法や歴史的背景などをそれぞれの言語で伝えることができれば、より深い理解につながるでしょう。そんなふうに、海外の方々に「ディープな日本文化」を発信する手助けをしていきたいと考えています。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

早見星吾:
まずは日本での知名度向上に注力しますが、来年には海外展開したいと考えています。具体的には、日本語から他言語だけでなく、英語から中国語などさまざまな組み合わせで翻訳できる技術を活かし、アメリカやインドネシアなどでの事業展開を目指します。そうして、10年後には「AI動画翻訳」という言葉自体が一般化し、従来の字幕や吹き替えに続く「第3の選択肢」として広く認知されるようになれば嬉しいですね。

これからも「世界への架け橋、あなたの声で」というコンセプトのもと、誰もが自分の言葉で世界とつながれる社会の実現に向けて邁進していきます。

編集後記

東大在学中に起業した早見氏の姿からは、次世代のテクノロジー企業家のあり方が浮かび上がる。技術そのものへの関心だけでなく、社会課題の解決という明確な目的意識を持ち、法的保護にも注力する姿勢は、冷静な戦略家としての一面を感じさせた。また、複数のAI技術を比較分析し、最適なものを選定する知見は、流行りのテクノロジーに踊らされない確かな判断力の表れだろう。「AI+人」で多言語コミュニケーションの新たな可能性を拓く同社の挑戦は、グローバル化が進む社会において大きな意義を持つに違いない。

早見星吾/東京都生まれ。曾祖父の代から築地に住む江戸っ子で、京橋築地小学校から開成中学校・高等学校へ進学。2022年、東京大学理科一類に入学し、現在は工学部機械情報工学科に在籍中。2023年、アメリカサンフランシスコにてHorizon社のインターンとして、英語の通訳を行う中で、動画生成AIの「HeyGen」にめぐり合う。2024年、株式会社こんにちハローを設立し、代表取締役CEOに就任。現在は、複数の動画生成AIと人によるサポートを組み合わせた、動画翻訳サービス「こんにちハロー」を提供している。