カーボンニュートラル実現において、グリーンカーボンと並んで注目されている「ブルーカーボン」。ブルーカーボンは、海藻や海洋植物などの海洋生態系によって吸収・貯留される炭素を指し、吸着された炭素は大気中に放出されることなく、海底に蓄積される。
株式会社ヴェントゥーノは、海藻由来成分のフコイダン(食物繊維)を配合した商品の販売事業を展開している。さらに、地元の大学や漁業協同組合とも提携し、ブルーカーボン創出のモデルケースの確立も目指している。同社の事業において、その取り組みはどのような意義を持つのか。同社の代表取締役社長である中野勇人氏にうかがった。
異業種から社長に就任し、人事制度の見直しに着手
ーー前職は鉄道業界で働いていたそうですが、どのような経緯で貴社の社長に就任されたのですか?
中野勇人:
前職はJR九州で、さまざまな事業に携わっていました。その後、2018年に弊社の前社長だった義父から「社長として移籍しないか」というお話を受けました。異業種からいきなり社長に就任することには戸惑いもありましたが、新しいことにチャレンジすることが好きだったので、お引き受けしました。
ーー社長就任後はどのような取り組みをしましたか。
中野勇人:
小さい企業なりに強みをつくっていこうと考えて、人事制度の見直しに取り組みました。人事制度はツーステップ、スリーステップで改革を行う必要があります。まずは既存の給与体系の見直しから始めて、社員一人ひとりが目標を持ち、その達成度によって賞与が決まるシステムに変革しています。
海藻由来成分フコイダンの活用で海洋環境の改善にも取り組む
ーー貴社で取り扱っている商品には、どのような特徴がありますか。
中野勇人:
弊社では、「フコイダン」という成分を活用した健康食品や化粧品を取り扱っています。フコイダンは、モズクやメカブ(ワカメの根の部分)からとれる食物繊維です。フコイダンはぬめり成分として、お通じを良くする効果が期待でき、さらに免疫機能の向上や生活習慣病の改善なども期待できます。また、化粧品に配合すればヒアルロン酸の2倍の保湿力を発揮するほか、泡立ちをよくしたり、洗浄力に優れていたりという効果も期待できる成分です。
弊社ではこのフコイダンを使って、便通改善や口臭抑制などの機能性表示を取得したサプリメント食品や化粧品を販売しています。
弊社の商品を10年以上定期購入されている方もおられるなど、リピーターが多く、お客さまにご好評いただいています。
ーー環境に配慮した取り組みもしていますね。どのような考えからですか?
中野勇人:
弊社は「海藻の可能性でイノベーションを起こし、人と海が美しい未来をつくる。」というパーパスを掲げています。海藻由来の成分を原料にした商品を扱っているので、やはり海洋環境にも配慮したいという気持ちがあるのです。海藻は二酸化炭素を吸着するほか、魚の餌となることで海の生態系を守る役割を担っています。
取り組みの一つとして、糸島の漁業協同組合さんと「ブルーカーボン推進における地域貢献協定」を締結し、弊社がメカブを購入することで、漁師さんの収入安定やワカメの生産向上に貢献することを約束しました。このような取り組みがブルーカーボン創出のモデルケースとなり、ゆくゆくは九州全域の海を取り囲むようになれば素敵ですね。石垣島でも同様の取り組みを進めているほか、2024年の冬からはブルーカーボンのクレジット化も計画しています。「海がきれいなのはヴェントゥーノさんのおかげ」と言われるようになれば嬉しいです。
リブランディングとECサイトの強化により、ターゲットの拡大を図る
ーー今後はどのようなことに注力していきますか。
中野勇人:
今後は、フコイダンのリブランディングをしていきたいと考えています。弊社は1999年から九州大学を始めとする大学の研究室と共同で、フコイダンの研究に取り組んできました。フコイダンは1トンのモズクからわずか1%しかとれない上に、抽出に手間がかかる非常に稀少な材料です。また、弊社ではフコイダンの配合にも独自のこだわりがあります。こだわっているからこそ、高付加価値の商品となっています。
フコイダンの機能性表示である便秘の改善や免疫機能の向上についての悩みは、比較的年齢層が高い方に多く見られます。弊社商品の購買層も60代〜80代の方が多数です。今後はターゲットをより幅広い世代に拡大するために、ECサイト(※)を強化していきたいと考えています。これまで弊社の通販事業は9割以上がオフラインでしたが、モールや自社サイトのページをしっかりとつくり直し、広告手法を見直すなどして、ECサイトからの購入を増やしていきたいです。
競争が激化する通販業界の中で、弊社が生き残るための一番の強みは、フコイダンという商品そのものです。5年後、10年後にはフコイダンで通販事業の金メダルを獲得したいと考えています。国内外でトップを目指し、さらにその先で、ブルーカーボンへの取り組みによって地球と人を守っていきたいですね。
編集後記
海洋生態系を守り、原材料の仕入れで地元漁師の安定的な収入確保に貢献しつつ、人の健康に役立つ機能性表示食品を届ける株式会社ヴェントゥーノ。同社の事業とブルーカーボン創出の取り組みは、今後も発展し続けることだろう。
中野勇人/1980年、佐賀県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、2002年にJR九州に入社。2019年、株式会社ヴェントゥーノ代表取締役社長に就任。