※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

工場自動化やIoT、AIなど、ものづくりをはじめとする現代のさまざまなビジネスを支えているIPC(産業用PC)。昨今の世界的なDX推進により、その重要性はますます高まっている。台湾のPortwell, Inc.は、IPCの分野において産業用マザーボードや組み込みコンピュータの設計・製造を行う世界的なリーディングカンパニーだ。

その日本法人であるポートウェルジャパン株式会社は、2023年に25周年を迎えた。今回は、代表取締役を務める胡啓悰氏に、日本法人としての挑戦や、競合他社に対する優位性などについて、話をうかがった。

まさか自分が社長になるとは思ってもいなかった

ーー台湾のご出身ですが、もともと日本に興味をお持ちだったのですか?

胡啓悰:
両親が日本に縁があったため、幼少期から日本に興味を持っていました。そして、大学進学で初めて日本へ。卒業後はまた台湾へ戻り、自国の電機メーカーへ就職しました。その後台湾Portwell,Inc.へ転職し、日本エリアの営業マネージメントに従事した後、現在に至ります。当時は、日本語を勉強したくて訪日したため、まさか自分が経営者になるとは思っていませんでした。

大学時代にある程度の日本語は習得していたものの、台湾本国のポートウェルとは異なり、日本法人は社員の95%が日本人。初めは日本と台湾の文化の違いや、慣れない外国語でのマネジメントには苦労した覚えがあります。

本国のIPC拡販に加え、オリジナルモデルの開発・販売も手がける

ーー事業内容について、教えてください。

胡啓悰:
弊社の主力商品はIPC(産業用PC)です。これは、半導体製造機器や検査装置、医療機器、ATM、POS、自動販売機などに組み込んで制御するコンピュータです。このような装置は、基本的に24時間365日稼働させ、短くとも5年、長いものだと20年もの間、使用され続けることが前提となるため、IPCには堅牢性と耐久性、長期供給性が求められます。

近年では本国の製品を拡販するだけでなく、独自モデルを開発・販売することにも挑戦しています。たとえば、IPCでは本国のポートウェルに弊社が開発費を支払って「ジャパンプレミアム」モデルを企画・開発し、製品化。このような製品を今期までに5種類ほど開発してきました。

また、中国へ輸出するために必須となっている認証規格「CCC」を弊社で取得したIPCも企画・販売しており、これまでに1,000台の販売実績があります。さらに、中国を含む8ヵ国の規格認証を取得した新機種「RS4U-IC1」も開発し、2024年秋に発売いたしました。

IPCのほか、販路は異なるのですが、産業用タブレットやハンディターミナルの取り扱いも始めました。

技術者を擁しているから、日本での手厚いサポートが可能

ーー競合他社に比べたポートウェルジャパンの強みは、何ですか?

胡啓悰:
IPCメーカーには台湾企業が多く、弊社と同じように日本法人を持つところも多いです。その中で、他社の場合は営業スタッフのみが常駐しているケースが多く、なかには台湾人しかいないというところもあります。

一方、弊社では40名ほどの社員がおり、うち95%が日本人ですから、お客様に日本人の感覚で対応可能です。職種も、営業担当が10名程度、残りの30名は技術部や製造部、業務部のサポートスタッフが占めています。

ーーサポートスタッフは、どのような対応を行うのですか?

胡啓悰:
台湾から入荷した製品の日本国内での外観検査・動作試験、在庫管理に加え、お客様から戻ってきた故障品を検証したり、不良の発生条件を確認したりしています。IPCでは、お客様先では不具合が発生するのに、メーカーに持ち帰って確認すると出現しないといったケースがよくあります。これは、温度など使用環境が異なるためです。

こうした場合、他社では台湾に輸送してから検証するため、お客様は約3週間経過してから「不具合を確認できなかった」と連絡を受けることになるでしょう。しかも、不具合を確認出来ない場合、修理箇所も特定出来ないため、対応はそこで終了してしまいます。

しかし、弊社の場合は、日本で不具合を確認できるため、時間を節約できます。また、恒温槽などの設備も整えているため、お客様の使用環境に近い状況での検査が可能です。その後、問題があるものだけを台湾へ送って修理を依頼するという流れです。

ーー修理に関する印象的なエピソードはありますか?

胡啓悰:
弊社顧客のメーカー様で、エンドユーザー様の設置先では不具合が出るのに、メーカー様に戻すと不具合が起きないということがありました。弊社のエンジニアによるヒアリングと、弊社内の設備を活用した結果、特定の温度変化が発生している場合のみ、不具合が発生することを突き止めたのです。

またポートウェルジャパンのエンジニアのほとんどがはんだ検定を取得しておりますので、基板の修理やリワークも日本国内でスピーディに対応することが出来ます。

とことん日本のお客様に寄り添う「独立路線」

ーー貴社の強みについて、もう少し教えてください。

胡啓悰:
台湾法人にはないサービスで、BTO(Build To Ordar)を展開しています。これは、サイズやCPU、メモリー、容量、ハードディスクのサイズ、OSなどの希望スペックをヒアリングし、すべて要望に合うIPCを1台から組み立てて出荷するというものです。こうしたIPCの受注生産に1台から対応しているところは、ほかにあまりありません。

また、ほかの多くのIPCメーカーの日本法人では、台湾法人の経営方針や意向に沿うのが当たり前です。しかし弊社は、日本市場の特殊性を踏まえた方針を取っており、台湾本社側も我々の意向を尊重してくれています。

たとえば、本社の製品は全世界で販売するため、最大公約数的な仕様になっていることが多く、それが日本のお客様の求めるものとマッチしない場合があります。こういったこともあり日本独自に「ジャパンプレミアム」製品を開発してきましたが、近年、台湾側での新製品開発時に我々や日本のお客様の声に耳を傾け、日本のニーズに応じた仕様を盛り込んで開発を進めてくれています。

こういった、対等なパートナーのような立場で協力し合ってビジネスを進めるスタイルは、競合他社様はもちろん、外資系企業全体を見ても珍しいのでは無いかと思います。

成長性のある事業展開を行い「幸せ」を感じてもらえる企業へ

ーー今後の展望をお聞かせください。

胡啓悰:
IPCのほかに産業用タブレットやハンディターミナルの取り扱いを始め、現在はこちらに注力しているところです。これらはIPCとは販路もまったく異なり、物流業や小売業がお客様です。

また、産業用PCの受注数のボリュームゾーンは年間100台程度ですが、ハンディターミナルは1案件で数千台に上ることもあり、売上も大きく異なります。

さまざまな商品やサービスを組み合わせてリスク管理を行いながら、成長性と安定性のある事業展開を行っていきたいですね。新卒採用にも力を入れ、社員の給与も上げ、顧客と従業員の両方に「幸せ」を感じてもらえる企業にしたいと考えています。

編集後記

AIやIoTなど、デジタル技術がビジネスを牽引する現代において、IPCの存在感は決して小さくない。将来性の高い商材を扱っていながら、また新たな商材の開発や販売に果敢に挑戦するポートウェルジャパン株式会社からは、「私たちは、ただの現地法人では終わらない」という意気込みを感じる。今後のさらなる飛躍が期待される。

胡啓悰/1960年台湾生まれ。1990年に台湾の総合電機メーカー大手、大同公司(Tatung)の日本法人である大同日本に入社。1995年からは大同台湾本社にて日本を含む海外営業マネージメントに従事。2000年に台湾Portwell, Inc.に入社。日本エリアの営業マネージャーを担当した後、2008年にポートウェルジャパン株式会社の副社長に就任。2009年より同社代表取締役社長。