※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

1983年に設立されたクイック・ロック・ジャパン株式会社。包装業界のリーディングカンパニーである同社が製造・販売する「バッグ・クロージャー」は、食パンの袋などについている留め具の正式名称だ。代表取締役の河合元浩氏に、就任のきっかけや販売商品の強み、今後の展望についてうかがった。

グローバル企業で財務や法人立ち上げを経験後、外資系メーカーの社長へ

ーーご経歴をお話しいただけますか。

河合元浩:
ソニー株式会社に21年在籍し、そのうちの15年間は、シンガポールや上海で経営管理・アジア各国のテレビ事業・財務を担当しました。人生初の海外渡航となったシンガポールでは、各民族の文化や日本と異なるニーズにふれ、「異文化」を尊重する意識が芽生えました。弊社が米国本社と戦略を議論したり海外事業で商品を展開していく上で、最も生きている学びだと思います。

2014年に転職したシンプレスジャパン株式会社では、第一号社員のCFO(最高財務責任者)に就任しました。私の任務は、設立済みの会社の第一号社員として入社して事業の立ち上げであり、Eコマースやオンラインマーケティング及び工場で働く人材を集めることでした。その後、会社の規模が100人程度になったタイミングで社長を任された次第です。

ーー2018年に貴社へ入社されましたが、きっかけがあったのでしょうか?

河合元浩:
前職で「本社の意向」による変化の激しさを感じていた頃、経営に携わるチャンスをいただいたのです。クイック・ロック・ジャパンはアメリカ発の外資系企業でありながら、日本拠点の自由度が高く、影響力も大きい会社ということで話を受けました。

新たなチャレンジを好む性格なので、ゼロからのチーム作りとは真逆と言える「完成されたチームの変革」に取り組めることも魅力でしたね。日本法人の設立から30数年が経っていたからこそ、素人的な視点がメリットになるだろうと前向きに捉えられたのです。

バッグ・クロージャーと結束機のセット販売で安定経営&新製品開発にも挑戦

ーー事業内容や商品についてご解説いただけますか。

河合元浩:
主力商品は、パン製品の袋によく使われる「バッグ・クロージャー」という留め具です。国内唯一のメーカーであると同時に、「結束機」を販売することで「お客様に留め具を継続購入していただく」という優秀なビジネスモデルを確立しています。「結束機」とは、自動・半自動で留め具をセットできる機械のことで、「1分あたり数十個」というスピードで稼働している大きなパン工場の多くが導入しています。

バッグ・クロージャーが独特なデザインになった理由をご存知でしょうか。結束機が稼働する工場では、ロール状に連結した約4000個のクロージャーがベルトコンベアで流れてくるパンの袋を自動的に閉じ、ロールから切り離されます。この工程に最適な形状と柔軟性を追求した結果、現在のデザインになりました。

バッグ・クロージャーは、長年スタンダードであり続け、誰もが知っている形に贈られる「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞しました。あの不思議な形状を象ったTシャツやアクセサリーを作る人がいるほど、皆様に愛されている製品です。

ーー企業の強みをお聞かせください。

河合元浩:
海外の競合企業に対する優位性は、40年以上の歴史からなる先行者利益だけでなく、バッグ・クロージャーの品質の高さにあると言えるでしょう。最大のポイントは、袋を閉じる時と外す時に硬すぎない「ほどよい弾力性」です。

世界に5カ所あるクイック・ロックの工場の中でも、日本の品質管理は卓越していると思います。留め具は食品に直接ふれないものの、お客様に安心・安全を提供するために「FSSC 22000」という「食品」に適用される安全規格を取得・維持し続けています。

ーーお取引先や商品の用途についてもうかがえればと思います。

河合元浩:
日本ではパン・お菓子類、麺類、野菜などの青果物の包装のほか、工業部品の留め具にも採用されています。海外ではパンと野菜への用途が半々といった状況です。日本ではまだ採用例が少ない青果物や工業部品で、新規開拓の余地があると考えています。

ーー新製品の開発にも注力されているのでしょうか。

河合元浩:
既存商品に付加価値をつけて、柱を増やしていくことがベストでしょう。例えば、従来のクロージャーに印刷機能をプラスした「ラベルクロージャー」は、商品名やイラスト、食品トレーサビリティ、レシピがわかるQRコードなど、さまざまな情報を記載できる製品としてニーズが高まっています。

たとえば、老舗食品メーカーの6個入り肉まんにも、弊社の赤いラベルクロージャーが使用されているんですよ。ラベルにQRコードを載せたことで、袋に記載するよりもキャンペーン情報が目立ち、応募率がアップしたと喜んでいただきました。

アイデアがあふれる会社を目指して「環境問題への対応」を勝機に海外展開も

ーー長い歴史の中で会社に変化はありましたか?

河合元浩:
入社当初は「物静かな人が多い会社だ」と感じたものですが、近頃は各自がアイデアを出しやすい雰囲気になってきたと思います。

私は、長年変わらない製品を販売してきた会社の「変化」を担うべく代表に就任しました。「みんなで建設的に議論して、いろいろなことにチャレンジしよう。失敗しても、すぐに次のチャレンジを始める会社が勝ち残る」という社員に伝えてきた意向が、形になりつつあるのではないでしょうか。

ーー社内の議論が形になった事例もうかがえますか?

河合元浩:
スーパーの店内にあるパン・野菜コーナーや町のパン屋さんなど向けに、従来品よりもサイズを小さくすることにより低価格で販売できるクロージャーを開発するという案が社員の中から出ました。

これらのお客様向けには低価格のクロージャーだけでなく、大手製パン会社向けとは違い、狭いスペースにも置けるコンパクトで、できればおしゃれな結束機が必要だったのです。

そこで、弊社の中で最もコンパクトかつ、おしゃれな結束機を新開発の小さなクロージャーに対応できるように再設計し、「(小さくて)低価格のクロージャーと、コンパクトでおしゃれな結束機のセット」でお客様に提案するという企画をチームでまとめました。

また、個人店向けのクロージャーはメーカー品ほどの強度が不要なので、プラスチック製だけでなく、ローコストで丈夫な再生紙タイプも採用する、といった工夫もあります。

もう一つの事例として、クロージャーはこれまではパンメーカーなどの食品会社にその留め具として使っていただいていたのですが、クロージャーそのものを消費者向けに販売したいという社員の声が出て、さまざまな議論の結果「メッセージ付き パンの袋を留めるアレ(ラベルクロージャー)」という形で商品化して100円ショップなどで扱ってもらえるようになりました。

ーー今後の展望をお聞かせください。

河合元浩:
自由に意見が飛び交う会社にするためには、大小問わずたくさんの成功体験を作ることが大切です。真面目で能力が高い社員がとても多いので、もっとみんなに自信を持ってもらうことが直近の課題ですね。成長事業を会社が持つことで、社員たちが生き生きとし、5年後・10年後に事業の柱が何本か育っていることが理想的だと言えます。

弊社は日本法人として、日本だけでなく東アジア・東南アジアを中心に約10カ国も担当していますが、海外は間違いなく今後も会社が成長できるエリアです。競合の多さや価格が重視される点はネックですが、環境問題に注力している国に弊社の取り組みをアピールしていきたいと思います。

編集後記

あらためて見ると、なんとも不思議な形をしているバッグ・クロージャー。留め具としてはすでに完成形に見えるが、環境問題への対応という大きな変化の波が訪れていた。豊富な知見を持って異業界からやってきた河合社長。社員らのポテンシャルに気付き、アイデアを実現する取り組みは、さらなる進化を遂げたいクイック・ロック・ジャパンが求めていたリーダー像そのものだろう。

河合元浩/1968年、東京都生まれ。1991年、ソニー株式会社に入社。カスタマーサービス、経営管理、アジアでのテレビ事業開拓、財務、ゲーム事業管理などを経験。21年間在籍したうち、15年にわたってシンガポールや上海などの海外で勤務する。2014年、シンプレスジャパン株式会社に入社。2016年、同社の代表取締役社長に就任。2018年、クイック・ロック・ジャパン株式会社に入社。現職に至る。