※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

看板業界においての照明器具の製造販売で全国シェア40%を誇る株式会社ナニワ。代表取締役社長・田辺光代氏は、父が創業し、兄が継いだ同社を立て直すため、急きょ異業種の会社からトップに就任した。どのような思いで同社を立て直したのか。競合の存在をどのように捉えているか。社員の教育に力を入れている背景は何か。さまざまな観点から田辺氏に話をうかがった。

「社長としては認められない」という声に発奮

ーー田辺社長の経歴を教えてください。

田辺光代:
弊社は父が創業し、兄が25歳のときに経営を継ぎました。私は20歳の時に就職した電子部品の会社で定年まで働くつもりでしたので、弊社の事業について詳しいことはほとんど知りませんでした。ところが兄が病に倒れ、会社を継ぐよう打診されたのです。弊社の経営が厳しくなっていたので、「身内の責任として自分が継ごう」と決めました。

ある社員からは、「あなたを社長としては認められません」と言われましたが、負けず嫌いの私はその言葉を原動力に、経営の立て直しに取り組みました。

ーー実際に、どのようなことに取り組みましたか。

田辺光代:
社長に就任して、真っ先に考えたのは社員を豊かにすることです。そのためには疲弊している部分にメスを入れなければなりません。具体的には、無駄な出費の削減です。前職の時に税理士を目指し勉強した経験から弊社の自転車操業ぶりはすぐにわかったので、経費に関する幹部たちの裁量を狭めました。その分を社員に還元したのです。

次に挨拶です。社内の雰囲気を明るくしたかったので、朝礼では社員に元気に挨拶してもらう習慣をつくりました。私の席は、社員たちがいつでも声をかけられる場所に設け、風通しのよい環境を整えたのです。

また、社員たちがやりたいことを発信できるように、会議での発言を促しました。資格が必要であれば費用は会社が援助することも約束しましたね。「社長が動いてくれているから、自分たちも動き出そう」という気持ちが社員たちの中に少しずつ芽生えていったように思えます。

おかげで就任1年後には売上が伸び、私を認めないと言った社員からも感謝の言葉をもらうことができました。

同業他社とは競合ではなく「協業」を

ーー貴社の事業を教えてください。

田辺光代:
弊社では照明器具と看板資材という2種類の商材を扱っています。看板業界においての照明器具の製造販売では全国シェアは40%を占めています。看板資材については東京の看板資材の会社をM&Aで取得し、中国のメーカーからデジタルサイネージなどを仕入れて販売を行っています。現在、大阪と東京の2拠点で事業を展開中です。

ーー競合他社に対してどのような差別化を図っていますか。

田辺光代:
お互いにできることが違いますから、同業他社さまとは競合ではなく協業を優先しています。自社にはない相手の強みを理解し、お客さまのニーズをもとに相手を紹介する。お互いにそうすれば価格競争で疲弊せず、技術協力なども進めながら一緒に成長できるはずです。今のところ5社の同業他社さまとの協業が実現しています。

お客さまから選ばれるための社員のブランディング

ーー教育体制について教えてください。

田辺光代:
現代帝王学、個性心理学、声解析を使ったさまざまな研修を行っています。中国古典の帝王学をベースにした現代帝王学では、「城をつくりたい」「つくったものを動かしたい」などの組織の中での自分の志向を把握します。個性心理学は、自分と相手の特性や違いを理解するために活用できるツールです。声解析は月1回講師を招き、自分の声を整えてコミュニケーションを円滑にする方法を教えています。

ーーさまざまな教育のベースにはどのような思いがありますか。

田辺光代:
お客さまから選ばれるために、自分をブランディングしてほしいと考えています。溢れるほど商材がある現代において、お客さまは何を買うかではなく「誰から買うか」を重視します。多少値段が高くても、お客さまに「この人から買いたい」と思ってもらうには信頼されなければなりません。そして信頼される人間になるにはつねに自分を磨き、ブランドとして確立する必要があるのです。だからこそ、社員の内面を磨く教育には力を入れています。

社員がやりたいことを基本にしながら社会貢献も推進

ーー今後注力していくテーマを教えてください。

田辺光代:
「社員がやりたいこと」をやるというのが基本方針です。たとえば業務にドローンを導入したいという意見が出ました。そこで、国家資格から民間資格まで必要な資格の取得費用を援助することにしました。また20代の若手をAIのスクールに通わせたところ「楽しい」という前向きな反応があり、現在ではAIを活用した資料作成など、社内のDX推進をリードしてもらっています。工程管理などを一元化するスマートボードも導入しました。

事業については、たとえばデジタルサイネージは売っておしまいではなく、内部のコンテンツを定期的に提供するサブスクリプションによってビジネスを広げていきたいと考えています。

また、社会貢献活動にも力を入れます。以前クラウドファンディングを活用し、淡路島の廃校を舞台に保護者と子どもたち向けのイベントを開催しました。現在は関西の会社さまが養護施設などの子どもたちの「企業内里親」になってもらうための活動を進めています。協業している同業他社さまにも呼びかけて、安心・安全な街づくりに貢献することが今後の目標です。

編集後記

「社員は家族のようなものです」と語る田辺氏。その思いがあるからこそ、「社員を豊かに」という目標を掲げ、逆風の中で同社を立て直し、社員のブランディングにつながる教育体制を整えてこられたのだろう。これからさらに協業先を増やし、街づくりも視野に入れた活動を進める同社の動向から目が離せない。

田辺光代/大阪府出身。2017年、父が創業し、兄が継いだ株式会社ナニワの代表取締役社長に就任。同時にグループ会社の株式会社アイベックスの代表取締役社長にも就任。声解析士認定インストラクターとして声解析セミナーを定期的に開催、声の自己調律を通じて多くの企業の「健康経営」に貢献している。