
2015年に設立されたサンデン・リテールシステム株式会社。サンデンホールディングス株式会社(現・サンデン株式会社)より、自動販売機、冷凍・冷蔵ショーケースの製造・販売など流通システム事業を分社する形で誕生した。現在は、冷凍・冷蔵の技術とグループの物流機能を活かし、倉庫やプレハブの一括管理サービスも展開中だ。代表取締役社長の森益哉氏に、就任の経緯や自販機業界の現在、新規事業についてうかがった。
自動販売機を設置するアルバイトからグローバル企業の社長になるまで
ーー入社後の経験をお話しいただけますか。
森益哉:
私は大学時代にアルバイトとして自動販売機の設置業務をしていたことや、当時のサンデン株式会社は、自動車のエアコン用コンプレッサーと自動販売機、冷凍・冷蔵ショーケースの販売事業を行う会社として、多数の海外拠点を持っていました。そういった、グローバル志向が強い部分も大きな決め手で、1993年にサンデン株式会社に入社しました。
物流部で輸出入業務を学んだのち、店舗システム事業部とOEM事業部を経て、1999年に海外赴任が実現し、シンガポールとタイの計5年間にわたって、現地生産による販売事業を経験しました。
ーー貴社の社長に就任した経緯もうかがえますか?
森益哉:
帰国後は経営企画室に8年在籍したのち、役員として人事本部長を務めました。さまざまな実績が評価された結果、弊社の設立時に取締役を任せていただけたのだと思います。
転機となったのは、サンデン株式会社の業績回復を目的とした2019年のスピンアウトです。自動販売機、冷凍・冷蔵ショーケース事業を売却し、サンデン株式会社は業績不振の自動車向け事業に再投資するという計画でした。サンデン・リテールシステム株式会社は独立した上で、投資ファンドによって成長を続けることになり、事業の全容を知る人物として私が社長に指名された次第です。
ーー事業を拡大できる確信もあったのでしょうか?
森益哉:
当時の自動販売機業界は飽和気味で、6社あったうちの4社が撤退し、競合が減った状況ではありました。弊社はコンビニエンスストアにコーヒーマシンを導入する新規事業によって業績も良かったので、スピンアウトは成功すると判断しました。
また、人手不足が社会問題となる中で、自動販売機の必要性を実感したタイミングでもありましたね。社会に貢献するチャンスが来ると信じて、弊社の冷凍・冷蔵技術を守ると決めました。
ーー社長としての心得をお聞かせください。
森益哉:
経営企画室での経験が、社長業のベースになっていますね。徹夜でつくった経営戦略の資料が、当時の社長に拒絶された時のことは忘れられません。「お前の意見はどこに入っているのか」と問われ、仕事に自分なりの付加価値をつける重要性を知るきっかけになりました。
会社の存続においても同じことが言えるでしょう。存在価値を世の中に示す、という姿勢をベースに、自動販売機に冷凍機能などの付加価値をつけていきました。「社会貢献」は弊社のビジョンの一つであり、私としても経営における一番の鍵としています。
冷凍&冷蔵技術を生かして自動販売機、冷凍・冷蔵ショーケース、冷凍・冷蔵設備の設計、保守等を展開

ーー現在の事業内容を教えてください。
森益哉:
メイン事業の1つは、飲料向け自動販売機の製造・販売です。近年は、冷凍機能を備えた「ど冷えもん(どひえもん)」シリーズをはじめとする、飲料以外の物販機にも注力しています。
また、冷凍・冷蔵ショーケースの施工・メンテナンスも大きな事業の一つです。大手コンビニエンスストア各社とお取引があり、全国で3割のシェアを誇っています。
ほかにも、保管倉庫や冷凍・冷蔵プレハブの設営、管理サービスも提供しています。今後はグループ企業の物流システムを活かして、冷凍物流の発展に貢献したいと考えています。
ーー「ど冷えもん(どひえもん)」はテレビでも多数取り上げられていますね。
森益哉:
「ど冷えもん」は、もともと冷凍食品メーカーをターゲットに開発した製品でしたが、最初は思うような成果を上げられていませんでした。風向きが変わったのは、コロナ禍で時短営業を余儀なくされたラーメン店が「ど冷えもん」を導入してくださってからです。
お店が閉まっていても家でおいしいラーメンが食べられるということで、消費者にとっても救世主的な位置づけとなり、メディアにも大きく取り上げていただきました。その後、他社も冷凍自動販売機を発売しましたが、先行優位性があり、メニュー数の多さやキャッシュレス決済ができることなどは今でも弊社の強みです。
物販機は年間で500台も売れれば上出来と言われているので、3年で1万台を出荷した「ど冷えもん」は空前のヒット商品だと言えます。結果的にBtoCに近い製品を出せたことは、自動販売機はもっといろいろな物を売れる、という新しい発見にもつながりました。
海外事業の可能性と医療分野での社会貢献に着目
ーー今後の展望をお聞かせください。
森益哉:
医療分野への参入を目指し、「解凍」の技術を確立させて臓器保存の手段を増やすことを目的とした、教育機関と共同研究してきたプロジェクトが進展しています。
現状、解凍時のヒートショックが損傷を与えることから、臓器の冷凍保存はできません。移植手術の際は、冷蔵した臓器をヘリコプターで運んでおり、多額の費用はほぼ運搬代なのです。冷凍・解凍技術が進化すれば、適合者を待つことなく多くの人を救えて、手術費用も抑えられる時代が来るでしょう。
ーー既存事業の新展開もあるのでしょうか?
森益哉:
社長就任時から考えていたものの、コロナ禍で中断した海外事業を進めていきたいと思います。現在はアメリカ・イタリア・中国・タイに拠点があり、今後も確実に成長できる領域です。
たとえば、日本のようなコンビニエンスストアがないヨーロッパでは、コロナ禍を経て有人だった売店が弊社の物販機に置き換わりつつあります。東南アジアでは、日系企業が食品の冷凍倉庫を欲しており、プレハブ事業が好調です。コンビニエンスストアが増加しているアジアの地域にも注目しています。
編集後記
グローバルな活躍を夢見て、サンデンへの入社を決めた森社長。その広い視野と向上心に加えて、「自分が生む付加価値」を意識し始めたあとの成長は目覚ましかったことだろう。会社を存続させるという意志のもと、率いることになったサンデン・リテールシステムについては、「常に新しいことに挑戦する会社でありたい」と力強く語ってくれた。

森益哉/1967年生まれ。龍谷大学を卒業。1993年、サンデン株式会社に入社。2014年、同社の執行役員人事本部長に就任。2015年、サンデン・リテールシステム株式会社の取締役に就任し、2018年に代表取締役へ就任。