※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

1945年の創業以来、アイスクリームや冷凍食品を中心に長く愛され続け、日本の食文化に貢献してきたフタバ食品株式会社。「サクレレモン」や中華まんじゅうなどの主力商品で知られる同社は、時代のニーズに合わせた新商品開発や技術革新に積極的に取り組んでいる。

今回は、代表取締役社長の齋藤貞大氏から、企業理念や主力事業、また技術開発への取り組みや今後の展望などについてうかがった。

創業当初に会社を襲った台風によって社是が生まれた

ーーフタバ食品の社長に就任するまでの経緯を教えてください。

齋藤貞大:
1976年に弊社に入社しました。当時は第2次石油ショックの影響で就職が非常に厳しい時代でした。私もなかなか就職先が決まらず、人づてにフタバ食品が求人情報を出していると聞き、公衆電話から「面接していただけませんか」と電話をかけたことを今でも鮮明に覚えています。

入社後は研究室に配属され、その後、工場長や品質管理部長などを歴任して、2021年に代表取締役社長に就任しました。もともと科学に興味があって、試験管を振る仕事ができれば良いなと思って入社したものですから、社長になることなど夢にも思っていませんでした。

ーー経営する上で大切にしていることを教えてください。

齋藤貞大:
弊社の社是(企業理念)である「私たちは喜んで社業に励み、進んで社会生活に貢献することを目的とします」という考え方です。この「社会貢献」という社是は、創業当時のある出来事から誕生したと聞いています。

1945年の創業から4年後、弊社の工場は台風の被害を受けました。川の近くに工場があったため、水浸しになり、機械も使えなくなるほどの被害を受けたのです。当時、弊社は政府から製粉の許可を受けて小麦などの食品原料を預かっていました。台風が襲ったとき、当時の従業員の皆さんはまず自分たちの機械よりも原料や製粉した製品を運び出すことを最優先にしました。さらに、その製粉したものを被災して困っている方々にお配りしたと聞いています。

自分たちの利益よりもまず人のために行動することが、会社の基盤にあります。これが私たちの経営の姿勢であり、今も変わることなく大切にしている信念です。

40年近く愛され続けるヒット商品に裏打ちされた技術力

ーー貴社の事業内容を教えてください。

齋藤貞大:
弊社は食品メーカーで、主にアイスクリーム、氷菓、冷凍食品を中心に事業を展開しています。特に1985年に誕生した「サクレレモン」は、弊社の売上トップを誇る商品です。また、中華まんじゅうも取り扱い、某コンビニエンスストアへ供給しております。

さらに、1972年には日本で初めてマロングラッセの製造販売を開始しました。現在、日本国内のマロングラッセ市場では半分強のシェアを持っており、有名なお菓子屋さんやホテルのマロングラッセは弊社が製造しています。

売上の割合としては、アイスクリームが65%程、中華まんじゅうが20%程、マロングラッセやフルーツゼリーなど菓子類が5%程、そしてその他に外食部門などもあります。

ーー貴社の強みはどのような点にありますか。

齋藤貞大:
「サクレ」シリーズの製造で培ってきた口当たりのよい氷づくりの技術にあります。「サクレレモン」は1985年の発売以来、40年近く多くのお客様に愛され続けている商品です。これは、私たちが積み重ねてきた技術の結晶であり、絶え間ない改良とお客様への感謝の気持ちがあるからこそ実現しているものだと思っています。

ーー消費者はどのような層が多いのですか。

齋藤貞大:
「サクレレモン」の消費者層は主に40代から60代の方々です。発売当初に10代や20代だったお客様が、現在も継続して購入してくださっているという印象があります。

サクレレモンを今の20代から30代の方々へ認知拡大を図るために、SNSを活用した情報発信に力を入れております。その他にも、オンラインショップの活用にも力を入れていく予定です。また、これまではアイスクリームや餃子を中心に販売してきましたが、今後はマロングラッセやプリンなどの商品開発にも力を入れていく方針です。

新しい展開を通じて、より幅広い層のお客様に弊社の商品を楽しんでいただけるよう努めたいと考えています。

目先のヒット商品ではなく将来を見据えた商品開発に取り組む

ーー経営課題として、どのような点に注力していますか。

齋藤貞大:
食品の基礎となる部分の研究がまだまだ不足していると感じています。商品開発は、最終的な商品だけを考えていては非常に脆弱です。基礎となる部分の厚みを持たせ、しっかりとした土台をつくることが必要だと考えています。

たとえば、氷の削り方を変えることで食感が変わりますし、氷自体の製造方法も改良していける可能性があります。このような基礎的な研究にはまだ多くの余地があり、そこには機械の開発や運用の改善も含まれます。

目先のヒット商品を目指すのではなく、将来的に展開する商品にも反映できる技術やノウハウを蓄積していきたいと考えています。製造メーカーとして、常に新しい商品を提供し続けることが求められています。それができなくなれば会社の存続にも関わるため、短期的な成果を出すことも重要ですが、基礎的な部分の開発をしっかり行い、長期的な成長を目指すことが重要だと考えています。

ーー人材採用に関してはどのような考えをお持ちですか。

齋藤貞大:
人材採用において、私たちが求めるのはまず「ものづくりが好きな人」です。そして、好奇心と行動力を持ち、何にでも興味を示して積極的に挑戦できる方を求めています。さらに、リーダーシップを発揮できる方も非常に重要な人材だと考えています。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

齋藤貞大:
私の夢は、従業員の皆さんに「この会社に勤めてよかった」と思ってもらえるような会社にしていくことです。創業者の見当(みとう)も、きっと同じ思いで会社を築いてきたのだと思います。

創業者がつくり上げた社是をどのように実現していくかにフォーカスしながら、今後も社員一同、ともに歩み続け、お客さまに満足いただける商品とサービスの提供に努めてまいります。

編集後記

研究室や工場勤務を経て社長に就任した齋藤氏。製造の現場を知るからこその商品への強いこだわりを感じた。看板商品の「サクレレモン」やその他の製品に込められた技術の積み重ねと、基礎研究への取り組みは、まさに齋藤社長の研究者としてのこだわりといえるだろう。

従業員の幸せと社会貢献を両立させながら、この先どのような商品を誕生させ、社会に「美味しさ」と「感動」を提供するのか、今後の展開に大いに期待したい。

齋藤貞大/1954年、栃木県生まれ。1976年、明治大学農学部卒業。同年フタバ食品株式会社に入社し、研究室に配属。2001年研究室室長、2003年マロングラッセ工場長、2008年関西工場長、2011年取締役品質管理部長、2013年常務取締役品質管理部長を歴任。2021年に代表取締役社長就任。