※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

2016年にノーベル物理学賞を受賞した「トポロジカル物質」という最先端の科学を武器に、新たな技術の開発に挑むTopoLogic株式会社。省電力メモリや高速な熱センサの開発に取り組む同社は、データセンターの消費電力削減やEVの安全性向上など、現代社会の課題解決に挑戦している。

「日本の技術力を世界で活かす」という熱い思いを胸に、グローバル市場を目指す同社の取り組みについて、同社代表取締役社長の佐藤太紀氏に話をうかがった。

※トポロジカル物質とは、従来の代表的な物質である絶縁体・導体(金属)・半導体とはまったく異なる電子バンド構造を持ち、特異な物理効果を生じさせる物質。

技術を活かす道を求めて、ビジネスの世界へ

ーービジネスに興味を持つようになった経緯をお聞かせください。

佐藤太紀:
大学を卒業するまではエンジニアになりたいと思っていました。ずっと航空宇宙分野の研究をしており、研究論文のために実験を徹夜でやるような学生でしたね。航空の分野は日本では雇用が少なかったので、アメリカの企業に就職したいと思い相談したところ、防衛関連とも密接に結びついているので国籍の関係で難しいと言われました。

そこで、日本に航空の分野を扱う会社が少ないことを問題視するようになったのです。技術力はあるのに、ビジネスとしてうまく機能していないのではないかと考え、そうした状況を打破したいと思うようになり、ビジネスに興味を持ちました。

ーーTopoLogicの創業に関わることになった経緯も教えてください。

佐藤太紀:
マッキンゼーに勤めていたころの先輩に誘っていただき、弊社の創業者である中辻知先生とお会いする機会がありました。そこでトポロジカル物質について聞いていくうちに、日本が強みを持つ半導体や電子デバイスの分野で、アメリカと比較しても十分に競争力を持ったポジションをとれると思ったのです。そういった理由から、徐々に代表就任へ向けて気持ちが固まっていき、弊社に入社することとなりました。

トポロジカル物質がひらく、次世代テクノロジーの可能性

ーー貴社の事業内容を教えてください。

佐藤太紀:
私たちはノーベル物理学賞を受賞したトポロジカル物質が持つ効果や特性を使って、これまで見過ごされてきた産業の課題を解決する技術を開発し、それらを社会に送り出すことを目指しています。現在は主に演算と熱検知の技術に注力し、メモリやセンサの開発を行っています。

メモリは、特に最近AIが多くの分野で使われるようになり、それに伴って大量のデータセンターが必要となりました。これは電力の面で大きな問題になっており、電力需要は、2022年から2026年の間に2倍以上となるだろうという試算も出ているほどです。

私たちの目標は、データセンターの消費電力を半分ほどに抑えられる技術を開発することです。これが実現すれば、環境負荷の大幅な削減につながります。環境に配慮した発電所を新たに建てるよりも、はるかに環境に優しい解決策になるわけです。

ーーセンサ技術についても詳しく教えていただけますか?

佐藤太紀:
センサ技術についても、トポロジカル物質を使って数ミリ秒で熱の発生を検知し、可視化できる技術を開発しています。これは特に電気自動車(EV)やハイブリッド車のバッテリー管理に非常に効果的です。

最近、充電設備の問題で車が炎上するケースが世界各国で報告されています。過去には輸入車を運ぶ船で、EVが燃えて船が全損したという事故もありました。そのときは高級車ばかりが積まれていて、船1隻で何百億円もの損害が出てしまったのです。

私たちのセンサ技術は、従来の温度センサと違って、触れた瞬間に熱を検知できるので、バッテリーの異常や機械部品のオーバーヒートを即座に察知し、予防することができます。

現在のEVは安全マージンを大きくとっているため、実際の走行可能距離よりも控えめな数値を表示していますが、この技術を使えばより正確な予測が可能になり、バッテリーの使用効率を上げることができます。これは貴重な原材料の節約にもつながり、車の性能向上にも寄与することでしょう。

日本発の技術で世界に挑む

ーー今後の事業展開についてどのようなビジョンをお持ちですか?

佐藤太紀:
私たちは、日本から世界で戦える企業を生み出したいと考えています。日本には素晴らしい技術がありますが、それをグローバル市場で展開する力が弱く、特に半導体の分野では、メモリ製造から日本企業が撤退してしまい、現在はアメリカ、台湾、韓国の三国に集中してしまっている状態です。

そこで日本の強みである材料技術を活かしつつ、グローバル市場で勝負していきたいと考えています。すでに台湾の企業と共同開発を進めており、アメリカ市場への参入も視野に入れています。日本のスタートアップがグローバルに成長していくモデルをつくりたいのです。それはアメリカのモデルとも、ヨーロッパのモデルとも違う、日本独自のモデルになると信じています。

ーーそのビジョンを実現するためにはどのような人材が必要だとお考えですか?

佐藤太紀:
私たちが求めているのは、グローバルな視野を持ち、新しいことに挑戦する意欲のある人材です。特に、お客さまとコミュニケーションをとり、そのニーズを吸い上げ、それを事業や開発に落とし込んでいく能力が重要ですね。また、弊社では、各自が自分の担当以外の業務にも積極的に取り組むことが求められるので、新しいことにチャレンジし、必要に応じて自ら学び行動できる人材を歓迎します。

そして何より、日本の技術で世界市場に挑戦するというToppLogicのビジョンに共感し、それを一緒に実現したいと思う人材を求めています。グローバルな舞台で、日本発のイノベーションを起こす。そんな大きな夢を私たちと共に追いかけてくれる仲間を待っています。

編集後記

佐藤CEOの言葉からは、日本の技術力への強い信頼と、それを世界で活かしたいという熱意が感じられた。トポロジカル物質という最先端の科学を社会実装につなげようとする同社の挑戦は、単なるビジネスの成功を超えて、環境問題や安全性向上といった社会課題の解決にも貢献しうる。日本のものづくりの未来を切りひらく同社の今後の展開に、大いに期待したい。

佐藤太紀/東京大学大学院工学系研究科・航空宇宙工学専攻・修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて、製造業を中心に6年間、マネジメントコンサルティングに従事。その後、産業用ドローンのスタートアップ企業にて、大企業向けの共同開発や共同事業の構築を実行。2021年11月、TopoLogic代表取締役CEOに就任。