
北海道札幌市に本社を構え、スマートフォンアプリ開発を核に、企業のDXを推進する株式会社インプル。特にクロスプラットフォーム技術「React Native」と「Flutter」においては国内トップクラスの実績を誇り、その技術力で多様な業界の課題解決に貢献している。
同社の代表取締役、西嶋裕二氏は医師を目指した過去から一転、IT業界に足を踏み入れた。現状維持を良しとせず、常に成長と変化を追求する。地方創生への熱い思いを胸に、生成AIなどの最新技術も積極的に取り入れながら、新たな価値創造に挑み続ける同氏に話を聞いた。
医師志望から未知のIT業界へ
ーーまず、起業前のご経歴についておうかがいできますか。
西嶋裕二:
高校時代は医師を目指しましたが、大学受験で希望の学部には進めず、理工学部の環境システム分野へ進学しました。しかし、面白味を感じられず、大学を中退。その後、働く必要に迫られる中、馴染みのあったコンピューターやプログラミングを活かせる道を探しました。そして、札幌のベンチャー企業「ソフトフロント」に採用されたのがキャリアの始まりです。
入社当時40〜50人規模だった「ソフトフロント」は、まさにベンチャーでした。2000年代初頭、インターネット黎明期です。面接で当時の社長から聞いた「テクノロジーは世の中を変える」という言葉は強烈でした。IT業界は活気に満ち、「ITで日本は再成長する」という気運に包まれていました。注目される企業で働けたことは楽しく、社長の言葉と共に私のITキャリアを決定づけました。
ーー起業に至るまでの経緯をお聞かせください。
西嶋裕二:
起業前に4社を経験したのですが、いずれもベンチャー企業でした。最大でも200人規模の会社で、どの企業も設立から間もない、急成長期にありました。プログラマーやSEとしてキャリアを重ね、最後に在籍した会社ではガラケーアプリ開発を担当しました。その際、お客様の金融機関から「独立するなら仕事を依頼したい」と後押しを受け、37歳で1人で起業するに至ります。
ーーそれまでのご経験は、現在の会社経営にどう活きていますか。
西嶋裕二:
組織文化の面では、以前働いていたベンチャー企業の自由な雰囲気が色濃く反映されています。服装は自由ですし、役職で呼び合うこともありません。私のことも皆「西嶋さん」と呼びます。これは20代、30代を過ごした会社の文化をそのまま受け継いでいる形です。
事業面では、4社とも他社が簡単には真似できない特定の技術やテクノロジーに特化していました。この「他がやらないようなもので差別化する」という考え方は、現在の事業戦略にも強く影響を与えています。
ーー組織が急成長する中で、特に意識されていることは何ですか。
西嶋裕二:
周囲の競合や市場は常に変化しています。そのため、現状維持は非常に難しく、成長を目指さなければ現状維持すらできないと考えています。下りのエスカレーターに乗っているようなもので、止まっているとそのまま下ってしまいます。歩いてやっと同じ位置を維持でき、さらに上に行くには走り続けなければなりません。
この考えを社員と共有し、共感してもらうことが重要だと考えています。そのため、採用ではスキルも大切ですが、それ以上に弊社の社風にマッチしそうかどうかを重視しています。具体的には、未知のことや未経験のことへのスタンスです。「やったことがないからやめておきます」ではなく、「面白いかもしれないからやってみよう」という挑戦的なマインドを持つ人を求めています。
スマホアプリ開発の最前線を突き進む技術力と独自性

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
西嶋裕二:
創業以来、ソフトウェア開発、特にスマートフォンアプリ開発に一貫して注力してきました。2011年の設立当時はスマホ普及の黎明期で、前職の経験を活かしスマホアプリ特化でスタートしました。現在では銀行の業務アプリからエンタメ系まで、幅広い業界・業種のアプリ開発実績があります。
大きな強みは、クロスプラットフォーム技術である「React Native(リアクトネイティブ)」と「Flutter(フラッター)」です。これらはiPhoneとAndroid両OSで動くアプリを効率的に開発できます。おそらく100人以上の規模でこれらの技術を専門に扱う会社は日本で弊社しかありません。開発実績は日本で一番だと自負しており、他社との明確な差別化ポイントです。
ーー近年、特に注力されている事業領域はありますか。
西嶋裕二:
これまではソフトウェアを「つくる」ことが中心で、お客様も大手IT企業様がメインでした。しかし現在は、スマホアプリ開発の強みはそのままに、開発会社から一歩進んだ挑戦をしています。お客様の組織課題や営業課題を解決するサービスを構築しています。これにより、課題をデジタル技術で解決する会社へと進化しようとしています。例えば、あるお菓子メーカー様では、オリジナル缶ボックスのオーダーメイドサービスで、従来手作業だった部分をウェブシステム化し、業務効率化と売上アップに貢献しました。
地方創生とAI活用で切り拓く未来
ーーなぜ地方での事業展開に力を入れているのですか。
西嶋裕二:
私は地方、特に北海道で事業を行うことに強いこだわりを持っています。東京は便利ですが、地方にはまだデジタルの伸びしろが大きく残されています。例えば、タクシー配車アプリも、地方の方がより必要性が高いかもしれません。地方のデジタル化を推進することで企業が成長し、地域経済の活性化につながると信じています。
現在は札幌が本社ですが、2025年8月には福岡県の北九州市にも拠点を設立します。北海道で培ったモデルを他の地方都市にも展開していく計画です。
ーー生成AIについては、どのようなお考えをお持ちですか。
西嶋裕二:
生成AIの進化は凄まじく、エンジニアの仕事を変えつつあります。しかし、これを脅威ではなく機会と捉え、積極的に活用することが大切だと考えています。具体的には、二つのことを目指します。一つはエンジニアがAIツールで生産性を向上させること。もう一つは、AIが人の作業を代替することを見据え、会社全体のアウトプットを増やすことです。
今年は全社員の総稼働時間の10%をAI導入で効率化し、実質110人分のアウトプットを目指します。5年後にはこの比率を90%に高めたいと考えています。そのためにAIの利用率をモニターし、勉強会やナレッジ共有など、専門担当者を置いて普及を推進しています。
ーー最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
西嶋裕二:
私たちは、北海道に根差し、スマホアプリ開発とDX推進を通してお客様の課題解決に貢献してきました。これからは北九州を足がかりに、さらに多くの地方都市の活性化にも力を尽くします。生成AIのような新しい技術も積極的に取り入れ、常に変化し成長し続ける組織でありたい。私たちの業界や未知への挑戦に興味のある若い世代にとって、魅力ある選択肢となれるよう努力を続けます。
編集後記
医師を目指した過去から一転、IT業界へ転身。西嶋社長の道のりは、偶然の出会いと自らの選択に導かれ、「テクノロジーで世の中を良くしたい」という純粋な思いに貫かれている。「現状維持は後退」と語るように、常に変化を恐れず挑戦を続ける姿勢。それは、先進技術への特化や生成AIの積極導入にも表れている。地方創生への熱意も強く、北海道から全国へとDXの灯を広げようとする株式会社インプルの今後の展開から目が離せない。

西嶋裕二/1974年生まれ。立命館大学理工学部環境システム専攻中退。株式会社ソフトフロントホールディングスなど4社のベンチャー企業にてプログラマーやSEとして、主に金融機関向けのモバイルアプリ開発に従事。2011年、37歳で株式会社インプルを設立し、代表取締役に就任。スマートフォンアプリ開発を強みとし、企業のDX推進や地方創生に貢献。「React Native」と「Flutter」開発においては国内有数の実績を持つ。