会社を引き継ぎ、経営課題に対する責任を負うというのは簡単なことではない。老舗金属加工メーカーである株式会社三進製作所の代表取締役社長である谷治元弘氏は、会社を継ぐにあたって大きな逆境を経験してきたが、数々の課題に正面から向き合って解決し、さらには会社を急成長させた。
どのように逆境を乗り越えてきたのか。会社という組織の根本を見つめ続けた谷治社長の手腕や人柄などを追った。
日本とタイの2カ国で金属加工に取り組む老舗メーカー
ーー貴社の事業内容を教えてください。
谷治元弘:
弊社は型押し(スタンピング)による大量生産と、精密板金(シートメタル)加工による少量多品種生産を手がける金属加工メーカーです。技術的にはプレス金型やレーザー加工機を使用したブランク(抜き)加工、曲げ加工、溶接、塗装、組立まで完成品に至るまでの一貫生産に対応が出来ます。
設立は1945年、埼玉県に本社機能、工場は新潟県と国内に二拠点、またタイにも現地法人があり日系企業を中心に取引を拡大しております。
「次期社長」という運命を受け入れ、会社経営に全力を尽くす
ーー谷治社長の経歴をお聞かせください。
谷治元弘:
我が家は私が幼いころから社員が頻繁に出入りしており、社員からは「次期社長」と言われていました。そのため、自然と「自分はいずれ会社を継ぐのだろう」と考えるようになり、その前提で進路を考えるようになりました。
とはいえ、自分の時間を大事にしたいという思いもあったので、大学卒業後は1年間シアトルへ留学に行き、知見を広げることに専念しました。
弊社に入社したのは1991年のことで、それから12年後の2003年10月にはタイへ渡りました。そして2009年に父の後を継いで三進製作所の社長に就任しました。
ーータイの現地法人ではどのような業務に取り組んでいましたか?
谷治元弘:
倒産寸前だった経営状況を立て直すことに注力しました。
私が社長に就任した当時、タイの現地法人は7年にわたる赤字が続いており、工場閉鎖、撤退も視野に入れなくてはならない状況に追い込まれていました。そこで海外留学経験がある私が当時の社長の特命により派遣をされたわけです。
タイ法人の立て直しで特に難しかったのは、言葉や文化の違いによるコミュニケーションの食い違いを理解することでした。前提となる価値観が異なるので、建設的な話し合いをしようにも、スタート地点がそもそも違っていたのです。
そこで私は「お互いの思いや考えを交換する」という視点でタイ語の習得に挑み徐々に現地スタッフとのコミュニケーションが採れる様になり相互理解を深める事に繋がりました。これが転機となり、仕事も少しずつ正常に回るようになっていったのです。
また、一番の得意先から「取引先の中で最下位の品質」と言われる致命的な品質の低さも課題でした。品質の改善には原因特定が急務だと思った私は、日々の課題を吸い上げる「デイリー会議」を始め、自ら指揮をとって徹底した対策に乗り出します。
そのかいあって品質は徐々に改善していき、3年後には得意先からベストサプライヤー賞をいただく逆転劇を見せるまでになります。さらに、就任当時、約6億円あった借金返済も完遂し、無事タイ法人の立て直しを終えることができました。
細やかな仕組みを各所に取り入れ、組織の成長を促す
ーー会社を効率的に運営するために力を入れていることを教えてください。
谷治元弘:
議題をスパンの違いによって分けた「4段階会議システム」により、経営状況の客観視に力を入れています。
4段階会議システムは、日ごとの課題を吸い上げる「デイリー」と、週の進捗や品質状況を確認する「ウィークリー」、その月の品質や納期などをまとめる「マンスリー」、中期経営計画に対する達成率を確認する「クオータリー」から成っています。
これらに継続して取り組むことで、弊社の現在地を把握して総合的にマネジメントできるようになりました。おかげで4段階会議を始めてから利益が右肩上がりに成長しました。
ーー会社の経営において大切にしている考えを教えてください。
谷治元弘:
ボトムアップ型とトップダウン型の両方の良い部分を併用した「バランス型経営」を大事にしています。
会社に一体感を持たせつつ成長させていくには、ボトムアップ型経営で組織課題の発見や意見の吸い上げに取り組みつつ、トップダウン型経営を活用して明るい社風をつくっていくことが大切です。
社風においてトップが担う役割は大きいものです。トップが明るく前向きな雰囲気でいれば、それは部長や課長を経由して組織全体へと伝播していくのです。
弊社ではこれらの考えのもと、チームで工場全体を統括する「マネジメントチーム制度」や改善提案にインセンティブを出す「改善提案制度」などに力を入れています。
「全員参画型経営」の考えのもと、楽しく夢のある経営を目指す
ーー今後、注力していきたいテーマを教えてください。
谷治元弘:
まず急務だと感じているのが、時代のニーズを踏まえた柔軟性のある事業展開です。弊社は過去に時代の変化に対応できずに工場を閉鎖した失敗を経験しています。この出来事を繰り返さないよう、将来性のある事業にアンテナを張り、デジタルや環境といったニーズにマッチしたテーマに注力していきます。
少量多品種生産の強化も重要な課題です。少量多品種生産は一つひとつのニーズは少なくとも、幅広く対応すればまとまった売上になります。タイではこの分野で過去10年で売上が10倍近く伸びております。日本も含め注力し業績向上に励みます。
また、製造メーカーの憧れであるオリジナル製品も実現したいところです。製造ノウハウや生産設備は十分にあるので、夢をかなえる気持ちで弊社ならではの価値創造に取り組んでいきます。
ーーこの記事の読者にメッセージをお願いします。
谷治元弘:
人生は一度きりなので、仕事をするなら楽しくやりましょう。そもそも私は、つまらないことは無理に続けるべきではないという考えです。それでも続ける理由や価値があるのなら、仕事が面白くなるようにやり方を変えてもよいのではないでしょうか。
日々の仕事の中で社員が楽しさを感じることができ、その上で成長を実感できてこそ、会社の存在価値が高まるというものです。
社員皆が楽しく仕事に参加できる「全員参画型経営」で会社を盛り上げていきますので、製造業に興味がある方はぜひ弊社にご参加ください。
編集後記
経営課題の「仕組み」による解決とは、会社のあり方自体に変革を及ぼすことだ。それだけに効果は大きいが、根本的な手法だけに難易度は高い。谷治社長による挑戦は三進製作所をどこまで成長させるのか。今後もその手腕に注目したい。
谷治元弘/1968年、東京都生まれ。1990年、上智大学経済学部経済学科卒業。1991年に株式会社三進製作所に入社し、2003年にSanshin High Technology(タイ)の代表取締役社長に就任。2009年に三進製作所の代表取締役社長に就任。